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介護対象者の範囲の拡大を「同性パートナー」ではなく「同一の世帯に属する者」と定める都条例改正案に、同性パートナーを持つ都職員が抗議の声を上げました

2020年12月04日

 東京都が都議会に提出している職員の介護休暇に関する条例の改正案について、同性パートナーを持つ都職員の方たちが東京都に抗議書面を提出しました。
 東京都では五輪に向けた人権尊重条例でLGBT差別を禁止していますが、未だに都として同性パートナーシップ証明制度も実現しておらず(今年3月の都議会総務委員会で、都人権部長が「婚姻関係のあり方そのものにかかわるものであり、広範な国民的議論が必要な課題」と繰り返し、消極的な姿勢を見せました)、都営住宅にも入居できず(担当課は「検討中」と答えたそうですが、未だに改善の兆しはありません)。昨年、同性パートナーを持つ都職員の方たちが都職員に対する各種福利厚生制度について婚姻関係(事実婚含む)にある職員と同等に認めるよう改善を求めましたが、今年7月、この要求が却下され、批判の声が上がり、9月29日の都議会定例会で小池都知事がパートナーが同性である都職員にも慶弔休暇や介護休暇などを適用するよう「検討を進める」と回答していました。しかし、11月に都議会に提出された介護休暇に関する条例改正案には、介護対象者の範囲の拡大を「同性パートナー」ではなく、「同一の世帯に属する者」(あとで詳しくお伝えしますが、ほとんど「同居人」と同じです)と書かれていました。実際の同性カップルは住民票上「同一世帯」としている方たちは少ないと見られ、実効性に乏しいだけでなく、この条例文では、東京都は同性パートナーを家族と認め、平等に扱うつもりがなく、逆に同性カップルをただの「同居人」だと貶め、尊厳を傷つけることにほかならないとして、今回、当事者の都職員の方たちが声を上げたのです。

 12月3日、都庁記者クラブで記者会見が開かれ、同性パートナーを持つ都職員の方3名(同性パートナーを持つ都職員への福利厚生の平等な適用を求めてきたTさんとSさん、そして公立学校の教員であるOさん)と、上川あや世田谷区議、代理人弁護士の上杉崇子氏が会見に臨みました。
 最初に、上杉弁護士から「抗議及び要望書」について説明がありました。少々複雑な内容でもあり、抜粋によって誤読を招くことも考えられるため、今回の問題点ができるだけ正確に伝わるよう、長いですが、9割方そのまま転記します(文末やわかりづらい用語などは変えています)
 
抗議及び要望書

趣旨
「抗議及び要望書」は、11月30日に提出された「議員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例の一部を改正する条例」の改正案および「学校職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例の一部を改正する条例」の改正案で同性のパートナーを要介護者に規定しなかったことに抗議するとともに、配偶者の定義を現行の「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)」から「配偶者(異性であるか同性であるかは問わず届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものを含む)」に改めること、勤務時間、休日、休暇等に限らず、都職員の福利厚生に関する処遇の全般について、同性パートナーを持つ職員を婚姻関係(事実婚含む)と同等に扱うことを実現するような関係条例・規則の改正を求めるという趣旨です。

都への質問
①要介護者の範囲を拡大する本件改正案に、同性のパートナーを含めなかったのはなぜか
②改正案の「同一の世帯に属する者」※とは具体的にどのような者を意味するのか
③現行の「配偶者」には、届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者も含まれる。事実上婚姻関係と同様の事情にありながら現状、届出をしても婚姻が認められない同性カップルを「配偶者」に含めないのは、パートナーが同性である場合、保護の必要がないということか
④「配偶者」の定義に同性パートナーと謳うことをしなくとも同性パートナーを要介護者とする規定の仕方は可能であるにもかかわらず、それをしないのはなぜか
という4つが質問として挙げられました(受領後10日以内の回答を求めています)

