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改正刑法「強制性交等罪」について、性的マイノリティの実情に即した法律の見直しを求める声が上がっています

2020年09月21日

 2017年、改正刑法が施行され男性へのレイプも厳罰化というニュースでお伝えしたように、被害者は女性のみと定める明治以来の「強姦罪」が改められ、男性も被害対象に含まれるようになり、強制的に肛門や口中へ陰茎を挿入する行為なども取り締まる「強制性交等罪」となりました。この時の法改正の際に「3年ごとの見直し規定」が設けられ、今年6月から法律を見直す検討会が行われています。
 性的マイノリティの性暴力被害支援団体「Broken Rainbow - japan」の岡田実穂さんは、性的マイノリティの視点からこの法を見直し、男性器の介入という「性器規定」を撤廃することなどを求めています。松岡宗嗣さんがYahoo!の記事で詳しく解説していますので、ご紹介します。
 
 
 2017年の法改正で男性も被害対象に含まれるようになり、附帯決議でも「被害の相談、捜査、公判のあらゆる過程において、男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしないことを研修等を通じて徹底」と明記されたため、性差が撤廃され、被害者の性別が問われなくなったと言われていますが、岡田さんは「実際には性差がなくなったとは言い切れない」と語ります。
「例えば、『口に男性器を無理やり挿入される』ということがあった場合は強制性交等罪になりますが、『女性器に舌を入れられた場合』は強制性交等罪にはあたらないことになってしまいます。ここに違いを設けるのはなぜでしょう」
「場合によっては男性器よりも、割り箸やナイフなど、より危険なものによって傷つけられたとしても、強制性交等罪には当てはまらないことになってしまいます。男性器の介入が要件になっているこの『性器規定』を撤廃し、『手指器具等による性暴力』を規定すべきです」 

 男性器が要件となってしまっていることについて岡田さんは「”性器主義”になってしまっている点が問題」と指摘します。
「セックス、つまり『性交』というのは膣に陰茎を入れることだけを指すと見なしている点に問題があります。法改正により『強制性交等罪』になりましたが、あくまでも肛門や口腔への男性器の挿入は『性交』である膣への挿入とは別だという意味で『等』がついているようです。こうした基準は、実際に起きている性被害を軽視、矮小化してしまっています」

「男性器による被害と手指器具等による被害では何が変わるのか、どこに違いがあるのか、よくわかりません」
「(違いを設ける理由の一つとして)『妊娠可能性』というラインがあるのかもしれませんが、前回の法改正で男性の被害者も含まれることになり、肛門や口腔への挿入も適用範囲になりました。だとしたら、妊娠可能性が理由にはなりません。挿入するものは男性器だけだという前提では、被害の実態に即しているとは言えないのです」

 さらに、岡田さんは「そもそも性器とは何か」と問いかけます。
「例えば、トランス男性がホルモン治療によってクリトリスが肥大化した状態であった場合、または排泄のためのミニぺニスを形成している場合も、『男性器ではない』と判断され、該当しないそうです。しかし”完全な状態”で陰茎形成術を施していれば、『似ているから』という理由で適用されます」
「あまりに人の身体を馬鹿にし、性の多様性を無視しています」
「性器規定により、性暴力の被害者の中には『自分の身体の状態は、マジョリティのいう”性被害”にあたらないのでは』と思ってしまう人もいます。また、被害を訴えることで『自分の性のあり方が社会に暴かれてしまう』という不安から、自分の被害を訴えることができなくなってしまうのです」
「また、膣に陰茎を挿入することを”性交”とする規定は「そうではない形のセックスをしている人に対して『あなたたちのセックスは、セックスではない』と言うことにもなってしまいます」
「男性器の挿入だけを想定することは、性的マイノリティの人たちが多くの場合、この要件に当てはまらないことになってしまうのです」
 
 海外を見ても、日本のような”性器主義”一辺倒という国はあまりないそうです。
「(他の要件も含め)2017年の刑法改正で、多少世界の基準に追いついたとはいえ、依然としてレベルが低い状態です」

 今月4日には、元中学校教師の男性らが男性に睡眠薬を飲ませ性的暴行を加えた疑いなどで逮捕されました。被害者は100人以上に上ると見られます(この事件に関する「男性の性暴力被害を嘲笑うな」という記事をぜひご覧ください。大事なことが書かれていると思います)
 岡田さんはこの事件について「そのうち何人が被害について名乗り出ることができるかというのは社会の受容度にかかっている」と述べています。
「多くの性暴力支援団体は女性の性暴力被害を前提としていて、男性や性的マイノリティの相談が断られてしまうこともあります。2017年の法改正の附帯決議によって多少改善は見られましたが、まだ(断るところは)残っているようです」
「女性の被害が多く、(被害を訴え出ることができなかったり)大変な思いをしているのは確かです。でも、実際に被害にあった人は、その人の性のあり方がどのようなものであれ、サポートが必要です。被害の大小を比較する話ではありません。比較するのは支援者側、社会側の勝手な視点の問題です。被害にあった人たちが適切なサポートを受けられる社会にしないといけない。孤立しないようにしないといけない。そう思ったときに、誰が多いという話ではなくて、『誰もが被害にあう可能性がある』という前提に立たなければいけません」
 
 岡田さんはさらに、「性暴力被害の実態を見れば、加害者が被害者の『弱者性』や『脆弱性』を狙ってくることは明白で、女性や子ども、性的マイノリティ、障害者といった社会的マイノリティが狙われるのは、そこに差別構造があるから。この脆弱性のある社会構造こそ考えなければならない問題ではないでしょうか」と指摘し、「もっと自分たちが考えるよりも広く性暴力を捉えるべきです。一つの法律の中で、一部の人たちが排除されてしまう状態は止めなければいけない。全ての人のための法律が、一部を排除してしまっているというのは人権侵害なわけですから、法律の抜け道を埋める作業をしなければいけないと思います」と語ります。
 
 
 こうした性的マイノリティからの声を国(検討会)に届けていくため、「Broken Rainbow - japan」は9月23日(水)、参議院会館で緊急院内集会を開催します。集会では、性的マイノリティの性暴力に関する実情の解説や、強制性交等罪改正への要望だけでなく、性的マイノリティの性暴力被害当事者からのスピーチも予定されています。

緊急院内集会「想定されず、軽視される被害 被害の実情を反映した法制度を」
日時:9月23日(水)14:00-15:00
会場:参議院会館B104
入場無料
申込み不要
主催:Broken Rainbow - japan

 
参考記事:
「男性器の挿入が条件はおかしい」性犯罪の刑法改正から3年、取り残された課題とは(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20200919-00198969/

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