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【一橋大学アウティング裁判】二審判決についてLGBT法連合会が「今回の判決をもって一橋大学が何ら対応を講じないことは断じて許されることではない」との声明を発表しました

2020年11月27日

 11月26日、LGBT法連合会は、転落死した大学院生の遺族の控訴を退け、大学側に安全配慮義務等の瑕疵がないものとした、一審の判決を支持した東京高裁の判決を「極めて遺憾である」「今回の判決をもって一橋大学が何ら対応を講じないことは断じて許されることではない」とする声明を発表しました。
 
 25日、判決の後で行なわれた記者会見で、遺族側代理人の南和行弁護士は「ご家族が控訴審で強く望んでいたのは、今回のアウティングが不法行為であると、ちゃんと認めてもらいたいということでした。それを裁判官が文字にしたこと、アウティングは不法行為であると認定してくれたことに敬意を表したいと思います」と語りました。亡くなったゲイの学生(Aさん)のお父様は「訴訟を起こした当初と比べたらだいぶ時代が変わってきた」と、お母様は、胸を詰まらせながら「(この事件が一橋大の)授業で伝えられるときが来るんじゃないかと思っています。そう願います」「息子のように命を落とすことなく、性的少数者が相談でき、差別なく生きていけるようになってほしい」と、妹さんは「一橋大学は兄が高校生の時から、その場で学ぶことを夢見た大学でした。『人を助けたい』と法律家を目指し、法科大学院でその夢がやっと叶いかけたところでした」「いま、一橋大学に在籍している学生や卒業生の方、教職員の方々も、少しずつ学校をより良いところにしようと活動してくださっています。一橋大学には、その芽を摘むことなく、誰もが安心して学べるような大学になってほしいと思います」と語りました。
 判決では大学側の責任は不問とされ、損害賠償も棄却されただけに、ご遺族の方のこうした言葉が本当に切なく心に沁みわたり、涙を誘います。
 
 一方、一橋大は以下のコメントを発表しました。
「亡くなられた学生のご冥福をお祈りし、遺族の方々に弔意を表します。本件につきましては、裁判において、事実に基づき、大学側の立場を明らかにして参りました。本学と致しましては、引き続き、学内におけるマイノリティーの方々の権利についての啓発と保護に努めて参ります」
 
SNS上では「なに、この木で鼻をくくったようなコメント! 一橋大学当局は本当に人を馬鹿にしている」といった声が上がっています。
 
 一橋大の卒業生で、悲しい事件を二度と起こさないために、キャンパスをLGBTQの学生や職員にとって安全・安心な場所に変えるための環境にしたいと活動する卒業生有志のネットワーク「PRIDE BRIDGE(プライドブリッジ)」を設立した松中権さんは、「まずは『棄却か』と落胆しました。でもその後に『アウティング』という言葉が判決でも使われ、さらに『許されないこと』と明確に言われた。決して『嬉しい』とは言えませんが、この事件をきっかけに、確かに社会が変わり始めていると感じました。判決はショックで悲しいけれど、前を向く一歩になる言葉があったことはよかった」と語りました。
「判決では、今回の事件に大学側の責任はなかった。つまり、やるべきことは他に何もなかった。納得できませんがそういう判決でした。では、誰が何をしていれば、彼が亡くなることはなかったのか。それは大学やアウティングしてしまった同級生だけでなく、誰もが考えなくてはいけないこと。社会は変わったが、一橋大は裁判の中では変わらなかった。それでも、今後の一橋大が変わっていくことに、期待するしかないと思います」
 同団体が一橋大で2019年に行なった寄付講座には、500人の学生の履修登録があり、必修科目ではない授業の中で最多の履修登録人数だったそうです。
「こんなに大勢の学生が、聞きたいと思ってくれた。学校の中に、アウティングの違法性やLGBTQの人権や、性自認・性的指向に関する学びの場所があることは、とても意味があることだと思います。大学やアウティングをした学生以外にも、彼が亡くならないためにできることが必ずあったはず。それを、500人が学んでくれたことはとても大きいと思います」
 