※世帯とは「住居及び生計を共にする者の集まりまたは独立して住居を維持し、もしくは独立して生計を営む単身者」のことです(厚労省の定義)。住所だけでなく「生計を共にする」というところがポイントです。共に暮らしている同性カップルの多くは、住民票上は別世帯にしているのではないかと思われます。同居はしていても財布は別々にしていることが多いでしょうし(住所が同じでも生計が独立していて2人ともが「世帯主」で届けた場合、別世帯です)、また、役所で同性カップルであるとカミングアウトすることのハードルの高さもあります。なお、この日の上川区議の説明によると、東京23区で同性カップルが同一世帯として認められない区はないそうですが、住民票に同一世帯であると記載する場合、1人は世帯主、もう1人の続柄は「同居人」になってしまうそうです(外国籍で同性婚している住民の場合、「縁故者」の表記が認められるそうです)

理由
 以下の4つが理由として挙げられています。
1. 改正案に同性のパートナーが規定されていない
 改正案は、職員の介護と仕事の両立を支援するため、介護休暇等の対象となる要介護者の範囲を拡大するために提出されましたが、要介護者は配偶者または二親等以内の親族という規定を「同一の世帯に属する者」にも拡大するという内容で、「同一の世帯に属する者」の定義が不明確で(住民票上?)、同性パートナーが包摂されているとは言えない、これでは同性カップルは支援しないと言っているに等しいです。
2. 同性パートナーを要介護者に含める改正は容易であり、すでに他の自治体や企業で行なわれている
(1)「配偶者」の規定を「配偶者(異性であるか同性であるかは問わず届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものを含む)」と読み替えることで容易に改正できます。例えば千葉市では「職員と性別が同一であって、当該職員と婚姻関係と異ならない程度の実質を備える社会生活を営む関係にある者として市長が認める者」と、大阪市では「当該職員と性別が同一であって当該職員と婚姻関係と異ならない程度の実質を備える社会生活を営む関係として任命権者が定める関係にある者及びその者の父母及び子」と定められています。
(2)現に、茨城県、鳥取県、千葉市、大阪市といった自治体で、休暇取得等の福利厚生制度を同性パートナーを有する職員に適用する取組みが実現しています。
(3)さらに、労働者の性的指向・性自認(SOGI)にかかわりなく福利厚生制度を均等に処遇する取組みが、民間企業・団体等では加速度的に進んでいます。例えば、日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」では、推奨される取組みとして、「社内の人事・福利厚生制度を改定し、配偶者に適用される福利厚生を同性パートナーにも適用する等、LGBTに配慮した社内制度を整備」することが挙げられています。また、日本労働組合総連合会「性的指向及び性自認(SOGIに関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」では、「福利厚生や休暇に関する課題福利厚生や休暇については、主に同性カップル、もしくは性自認に困難があり異性愛カップルではあるものの戸籍上の性別が同性カップルなどの場合、制度上の問題点が指摘されています。例えば、両立支援制度や、慶弔休暇、各種手当などの取得や受給要件として、対象が「親族」「養育」「女性」等とあげられる場合があります。性的指向や性自認の多様性については必ずしも想定されておらず、取得や受給の対象から排除される事態が生じています。既存の福利厚生制度を性別、性的指向、性自認に関わらず中立な制度としていく必要があります」と明示されています。
3. 仮に「同一の世帯に属する者」に同性のパートナーが含まれるとしても、実効性がないばかりか、同性カップルの尊厳を踏みにじる扱いである
(1)本件改正案の「同一の世帯に属する者」に同性のパートナーが含まれるという考えがあるとしたら、見当違いも甚だしいと言わざるをえません。
(2)まず、「同一の世帯に属する者」が住民票上、同一の世帯に属する者を意味するとすれば、実効性は極めて低いです。なぜなら、LGBTQに対する偏見や差別意識が根強く残っている社会情勢の中で、当事者の多くは自らの性的指向・性自認を他者に明らかにせず(カミングアウトができず)、隠したままで生活することを余儀なくされています。そのため、たとえ同性カップルが同居して共同生活を営んでいても、同性カップルであることが明らかになるのを避けるために、住民票の世帯を同一にせずに別世帯としているのが通例であると推測されます。そうすると、同性のパートナーは、形式的には「同一の世帯に属する者」に該当しないことになります。
