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山谷議員のトランスジェンダー差別発言に対する抗議集会が行なわれました

2021年05月22日

 LGBT法案をめぐる自民党の会合で山谷えり子議員が「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを獲るとか、ばかげたことがいろいろ起きている」などと発言した問題で21日、自民党本部前で抗議集会が行なわれました。

 
 こちらのニュースでお伝えしたように、先日のLGBTQ議連の話し合いで基本理念に「差別は許されない」と記すことで与野党合意をみたLGBT理解増進法案について19日、自民党内で会議が開かれ、山谷えり子議員が「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを獲るとか、ばかげたことがいろいろ起きている」などと発言し、非難されました。もしかしたら「男性的な骨格や筋肉のトランス女性が女子スポーツ界でプレーするのは、不公平と言われても仕方ないのでは…」と思う方もいらっしゃるかもしれませんので、山谷議員の発言の問題点について少し詳しくご説明します。
 「(トランス女性の自認性を認めると)体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろと言ってくる」的な物言いは、お茶の水女子大がトランス女性受入を発表した後、にわかにネット上で噴き上がってきましたが(世界的に見ても、英国を中心にTERFと呼ばれるトランス女性排除論者が主張するようになり、トランプ政権下の米国でも保守派の間で強化されたという側面もありましたが)、性自認が「今日から私は女性」というようなコロコロ変わるものだと曲解したうえで、まるでトランス女性が性犯罪者であるかのように喧伝する悪質なものです。(同性愛者が子どもの頃から周囲と違うことや世間の無理解・ホモフォビアに苦しみながらも性的指向を変えられないように)トランスジェンダーも長い間、性別違和に苦しみ、世間の無理解やトランスフォビアを恐れながら、診断を受けたり、多大な負担を引き受けながら治療を受け、自認するジェンダーを生きるようになるという真実をねじ曲げる山谷議員の発言は、「トランス差別・排除そのもの」だと批判されています。
 また、トランス女性が女子スポーツに参加してメダル云々の話は、IOCが2016年に「性自認が女性であることの宣言」「出場前1年間はテストステロン値が10nmol/L未満に維持」をクリアしていればトランス女性が女性競技に参加できると決めた(東京五輪が晴れて、初めてトランス女性が参加する歴史的な大会になる)という話を無視してしまっています(西宮市が製作した『女性とスポーツ「より速く、より高く、より強く」って何だ!』という冊子の「【性別確認調査】素晴らしい記録には賞賛とともにドーピングの疑いが向けられ、女性には「男性?」という疑惑が加わる」というコラムに経緯がまとめられています。同冊子で大阪府立大准教授の熊安貴美江氏は「現在は医学的には男女の境界線は分けられないということが明確になりました。にもかかわらず、近代スポーツは性別の境界線を維持しようとする最後の社会装置かもしれないです」と述べています)。国際スポーツ医学連盟は今年3月に発表した声明で、トランス女性が女子で競技をすることを不平等とする証拠はなく、体格などの外見は性別に関係のない個人の特徴であるとしています。北丸雄二さんは全米大学体育協会トランス男女の参加資格についてこちらの連ツイで解説してくださっています。こちらの記事もぜひ読んでいただきたいのですが、現時点で、トランス女子生徒の女子スポーツ参加を全面禁止すべき理由を示した科学的データは1つもないそうです。今月、ニュージーランドのローレル・ハバード選手がトランス女性初の五輪出場選手になることが確実視されており、仏ラグビー連盟は国内女子ラグビーでのトランス女性のプレーを承認し、というニュースが次々に入ってきていますが、山谷議員はこうした(IOCの方針も含めた)世界の趨勢を踏まえることなく「ばかげたこと」と一蹴したわけで、「排除ありきの発言」だと批判されています。
(ちなみに、山谷議員は、こちらの記事で述べられているように、「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の事務局長を務め、当時、一部の公立学校で行われていたオープンな性教育を徹底批判し、性教育が行なわれなくなる原因をつくった人物です。「性教育は結婚後に」などというトンデモ発言も…)
 
