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ローマ教皇フランシスコがシビルユニオンによって同性愛者の権利が保護されるべきだと語りました

2020年10月22日

 ローマ教皇フランシスコが「同性愛者は神の子であり、家族を持つ権利を持っている」として、シビルユニオンの制定によって保護されるべきだと語ったことが10月21日、明らかになりました。歴代のローマ教皇は一貫して同性婚に厳しく反対してきましたが、同性カップルの権利の法的保障を支持したのはフランシスコ教皇が初めてで、歴史的な出来事です。

 
 フランシスコ教皇は、ローマ国際映画祭で上映されたエフゲニー・アフィネフスキー監督のドキュメンタリー映画『Francesco』の中で「同性愛者は神の子であり、家族を持つ権利(a right to be in a family)を持っている。見放され、惨めな状況になることはあってはならない」「シビルユニオン法の制定が必要だ。それにより彼らは法的に保護される。私はこの法律の施行を擁護してきた」と語りました。教皇はまた、自分は同性カップルの権利のために「立ち上がった」とも述べています。これは、フランシスコがブエノスアイレス大司教であった時代に、同性婚までは賛成しませんでしたが、シビルユニオンは支持していたことを指していると見られています。教皇がゲイカップルに対し、彼らの3人の子どもたちと一緒に教会へ来るよう勧めるシーンもあったそうです。

 カトリック教会では長年、同性愛はタブーであり、同性婚を認めず、アメリカなどで同性婚合法化の動きがあると、それを阻止するロビー活動を行ない、カトリック教徒らに反対するよう働きかけを行なってきました。そのため、同性愛者であると自認する信者の苦悩は甚大で(『ダウト ~あるカトリック学校で~』などの映画にも描かれている通りです)、信者が教会を離れる一因ともなってきました。
 2019年のピュー研究所の世論調査によると、アメリカのカトリック教徒の61%が(教会の公式教義に反し)同性婚を支持するようになっています。
(また、カトリック教会の多くの神父たちが少年を虐待してきた実態も明らかにされ、批判が噴出しています。映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』にも詳細に描かれています)

 フランシスコ教皇は2013年に就任した直後、同性愛の聖職者についてどう考えるかを聞かれて「誰かがゲイで、そして彼が神を求めているのであれば、それは私がどうこう言うべきことではありません」と答えています。2014年には同性愛者を受け容れるべきだとの見解を公に示しました。
 そして今回、フランシスコ教皇は一歩踏み込んで、同性カップルの権利を擁護するため、シビルユニオンの制定が必要だと述べました。中世以来の歴代の教皇のなかで同性カップルの権利の法的保障を支持したのはフランシスコ教皇が初めてで、教会史に残る歴史的な事件と言えます。世界13億人の信者を抱えるカトリック教会に大きな影響を与えることになるかもしれません。

 このニュースは世界中を駆け巡り、様々なLGBTQ支援団体が歓迎の意を表明しています。
 LGBTQカトリック信者団体「ディグニティUSA」のエグゼクティブ・ディレクター、マリアンヌ・ドュディ・バーク氏は、「教皇のコメントはLGBTQIの人たちの平等のための大きな一歩になるでしょう」と述べ、教皇の発言が世界中に影響を与える可能性があるとの期待を示しました。「この発言によって、LGBTQIの受容を阻む世界中の障害物を取り除くことができます。特に、LGBTQIが差別や暴力にさらされている場所においては」
 ヒューマン・ライツ・キャンペーンのアルフォンソ・デイヴィッド代表も、「発言は、カトリック教会のインクルージョンと寛容のための素晴らしい一歩。そして、LGBTQのカトリック教徒に、信者であることと性的マイノリティであることは矛盾しないと伝えました」とコメントしています。

 また、米民主党全国委員長などを歴任してきた政治家のハワード・ディーン氏は、「私はこの教皇が好きです。この発言には多くの勇気が必要であり、バチカンでは教皇に対し政治的なナイフが突き付けられていることでしょう。これは、キリスト教の思いやりの真の行為であり、カトリック信者だけでなく、すべてのキリスト教徒のための模範となるものです」と称賛しています。
 
 一方、教会内ではたちまち反発の声が上がりました。
 米ロードアイランド州のトーマス・トビン司教は「教皇の発言は、教会がこれまでずっと教えてきたことと矛盾する」と述べました。
 米サウスダコタ州のダリン・シュミット教区司祭は「教皇には人間の家族に対する神の計画に挑戦する権限はない」とツイートしています。
 