(3)次に、上記の問題はさておくとしても、パートナーであるにもかかわらず、パートナーではなく「同一の世帯に属する者」と定義されることは、その実態に乖離するものであるばかりか、同性のパートナーを異性のパートナーと同等とはみなさないとの意思表明に等しいと言えます。厚労省の国民生活基礎調査の用語の説明によれば、「世帯」とは「住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持し、若しくは独立して生計を営む単身者」のことを指し、親族関係は不要です。この要件にあてはまれば友人どうしでも居候であっても同一世帯になりえます。つまり、本件改正案が介護者の範囲を拡大する「同一の世帯に属する者」とは、言ってみれば「同居人」と同義です。逆に言えば、同性パートナーが友人どうしや居候等の関係性と同列の扱いを受けることになるのです。このことは、同性パートナーを持つ職員に向かって「あなたがパートナーと呼んでいる相手を異性のパートナーと同等に扱うことはできないが、同居人として要介護者に入れてあげましよう」と宣言することにほかなりません。このような扱いは、東京都の性的指向・性自認の尊重の理念に反したものであって、当事者職員の尊厳を蹂躙するものであると言っても過言ではありません。
4. 小池都政のLGBT関わる施策と大きく矛盾する
(1)「国際金融都市・東京」構想でのLGBTに関する提言
 都は、2017年11月に発表した「国際金融都市・東京」構想で、現状、日本人の同性外国人パートナーには「配偶者等」の在留資格が付与されず、カップルで安定的に日本に在留できないという問題があるため、同性外国人パートナーに特別な在留資格を創設するよう国に提案しています(同性カップルの権利保障に資するものとして評価できます)
(2)東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例
 都は2018年10月、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例を制定しました。性的指向を理由としたあらゆる差別禁止が規定されているオリンピック憲章の理念を実現するため、同条例では第二章に「多様な性の理解の推進」を位置づけ、第3条で性的指向及び性自認を理由とする不当な差別解消を図ること、第4条で都、都民及び事業者に対し、性自認及び性的指向を理由とする差別的取扱いを禁じることが明記されている。また、同条例に基づき、2019年12月には「東京都性自認及び性的指向に関する基本計画」が策定され、事業者等を対象とした取組みとして、啓発冊子を配布することや企業の人事・採用担当者等を対象とした無料の研修を都が実施することなどが示されました。
(3)「職員のための性自認及び性的指向に関するガイドブック」
 2020年3月、都は、上記条例を受けて、都職員向けに「職員のための性自認及び性的指向に関するガイドブック」を発表。冒頭の「東京都職員からはじめよう」のページでは次のように書かれています。
〇東京都が様々な施策を具体的に実施する際はもちろん、都民、事業者等に対して啓発等を実施していくに当たっては、東京都の職員自らが性自認及び性的指向に関する正しい知識を持ち、多様な性についての理解を深めていく必要があります。
〇また、東京都の職員の中にも、性的マイノリティの方々や、その家族・友人などがいます。接する都民の方々だけでなく、職員の中にも当事者性を持つ人がいるということを前提として、日々の業務を行っていくことが重要です。
〇本冊子を活用し、多様な性に関する正しい理解のもと、一人ひとりの違いを尊重して適切な配慮を行うことにより、誰にとっても安心して快適に働ける職場づくりを進めるとともに、ダイバーシティ時代の旗振り役を担っていきましよう。
 さらに、同ガイドブック11頁には、「性的マイノリティの方々が直面しやすい困りごと」として、次のように書かれています。
「福利厚生の『配偶者』や『家族』に同性パートナー、その親、その子が含まれないので、家賃手当、介護休業、育児休業など、必要な制度を利用できない」
(4)小括