 山谷議員のトランスジェンダー差別・排除の発言に憤ったアライの方が20日夜にTwitterで呼びかけ、21日19:30から永田町の自民党本部前で抗議集会が開かれました。急だったこともあり、雨模様だったこともあり、集まった方は(杉田議員の時に比べると少なく)100名ほどだったそうですが、ハフポスト日本がレポートしてくれたように、何人ものトランスジェンダーの方たちが声を上げました。
 トランスマーチの開催も企画していた当事者グループ「TRanS(トランス)」や、精神疾患や依存症などの問題を抱えるLGBTQを支援する「カラフル@はーと」の代表であり、当事者ドキュメンタリー映画『I Am Here ー私たちはともに生きているー』の監督でもある浅沼智也さんは、「自分の性自認で生きる。なぜそれが許されないのか」「3年前に杉田水脈議員が『LGBTは生産性がない』と発言をして、自民党では未だにこのようなことが起きています。その時より、さらにひどいと思います」 「自分もトランスジェンダーの一人としてずっと苦しんでいた時がありました。誰にも言えないまま密かに暮らしてきて、やっと生きやすい社会になったと思えば、議員がこのような発言をしている。また傷付いて、死にたいと思ってしまう当事者がいるかもしれません。差別発言をしている自民党の議員たちには、その気持ちを考えてほしいと思います」と語りました。
 集会でマイクを持ったトランスジェンダー女性も、ヘイトを社会に一般化させ、人の命を奪いかねない発言だと訴えました。「脆弱な状況で日々働いている人々や、理解がない家庭で過ごしている子供たちには逃げ場がない。そういった環境で苦しんでいる人たちをさらに苦しめるような社会に私はしたくありません」
 署名キャンペーンの呼びかけ人の1人でご自身も当事者である時枝穂(ときえだ・みのり)さんは、トランスジェンダーの人たちが生きやすい社会にしたいと思って声を上げました。「私自身、これまで自分が社会不適合者なのか、生きていていいのかと悩んだ時期がありました。今でも自分らしく生きられているかというと100%そうとはいえません」「トランスジェンダー当事者が性暴力といった、問題やトラブルを起こす存在であるかのようなレッテルを貼られて排除されるのはすごく悲しいです。そういったことで傷ついて、命を落としてしまう当事者もいるので、ヘイトや差別発言にはきちんとNOと声をあげていきたいです」
 
 この抗議集会の記事について、取材した坪池順さんは「強い怒りだけでなく、深い悲しみも感じました。差別は人の尊厳や未来を奪い、命に関わりかねない」と、東ちづるさんは「自分の性自認で生きる。なぜそれが許されない? 許しを乞うことでもない。自分の性自認が自分の普通。それが自然の摂理。認めるか否かではなく、わたしたちはもうすでに一緒に生きています」と、早稲田ゆき衆議院議員は「衝撃の差別発言が相次ぐ。権力者がマイノリティを抑圧する行為は許されない」とコメントしたほか、LGBTQの方からも「行きたかった」「離れていても、魂はともにあります」などのコメントが寄せられました。
 「道徳的に認められない」などの発言についても、近いうちに抗議集会が行なわれるのではないでしょうか。
 
 なお、こうした抗議集会に対してアレルギーをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。ぜひ、VOGUE JAPANの「ポストコロナの世界はどうなる? 公正な社会実現のためにできること。」を読んでみてください。


 
参考記事:
トランスジェンダーが東京五輪へ スポーツ界の現状は?(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASP5P4388P5PUTQP005.html
トランスジェンダーの学生の女子スポーツ参加議論が過熱するアメリカ、大人に批判集まる理由とは?【解説】(フロントロウ)
https://front-row.jp/_ct/17449357
仏ラグビー連盟、国内女子ラグビーでのトランスジェンダーのプレー認める(CNN)
https://www.cnn.co.jp/showbiz/35170947.html
「女子の競技に、男性が心は女性だからと参加して」山谷議員のトランスジェンダー発言に当事者側が反論(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/185452
「トランスジェンダー女性を犯罪性と結びつけるな」自民党本部前で抗議集会。会合で相次いだ差別発言を受けて(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_60a85018e4b031354797192f

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