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「社会通念」を理由とした犯罪被害者給付金不支給の判決に、各方面から厳しい批判の声が上がっています

2020年06月06日

 名古屋地裁が「社会通念」を理由として同性パートナーの犯罪被害遺族給付金支給は認められないとの判決を下した件に対し、この日の夜、「名古屋・犯罪被害者給付金裁判 オンライン報告会」が緊急開催され、裁判を担当した堀江弁護士やMARRIAGE FOR ALL JAPANの寺原弁護士の方から問題点を詳しく解説していただきましたが、その後も、法曹界を含め、様々な方面から異論(同性パートナーの権利を支持する声)が上がっています。
 
 一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは6月5日、Yahoo!に「差別が無限ループする詭弁。地裁「同性パートナーを事実婚と認めない」判決の問題点は」という記事を寄稿し、「「社会通念」という名目のもと、司法が積極的にマイノリティを差別する極めて不当な判決だ」と厳しく批判しました。
 同性パートナーシップ証明制度は性的マイノリティへの理解を広げるための施策なのだから、理解を広げる必要があるということは社会に理解が広がっているとはいえない、つまり「社会通念が形成されていない」という論理は「明らかに詭弁」であり、このような理屈で犯罪被害者給付金の対象から同性パートナーを外すのは「無限ループのよう」だといいます。
「さらに言えば、裁判所は性的少数者に対する「差別がある」ということは認めているにもかかわらず、差別をしている側の「多数派の認識」が変わっていないから、マイノリティの権利を認めることはできないという判断をしている。これは裁判所が差別へ加担しているといっても過言ではないのではないか」

 NPO法人パープル・ハンズ事務局長で行政書士の永易至文さんも同日、BuzzFeed Japanに「同性パートナーの犯罪被害給付金訴訟 「残酷判決」を受け止め、投げ返すために」という記事を寄稿しました。今回の判決は「判例史に別の意味で語り継がれるべき不当な判決であり、判決を待っていた原告はもとより、多くの当事者が、われわれは社会通念で差別されてもしかたがない人間と裁判所によって認定されたのかと、深い悲しみや憤りを感じた「残酷判決」」であるとして、これを受け止め、投げ返すための知識として、「日本では明治以来、事実婚の配偶者保護が確立している」「救済のための法律では、少しでも多くを救済するのが立法の趣旨である」「「社会通念」なるものを理由とした棄却は、司法の判断放棄、役割放棄である」ということを解説しています。
 また、「国民(市民)の理解が得られていない」という言い訳がいかに行政が性的マイノリティ施策を「やらないための理由」とされてきたかという事例をいくつも挙げて、「社会通念」が「自身の差別性を隠し、判断回避するためのマジックワード」であることを指摘しました。
 さらに、歴史的な「府中青年の家」訴訟の「当時は一般国民も行政当局も、同性愛ないし同性愛者については無関心であって、正確な知識もなかったものと考えられる。しかし、行政当局としては少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理(きめ)の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されている。このことは、現在ではもちろん、平成二年(事件)当時においても同様である」という高裁判決(1997年)を紐解き、「この判決はそのまま、現代においてなお社会通念を言い訳に同性パートナーの救済について判断回避した、怯懦な角谷昌毅裁判長へのするどい批判となっているのではないでしょうか」と述べています。

 新聞などメディアのニュースの多くは、判決に批判的(同性愛者の権利に対して支援的)でしたが、なかでも、信濃毎日新聞は6月6日、「遺族給付金訴訟 差別をまだ放置するのか」という社説を掲載し、「差別容認につながる看過できない判決だ」「法の趣旨をないがしろにしている」「重視すべきは、憲法に定められた基本的人権の尊重である。それに反する社会制度を改めるのが、司法の役割のはずだ」「社会通念は裁判所の判断でも形成されていく。人権にかかわる判断基準を、裁判所が社会通念に求めるのは責任放棄ではないか」と厳しく、的確に追及していて、熱いものがありました。

 日本の司法の問題点を鋭く追及し、「ブリーフ裁判官」としても人気の岡口基一さんは、自身のBLOGに「間違いなく存在しているのに、存在を否定されてきた人たち」という記事を投稿しました。今回は「事実婚」にも認められる権利が問題となっているのであり、「婚姻」の問題ではないので、同性カップルの関係について「婚姻と同等の関係だという社会通念が形成されていない」という理屈は「問題のすり替え」である、と指摘しています。「いやいや、社会通念の問題じゃないんです。実際に存在しているんですから」「これまで、存在を認めてこなかったのが問題なのです」「そして、今回の判決は、またしても、その存在を認めないとしたものなのです」「なんてひどい話でしょう」
 
 最後に、弁護団の一員である山下敏雄弁護士のTwitterでの投稿をご紹介します。高裁(二審)は絶対に勝とう、みんなで頑張ろうと思えるようなお言葉です。
「私が弁護団長を務めた「GID(性同一性障害者) 法律上も父になりたい裁判」も、一審・二審は本当にアンポンタンな結論でしたが、最高裁で逆転勝訴をすることができました。その裁判で最高裁での逆転勝訴ができたのは、当事者の前田良さんと家族がおかしいことに「おかしい」と諦めずに闘い続けたことに加え、多くの皆さんが「この家族が家族として守られないのはおかしい」と声を上げて支援してくださったからこそでした」
「昨日の報道後、LGBT当事者・支援者はもちろんのこと、法律家や学者の方々も、そして広く多くの皆さんが、「この判決はおかしい」と声を上げて下さっています。そのことを弁護団一同、本当に心強く思っています。控訴審で逆転できるよう、ぜひ皆さんと力を合わせていきたいと思います」

 裁判は地裁(一審)で終わりではなく、高裁(二審、控訴審)、最高裁と上がっていきます。その間にそれこそ「社会通念」も変わるかもしれませんし、同性婚も認められる世の中になっているかもしれません。とてもひどい、やりきれない気持ちになる判決ではありましたが、僕らも、諦めずに、原告の内山さんや、弁護士の皆さんを見守り、応援していきましょう。
 

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