 以上のとおり、都は、国に対して同性カップルの在留資格問題を是正するように提案し、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例の中に性的指向及び性自認を理由とする不当な差別解消を図ることや、都、都民及び事業者に対し、性自認及び性的指向を理由とする差別的取扱いを禁じることを盛り込み、さらに、都職員向けにも「多様な性に関する正しい理解のもと、一人ひとりの違いを尊重して適切な配慮を行うことにより、誰にとっても安心して快適に働ける職場づくりを進めるとともに、ダイバーシティ時代の旗振り役を担っていきましよう」と指導するなど、対外的にも内部的にも性的指向及び性自認の多様性の尊重を推進しようという姿勢を表明しています。
 加えて、上記ガイドブック11頁の記載によれば、同性のパートナーを有する労働者が職場で福利厚生制度を均等に処遇されないことが、よくある困り事であると都は認識しており、都職員に対して、都民等からそのような相談がある場合は「適切な対応を図っていく」ことを求めています。
 しかしながら、身内である都職員に対しては性的指向及び性自認に関する福利厚生の均等待遇は未だ何ら実現していないばかりか、本件改正案では、あえて同性パートナーの明記を避けようとしている始末です。
 このような都の対応は言行不一致が甚だしく、自己矛盾を露呈しているうえ、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例に真っ向から反するものであると言わざるをえません。
5. 措置要求の判断を無視するものである
 TさんとSさんは2019年8月19日、都職員に対する各種の福利厚生制度について、同性のパートナーを有する職員を婚姻関係(事実婚を含む)にある職員と同様に扱うことを求め、都人事委員会に対して措置要求を行いました。しかし、今年7月3日、措置要求の制度上、立法的措置を要求するものは予定されていないという理由で不適法却下されました。ただし、その判定の末尾には、「当局においては、既に、オリンピック条例第5条の規定に基づき、「東京都性自認及び性的指向に関する基本計画」を昨年の12月に策定するなど、性自認及び性的指向を理由とする不当な差別の解消並びに啓発等推進を図ることを表明しており、積極的な取組みを行う姿勢が見られるところである。加えて、LGBTなどの性的少数者に対しては、先進国及び日本国内においても、多様な性のあり方を認めて、これらの者に対して不合理な差別をしない取組みが進んでいる。こうしたことから、今後の社会動向等に十分留意し、当委員会が令和元年10月16日に行った「職員の給与に関する報告と勧告」の別紙3「人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)」で述べたとおり、オリンピック条例の趣旨を踏まえ、職員自らが正しい知識を持ち、多様な性のあり方について、更に理解を深めるよう取り組む必要がある。また、性自認及び性的指向を理由とするハラスメントが起こらないよう防止するとともに、職員が性自認及び性的指向にかかわらず活躍できるよう、ハード・ソフト両面から職場環境の整備に努めていくべきである」と付言されました。都人事委員会としては、福利厚生制度について同性のパートナーを有する職員を婚姻関係(事実婚を含む)にある職員と同様に扱うことを推進していくべきと提言していることが読み取れます。
 今回の条例改正案は、上記判定が出された数ヶ月後に提出されているのに、都人事委員会による上記付言に何ら配慮を示さず、その意向を無視するものです。
6. 結論
 以上より、同性のパートナーを要介護者に含める改正は容易であること、他の地方自治体及び民間企業・団体では職場の福利厚生制度について同性パートナーを有する職員を婚姻関係(事実婚を含む)にある職員と同様に扱う動きが進んでいること、日本社会の国家的な労働施策基本方針においても職場における性的指向・性自認に関する正しい理解を促進することが明記されていること、小池都政のLGBT関わる施策と大きく矛盾すること、人事委員会が「職員が性自認及び性的指向にかかわらず活躍できるよう、ハード・ソフト両面から職場環境の整備に努めていくべきである」と付言したことからすれば、本件改正案に要介護者として同性パートナーを明示しなかったことは何ら正当な理由のないものであり、都が自ら掲げる東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例との矛盾が甚だしいと言わざるをえません。
 