 そして26日、LGBT法連合会が声明「一橋大学アウティング事件の高裁判決について」を発表しました。
「アウティングが人格権やプライバシー権の侵害であると明らかにされたことは一定評価できるものであり、被害者学生から加害者学生への恋愛感情の告白が、アウティングを正当化する事情とは言えないとしたことも、告白と加害行為を切り分けて考えるという基本的な事項が確認されたものとして一定評価できる。
 判決では、被害学生に対する大学の対応について、不合理なものとは言えないとして遺族側の訴えを退けている。しかしながら、アウティングというハラスメントを受けた被害者の精神状況を十分に踏まえた上で、大学側の対応を吟味したものなのかについては、疑義を持たざるを得ない。被害者が適切な支援を受けることができていたかどうかを十分に斟酌できなければ、今後も同様の事件が起き得ると危惧する。
 さらに、一部報道機関によれば、遺族側は大学側との和解協議において、謝罪や賠償を要求せず、アウティングについての学内の啓発や再発防止を提案したものの、大学がこれを受け入れなかったとされるが、報道通りであれば今回の判決をもって一橋大学が何ら対応を講じないことは断じて許されることではない。
 2020年11月13日に文部科学省は、改正労働施策総合推進法に基づく、性的指向・性自認に関するハラスメントやアウティングを含むハラスメント対応について、同年3月26日に文部科学省から事務連絡も出ているにもかかわらず、各大学の規定の整備状況に不備が散見されることから、全国の各大学の長に対して、適切な対応を取るよう通知している。今回のケースは学生間の事件であり、直接的に同法に関係するわけではないが、学生間の事案に対する対応の基準と、教職員間、教職員と学生間のハラスメント対応の基準に隔たりがあることは運用上合理的ではなく、これらを同様に取り扱っている機関も見受けられる。今一度法に基づく範囲はもとより、関連する対応も含めて、規定やそれに基づく取り組みに不備がないか、点検が必要となることを併せて指摘したい。
 関連して、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構は『大学機関別認証評価 大学評価基準』(2004年10月(2018年3月改訂))において、学生支援に関する基準4−2として「ハラスメント等に関する相談・助言体制等が整備され」ているか否か等を判断の指針として明示している。学生をはじめ構成員だれもが、アウティング被害を受けることなく安心して勉学・業務に打ち込める環境の整備は、公的支援を受ける大学の使命・社会的責任として必須事項であることを、重ねて指摘する。
 当会は、二度とこのような事件が起こることのないよう、学生間のハラスメント被害が救済対象となる法整備の必要性を強く訴えるとともに、全力で取り組みを進めていく。同時に、全国の大学をはじめとする関係各所にも対応を求めるものである」
 理路整然と、しかし、人としての正当な怒りをにじませながら「今回の判決をもって一橋大学が何ら対応を講じないことは断じて許されることではない」と訴えるこの声明は、やりきれない気持ちを抱きながらも半ばあきらめかけていた人々の心に再び「炎」を灯させるような、熱いものがありました。
 
 最後に、亡くなったAさんと同年代で、同じ出身地、そして同じゲイで、アウティングされた経験も持ち、裁判について報道で知ってから4年間、他人事とは思えずこの事件を追ってきた松岡宗嗣さんのコメントをお伝えします。
「なぜAさんは亡くならなければならなかったのか。裁判を傍聴する度にその想いが強くなる。
 今日、判決後の記者会見でAさんの母は私に、大粒の涙をためながら「生きよう」と伝えてくれた。
 二度と同じような事件が起こらないよう、この社会から性的マイノリティに関する差別や偏見がなくなる日まで、この事件を風化させず語り続けていきたい」

 

参考記事:
「アウティングは不法行為」しかし遺族の請求は棄却。一橋大学アウティング事件裁判が終結(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20201125-00209550/
アウティングは「人格権侵害」 大学への賠償請求は棄却(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASNCT62WMNCTUTIL02Z.html
一橋大生の同性愛暴露訴訟 裁判長「アウティングは許されない行為」 遺族の請求は棄却 東京高裁(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/70469
アウティング「許されない」東京高裁判断 遺族「大変うれしく思う」 一橋大訴訟(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20201125/k00/00m/040/313000c
ゲイだと暴露「許されない行為なのは明らか」 一橋大学アウティング事件、遺族の控訴は棄却(BuzzFeed)
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/hitotsubashi-outing-20201125
アウティングは「許されざる行為」の判決に、遺族は「一つの成果」【一橋アウティング訴訟】(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fbe1b8cc5b66bb88c629ec5
「同性愛者と暴露、許されない」判決に明記 一橋大アウティング控訴審、遺族敗訴も「再発防止の基礎になる」(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_18/n_12047/

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