 教皇の動向を追ってきた女性作家のマイケ・ヒクソン氏は教皇が異端とみなされるリスクがあると語っています。
「公の場で話した教皇の発言は、どんなものでも恐ろしいほどの重みがあります。教会の教義は不可逆的な、聖典から導き出された教義ですが、教皇の今回の発言は、教義に抗する姿勢を明らかにしています。教皇は発言を直ちに撤回すべきであり、さもなければ異端者だと疑いをかけられることになるでしょう」
 
 また、BBCのマーク・ロウェン記者は、教皇ははっきりと同性愛者の権利について言及したものの、カトリック教会の教義自体が変更される兆しはないと指摘しました。同性愛など重要な事柄について教義を変更するには、内部で議論した後、「回勅」と呼ばれる文書に記される必要があるそうです。
 
 シビルユニオンは、同性カップルに相続や遺族年金など、男女の結婚とほぼ同等の権利を認める同性パートナー法(準同性婚的な法制度)ですが、結婚とは区別されます(今回のニュース記事の中には同性婚と混同する記述も散見されました)。逆に言うと、現在同性婚を認めているような多くの国でも、カトリック教会のようなキリスト教保守派が「神聖な」結婚をどうしても同性愛者に対して認めたくないと反対していたこともあって同性婚が認められず、シビルユニオン止まりの時期が続いたという歴史的経緯があります(イタリアなどでは未だにシビルユニオン止まりです)
 なお、フランシスコ教皇も、同性婚までは認めていません。
 
 世界のカトリック主要国を見渡してみると、ベルギー、スペイン、フランス、ポルトガル、アイルランド、オーストリア、マルタ、アルゼンチン、ブラジル、コロンビアなどではすでに同性婚(結婚の平等)が実現しています。イタリア、チェコ、ハンガリーなどではシビルユニオンが認められています。どちらも認められていないのは、ポーランド、スロバキア、リトアニアなど東欧の国々やフィリピンなどで、比較的少数です。このことは、カトリック教会の態度がどうであれ、同性カップルの権利保障を求める運動は進んできたし、社会は教義の壁を越えて「神聖な」結婚を同性愛者に認めてきたということを示しています。今回の教皇の発言によって、未だに同性パートナー法がない国で権利保障が進むかというと、さほど後押しにはならない(それよりは、その国の政治状況に左右される)と見る向きもあるでしょうし、その国のLGBTQコミュニティを大きく勇気づけ、同性婚推進運動に勢いがつくだろうと見ることもできるでしょう。
 少なくとも、今回の教皇の発言は、同性愛者が自身の信仰とセクシュアリティの矛盾に苦悩することが減ったり、ポーランドのような同性愛者差別が激しい国の当事者を勇気づけたりすることにつながるでしょうし、そういう意味で、とても素晴らしく、意義深い、エポックメイキングな出来事でした。時代が大きく動いた感、世界が変わる兆し、未来への光、といった象徴的な意義はたいへん大きいと言えるでしょう。
 


参考記事:
同性愛者も「家族持つ権利」 婚姻に準じた法整備を―ローマ教皇(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020102200287
ローマ教皇「同性婚の権利保護を」 歴代初の見解(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65329890S0A021C2FF2000/
ローマ教皇、同性カップルの法的保護を支持 「家族になる権利ある」(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/54628101
同性カップルに法的保護を、ローマ教皇が明確な擁護発言(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/idJPL4N2HD03J
「同性愛者には家族になる権利がある」。フランシスコ教皇が、同性カップル家族は法的に守られるべきだと発言(ハフポスト日本)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/pope-francis-civil-union_jp_5f90eb6bc5b66d4a0dbbf1cc
LGBTQにも「家族持つ権利」-ローマ教皇がシビルユニオン支持(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-10-22/QIK7I2DWX2PZ01
ローマ教皇がLGBTQの「家族を持つ権利」を支持、タブーに反発の発言(Forbes Japan)
https://forbesjapan.com/articles/detail/37721
教皇フランシスコ、同性愛者の「シビルユニオン」支持を明言 歴代教皇初(クリスチャントゥデイ)
https://www.christiantoday.co.jp/articles/28663/20201022/pope-francis-endorses-civil-unions-for-same-sex-couples.htm

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