同性パートナーを持つ3名の都職員のスピーチ

 この後、Sさん、Tさん、Oさんが、今回の件について語りました。顔や氏名は公表できないものの、勇気をもって会見場に現れ、ゲイであるがゆえに世間から受け続けてきたいじめや差別について、またパートナーとの関係がいかにかけがえのないものであるかということについて、今回の条例改正案がどれだけ平等への思いを踏みにじるものであるかということについて、渾身のスピーチをしてくださいました(それは同性婚訴訟の原告の方の訴えとも重なります)。時に胸を詰まらせながら、自身の言葉、心からの思いを語る姿に、会場の記者のみなさんも真剣に耳を傾け、身につまされていたようでした。とても感動的で、一部を切り取ることが忍びなかったので、全てお伝えします。
 
Sさん
「私は9歳年上の同性パートナーと世田谷区で28年間、同住所に起居し、生計を共にして助け合って暮らしており、東京都で約30年働いている都立学校の教員です。二人の関係を公正証書に記し、世田谷区でパートナーシップ宣誓を行なっています。
 私は昨年8月に同性パートナーを持っ職員と男女の事実婚をしている職員とを等しく扱ってほしいとする旨の措置要求を東京都人事委員会に行ないました。残念ながら、私たちの要求は不適法ということで却下されました。しかし、付言として「職員が性自認や性的指向にかかわらず活躍できるようにハード・ソフト両面で職場環境の整備に努めるべきである」という文章が添えられたにも関わらず、状況は改善する兆しがありません。東京都は今都議会で「職員の勤務時間、体日、体暇等に関する条例の一部を改正する条例」案を提出しました。介護と仕事との両立を支援するために「同一の世帯に属する者」でも要介護者として認めるようにするそうです。私はこのことを知り、非常にショックを受けました。もちろん様々な事情を抱える方がおり、介護体暇を取得できる範囲が広がることは大切なことだと思います。これを同性パートナーを持っ職員にとって一歩前進と言う人もいるかと思いますが、措置要求を行った私にはそうは思えません。それどころか、あなたたちは単なる同居人ですよと、私とパートナが一緒に作ってきた28年間の生活を東京都に無視されたように思えたのです。私は単に休暇が欲しいのではなく、同性のパートナーとの関係を認めたうえで福利厚生を平等にして欲しいと願っているのです。私とパートナーの同居人認定をしてほしいわけではないのです。
 私は、自分が同性愛者であることを自覚した中学生の頃から、この秘密を誰にも明かすことなく早く死にたいとずっと思ってきました。そして今のパートナーに出会い、初めて人を好きになってもいいんだ、死ななくて良かったと思えるようになりました。二人で一緒に生活ができればそれだけで幸せだと思っていました。だから私はそれ以上のものを求めることを無意識に押さえ込んできました。職場で同僚の結婚報告があり、みんなからお祝いをされ、結婚休暇や祝い金をもらう姿を見て、どうして自分がもらえないのかなどと考えたこともありませんでした。自分は普通ではないのだから仕方がない、祝ってもらえないのが当たり前だと思って働いてきました。しかし、数年前に友人から、黙っていたら居ないことになると言われ、声を上げたことで世の中が変わる様子を目の当たりにして、目が覚めました。私はもう仕方がないとは言いたくないのです。
 想像してみてください。もし皆さんのパートナーが異性だということだけで、その存在を同居人としてしか認められず、慶弔休暇や育児休暇も認めてもらえない、万が一バートナーが亡くなった時でも通常に出勤をしなければいけないということを。私は皆さんが当たり前のようにもらえる休暇や福利厚生が、ただパートナーが同性であるということだけで、平等にもらうことができないのです。
 私は皆さんとおなじ東京都の職員で、皆さんの同療です。見えない存在でも、テレビの中の世界の人でもありません。同僚であるゲイとしての私の存在を、私がパートナーと一緒に28年間一緒に助け合って暮らしてきたという事実を、どうして認めようとしてくださらないのでしようか。私たちの関係を記した公正証書を作成してくれた公証人役場の方も世田谷区役所も私とパートナーの関係を認めてくれました。なぜ性的指向による差別を禁止する条例を持っている東京都が私を認めてくれないのですか。私にはそれがどうしても理解できません。
 東京都は府中青年の家裁判で「行政当局は、その職務を行うについて少数者である同性愛者をも視野にいれたきめ細やかな配慮が必要であり、同性愛者の権利利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使にあたる者として許されないことである」と東京地裁から判決を受けています。差別禁止の条例を持つ東京都は、権利利益を擁護されず不平等な現実に直面している同性パートナーを持つ職員がいることを知ったからには、その不平等を是正する義務があると思います。
 私と私のパートナーは単なる同居人ではありません。私たちは同性のパートナーです。そして私は、パートナーの性が異性同性に関わらず、体暇制度や福利厚生について平等な処遇を求めます。これ以上仕方がないという悔しく悲しい思いをしたくはありませんし、これからの若い人にもこのような思いをさせたくないと強く願っています。
 この条例で同性パートナーを持つ職員の処遇を改善したものとするのではなく、同性パートナーの存在を認めたうえで処遇の平等を実現できるよう、今後も継続的に議会や都庁内で検討をされるよう、関係者の皆様に是非ともお願いをいたします。」

