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アマゾンの先住民の村で暮らす若いゲイたちのことが報道されました

2021年01月16日

 世界三大通信社の一つ、AFP通信が「同性愛者を受け入れる先住民の村 コロンビア」という記事を配信しました。コロンビアのアマゾン熱帯雨林の先住民の村で、以前は同性愛を罰していたものの、受け入れるようになり、今は20人ほどのゲイの若者が共同体の一員として暮らしているという興味深いルポルタージュでした。

 1000人ほどが農業と手工芸で生計を立てるナザレという先住民の村で育ったジュニオール・サンガマ(27)は、同性愛者であることを受け入れなかった家族と対立し、出て行くことを選んだものの、地元に戻って来て、今は約20人のゲイとともにここで居場所を見つけ、暮らしているといいます。
 ナザレでは以前は、性的マイノリティが排除されていましたが、20年ほど前から、首長らは同性愛者に対して残酷な罰を科すことをやめました。
 そうして、ジュニオール、サウル・オラルテ(33)、ニルソン・シルバ(23)らを条件付きで受け入れてきました。
 
 先住民の世界では、共同体で暮らす権利を得ることが極めて重要です。そのため、ジュニオールらは自分たちで一定のルールを設けました。人前でキスをしない、同居もしない。一方で、地元の昔からの風習を守る役割を引き受け、お香をたきながら亀の甲羅をたたく音と共に始まる伝統的な舞踏を披露しています(こちらでその様子の動画を観ることができます)

 故郷に戻って来たジュニオールら3人が慎重に振る舞うことにしたのは、チクナ族の人々が同性愛者にどのような仕打ちをしてきたかを知っていたからでした。
 チクナ族の評議会の広報を担当するアレクス・マセード(40)によると、この地の言い伝えでは、キアリの一種に噛まれた人は「考えを改め、(肉体的に)タフになって生まれ変わる」と信じられ、アリに同性愛者の体をかませることもあった。「男らしさ」を調べるとして、同性愛者に土地を耕作させ、カヌーを造らせることもあったが、マセードによると、こうした罰が与えられることもなくなりました。
 21世紀に入ってから、「共同体の中で、どのような差別も行わない」とする動きがあり、以来ナザレは、他の先住民の村からやって来た性的マイノリティの人々にとって、安全に生きられる場所になりました。
 マセードは、性的マイノリティの若者たちは「先住民の文化、特に言語を保護するために」必要な存在と判断されたのだと説明しました。ただし、オープンな「LGBT」コミュニティは認められないといいます。「今のように緩やかな集まりなら許されるが、集団をつくることは許されないだろう」
 ジュニオール・サンガマは、いつか自分たちが「パートナーを持ち、共同体の中で堂々と家庭を築き、本当の自分を自由に表現できる」日が来るはずだと語りました。

 アマゾンの先住民の多くの村は、性の多様性を認めているわけではなく、完全に受け入れているわけでもありませんが、暴力を振るうことなく対処してきたと、LGBTQ団体「アファーマティブ・カリビアン・コーポレーション」のウィルソン・カスタネダ代表は語ります。
 
 実はヨーロッパ人が入植する以前のアメリカ大陸の先住民の間では、性的マイノリティへの差別がなかったと言われています。
 「メキシコ第3の性=ムシェについて」という研究論文では、「先コロンブス期のメソアメリカでは同性愛は特別なことではなかった」と書かれています。メキシコ・オアハカ州のフチタンという町に暮らすムシェは(2019年に『VOGUE』誌の表紙を飾りましたが)トランス女性のような存在で、男装する女性の「マリマチャ」とともに男女両方の神を宿す祝福された存在としてサポテカ族の社会で大切にされています。以前、歌川たいじさんがレポートしてくれましたが、母系社会であるフチタンではゲイも同様に祝福された存在です。
 北米のネイティブ・アメリカンも「LGBTQの人たちに対する差別はなかった」「性別ではなく、精神で他者のことを理解していた」「男女だけでなく5つの性があった」といいます(詳細はこちら)。ネイティブ・アメリカンの社会では伝統的に「女性」としての社会的役割を担う男性「ベルダーシュ」が『霊的』な力を備えたシャーマン的な存在とみなされてきました(近年、「ベルダーシュ」には侮蔑的なニュアンスがあるとして「two-spirit」という言い方が用いられるようになっています。カナダではLGBTをLGBTQ2Sと表記することが多いのですが、この2Sは「two-spirit」のことで、先住民の性的マイノリティへのリスペクトが込められています)。米オクラホマ州の先住民部族が同性婚を承認というニュースによると、2015年にアメリカ全土で同性婚が認められた後、先住民部族の間でも次々と同性婚が承認されていきました。
 
 もともと性的マイノリティへの差別がなかった先住民社会に、15世紀以降、ヨーロッパ人が同性愛嫌悪的なキリスト教文化を持ち込み、「近代化」「西欧化」「キリスト教化」の過程で、性の多様性を尊重する文化も失われていった(フチタンのような一部の地域では残っていた)と見ることができ、そのような素地(伝統)を持つ先住民社会が再びゲイを受け入れるようになるのはさほど難しいことではないのかもしれません。

 ちなみにコロンビアでは2016年に同性婚が承認されましたが、翌2017年にはゲイ男性3人の結婚が認められています(なんと先進的!)。2019年には首都ボゴタで初のオープンリー・レズビアンの市長が誕生しています。



参考記事:
同性愛者を受け入れる先住民の村 コロンビア(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3322984
【動画】同性愛者を受け入れる先住民の村 コロンビア(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3326056

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