Tさん
「本日はお集まりいただきありがとうございます。私は産業労働局で勤務する職員です。戸籍上は同性のパートナーを人生の伴侶とし、都内で一緒に暮らしています。職場で同性パートナーシップを男女の事実婚と同様に扱ってほしいとの思いから、昨年8月に東京都人事委員会に措置要求を行いました。しかし、残念ながら未だこの願いは実現せず、改善の兆しさえ見えていません。東京都は、「同一の世帯に属する者(同居人)」でも要介護者として認める制度改正を現在進めています。これにより同性パートナーをもつ職員でも介護休暇を取れるようになるので、当事者にとって前進だと捉える人がいます。
 しかし当事者の私からみると、これはまったく前進ではありません。
 私の願いは、単に介護体暇を取れるようにしてほしい、というだけではありません。大切な人生のパートナーを「赤の他人」として扱うのではなく、「伴侶」として「家族」として認めてほしい、ということなのです。男女のカップルと差をつけることなく、ただ同じように扱ってほしいのです。しかし、「同居人」ではけっきよく「赤の他人」のままです。
 私のパートナーは、性的少数者であることや私がパートナーであることを家族に受け人れられていないため、私との同居を隠しています。そして、住民票に「同一の世帯に属する者」と記載されることを避けるため、私たちは別の世帯として登録しています。同性カップルの多くは、自分たちの性的指向が露見することを恐れ、このように別世帯にしていると聞きます。世の中の偏見や差別意識がもっと減らなければ、同一世帯と登録することさえ難しいのが当事者の現状なのです。
 世間の偏見を持つ人々ならともかく、性的指向等による差別を条例で禁じた東京都が、職員の同性パートナーを「伴侶」と認めることが、なぜそんなに難しいのでしようか?
 なぜ男女のカップルとは異なる扱いをするのか、なぜ「同居人」という非家族に格下げしようとするのか、その理由を私は教えてほしいのです。世間と同様の差別意識、それ以外に、私は理由を思いつくことができません。
 私のパートナーは今年、最愛の父親を亡くしました。義父は私たちの関係を認め、いつも陰で応援してくれていました。私のことをひとりの人間として尊重し、我が子のように暖かく接してくれました。私も実の父親のように慕っていました。しかし、義父の最期のとき、私はほかの家族のいる手前、そばで看取ることができませんでした。義父が亡くなったと電話で連絡をもらったとき、私は本当なら30分で駆け付けられる場所にいて、ただ一人で泣くことしかできませんでした。
 義父のお葬式にも、私は参列できませんでした。大切なお義父さんと慕う人に直にお別れをすることができず、また一番辛い思いをしているパートナーに寄り添って支えることもできませんでした。またパートナーも、家族の大切な場に私を呼べないことを悲しみました。肉親の死という辛いとき、さらに理不尽な辛さが積み重なって、二人ともに深く傷つきました。
 なぜこんな悲しいことが起きるのでしようか。それは、世間にはまだまだ、同性パートナーを持つ人々を差別する意識が強いからです。このため、同性パートナーを「家族」として受け入れることを頑なに拒否するのです。
 私は、パートナーの家族のことを恨んだり憎んだりはしていません。憎むべきは偏見と差別が根強く残る「世間」そのものです。その影響で、本来は大切に思い合うはずの家族が分断され、深く傷つけあうことになってしまうのです。私たちもパートナーの家族も、皆がこの「世間」の被害者だと思っています。
 私は、もうこんな悲しい思いをしなくてすむ世の中になってほしいと願っています。そのためにはまず、制度から差別を無くしていくことが必要だと思います。あらゆる制度が、同性カップルを男女のカップルと同等に扱うようになれば、やがて人々の中に「同性パートナーも家族だ」という理解が広がり、根付くようになるはずです。そうなったとき、性的指向等による差別を禁じた東京都の条例の精神が真に実現すると確信しています。
 そのためには、同性パートナーの扱いがただの「同居人」では駄目なのです。
 どうか、同性パートナーを「伴侶」として「家族」として認めてください。
 東京都の関係部署の職員の皆様、職場の労働組合の皆様、都議会の心ある議員の皆様、私たちのためにこれまで尽力してくださったすべての皆様に感謝しています。そして、私たち当事者のこの苦しい現状と切なる願いをぜひ受け止めていただき、真の制度改正が実現するように引き続きお力をお貸しください。
 どうかよろしくお願いいたします。」

Oさん
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。私は東京都に採用され、都内の公立小学校に動めている教員です。男性パートナーと都内で暮らし、2019年に世田谷区でパートナーシップ宣誓も行った同性愛者です。
 今回は会見において氏名と顔を公表することができないことを、心苦しく思っております。都は2018年、都道府県で初めて、性自認や性的指向による差別を禁じる「人権尊重条例」を制定しました。また、2020年3月に都は「職員のための性自認及び性的指向に関するハンドブック」を作成し、職員の理解推進を求めてきました。しかし実際の職員室ではいまだに「異性愛者が普通だ、同性愛者は特殊だ」という感覚が根強く、意識改革は進んでおりません。こうした中、自分が同性愛者であることを職場で伝えられておらず、様々な悪影響を考えると、今回公表することはできませんでした。
 しかし、職員の介護体暇の「要介護者の範囲」を見直す条例案を知り、その内容が、決して同性パートナーを認めるものではないこと、単に「同一世帯に属する者」、つまり、住民票の続柄記載として同性カップルが唯一記載することができるが、多くの場合、偏見や差別を恐れて記載しない、「同居人」の処遇に留まることに、深く傷つき、憤り、居ても立ってもいられず、この会見に駆け付けました。
 これを「同性パートナーに対する処遇の前進だ」と見る向きがあったとしたら、それは大きな誤解です。むしろ同性パートナーの人生の伴侶としての性格、家族同然に支え合って暮らす重みを無視し、性的指向が同性に向かう都民や職員の生き方を暗に否定するものです。
 私は、小学校中学年から中学校卒業までの長年にわたり、「オカマきもい」「ホモしね」といじめられてきました。「あいつはゲイだ」と勝手にアウティングされ、話したことのない同級生からすれ違いざまに突然からかわれました。昨日まで優しかった友達が、朝登校すると、あたかも汚い物を見るような軽蔑のまなざしに変わり、二度と話してもらえない。物は隠され壊され、教科書には何ページも「死ね」と落書きされました。耐え難い屈辱を受けてきましたが、自分のせいだからと自己否定し、数えきれないほど何度も何度も、「この世から消えてしまいたい」と思ってきました。唯一心を許せるのは家族でしたが、病弱な母と必死に看病する父を悲しませたくなくて、自分の性的指向とこのいじめは、話せずにいました。大切な家族に嘘をつき続ける、重たい自分の人生。明るい未来は一切考えられませんでした。将来家族をもつことは、中学時代に諦めました。
 しかし、そんな自分の人生に思いがけず心から大切な人が現れ、愛情をもち、「結婚」をしました。日本では未だ同性の婚姻が認められていないので、世田谷区でパートナーシップ宣誓をし、ふたりの中で「結婚」としました。しかし先に述べたように職場で公表しておらず、この奇跡的で、最上の幸せを職場の誰にも話せず、「おめでとう」と祝われることなく、男女だったら取得可能な慶弔体暇もなく、結婚祝い金もなく、翌日も普通に出勤しました。
 今回、会見に出るにあたり、恐ろしくて不安で涙が出ました。やっばり辞めようかとこぼす私の横で「大丈夫。がんばって。」と励ましてくれたのは、愛する「僕の夫」です。最後まで守り通したい、大切な「家族」です。それを単なる「同居人」と読み替えることは、絶対にできません。
 昨年、同性パートナーをもっ職員に対する、福利厚生の均等な処遇を求めた措置要求が都に出され、多くの不均等が指摘されました。それを受けての今回の変更は、数ある休暇制度の中で介護体暇のみに留まり、対象も「同居人に対して」と、立場すらすり替えられてしまったこと。同性パートナーを「家族」として扱ってほしいという我々の願いに対する、都の「NO」を感じ、非常に落胆しております。
 隣でスヤスヤ眠る夫を見て、「この人はあなたの夫ではない。同居人だよ。」と突き放された気がして、涙が止まりませんでした。想像してください。あなたとともに暮らす大切な家族が、「その人は家族ではない。同居人だよ。」と言われたら。
 LGBT当事者にとって、今回の改正案は前進ではなくマイナスなのだと思っています。都条例は、性的指向、つまり愛するパートナーの性別に基づく差別を禁止していますが、都は、都民はもちろんのこと自らの職員についてすら、その同性パートナーを正視しようとしないのです。私たちは「透明人間」ではありません。見えなくしたり、ぼやかしたりしないでほしい。ちゃんと見て、存在するものとして考えてください。
 私は自分の性でずっと苦しんできました。これからを生きる子どもたちには、「自分はこの街で大切にされ、ありのままに生きていける」と希望を抱かせてあげたい。そのための一歩を、私の愛する東京都には歩んでいただきたい。
 同性パートナーを「男女の婚姻と同等の家族」として認めない、間違った線路に乗っかってしまったら、意図せぬ方向に進んで戻れなくなってしまう。そうなる前にお話しさせていただきました。関係の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。」

 時折、涙で言葉を詰まらせながら、切々と語るみなさんの様子に、胸がいっぱいになりました。
 彼らの願いは、パートナーが同性である都職員も、介護休暇に限らず(千葉市や大阪府ですでに実施されているように)福利厚生制度全般について異性婚(事実婚含む)と平等に扱ってほしいということです。

 NHKによると、都側は、提出している条例の改正案を変更する予定はないと言っているそうです。彼らの訴えを聞き入れ、考えを改めていただけることを願います。
 

参考記事:
同性パートナーいる都職員が抗議(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20201203/1000057057.html

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