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HIV感染の米女性が幹細胞移植後に治癒、世界で3例目

2022年02月18日

 HIVに感染した米国の女性が、HIVに対して自然抵抗力をもつ人物から幹細胞移植を受けて寛解※したと報告されました。HIV陽性者の寛解は世界で3例目で、女性では初めてです。

※病気の症状や徴候が軽快、または見かけ上消滅して正常な機能に戻った状態。がんやうつなど病変の再発の可能性を否定できない疾患の治療の有効度について表現する際、完治ではなく、寛解と言うことが多いです。


 幹細胞移植により、世界で最初にHIV/エイズが治癒(寛解)したのは、ベルリン在住の米国人、ティモシー・レイ・ブラウンさんでした。ブラウンさんはベルリンでカフェ店員や通訳として働いていた1995年にHIV感染が判明し、その後、2007年には急性骨髄性白血病と診断されました。HIVと白血病の両方を治療するために、ベルリンの病院でHIV耐性を持つドナーからの骨髄幹細胞移植を受け、HIVが検出値以下のレベルまで下がり、HIV/エイズに「勝った」世界初の患者と呼ばれるようになりました(なお、ブラウンさんは2020年に白血病で亡くなっています。国際エイズ学会はブラウンさんのパートナーだったティム・ヘフゲンさんと遺族、友人らに弔意を表し、ブラウンさんと担当医がHIV感染症を完治させる可能性の扉を開いてくれたことに感謝すると述べました)

 2010年には、HIVに感染したドイツ人男性が幹細胞移植で治癒したと報告されました。この男性も、HIV感染とともに急性骨髄性白血病の診断も受けていて、幹細胞移植が数回にわたって行なわれました。抗HIV薬の投与を中止して3年半が経過した2010年夏の時点で白血病もHIV感染も再発の兆候はみられず、免疫機能も正常に働いていて、医師らが「HIV感染は完治した」と結論づけました。このケースでも、治療が可能だったのは、HIV感染への耐性を示す変異遺伝子を持っていた方から幹細胞の提供者を受けています。

 そしてこの2月15日、米コロラド州デンヴァーで開かれた医療関連の会議で、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校医科大学院のイボンヌ・ブライソン博士らが、同様に、HIVに対して自然抵抗力をもつ人物から幹細胞移植を行なった白血病患者の女性が治癒したことが報告されました。HIVが治ったという報告は世界で3例目となります。 
 女性はHIV感染の診断を受けてから4年後に急性骨髄性白血病と診断され、強力な化学療法を受けました。化学療法で血液細胞が破壊されたため、成人の家族からの幹細胞移植で一時的に補ったうえで、血縁関係のない産婦の胎盤と臍(へそ)の緒から採取された「臍帯血(さいたいけつ)」の移植を受けました。臍帯血に含まれる造血幹細胞によって約ヵ月後には新たに正常な血液細胞がつくられるという白血病の根治療法です。臍帯血を供給する全米規模のバンクがあり、この患者への移植にはもともとHIVに対する抵抗力を持つ(HIV感染への耐性を示す変異遺伝子を持っていた)臍帯血が使用されました。女性は2017年の移植以降、白血病は再発していません。移植から3年で抗HIV薬の投与を中止しましたが、それから現在まで14ヵ月、HIVも検出されていないそうです。

 臍帯血は、従来使われてきた成体幹細胞より確保しやすく、提供する人と受ける人の適合も、成体幹細胞ほどの厳密さは求められません。
 過去の2人は移植後、ドナー由来のリンパ球が患者の組織を攻撃する「移植片対宿主病(GVHD)」が見られたのに対し、この女性患者はGVHDを起こしませんでした。研究者らの間ではこれまでGVHD自体に治療効果があるとされてきましたが、この説は覆されたとイボンヌ・ブライソン博士らのチームは指摘しています。
 今回のケースは、がん治療のために臍帯血幹細胞移植を受けたHIV陽性者25人を追跡した研究の一部です。この研究から、HIVに対する抵抗力(HIV耐性の変異)を持つ細胞を移植することがカギであることが示唆されました。
 
 国際エイズ学会のシャロン・ルイン会長は「この分野にとって胸踊らされる話です。HIVの治癒が可能であることを証明するものだからです」と語りました。
 しかし、一方で、今回の移植療法は、ほとんどのHIV感染者にはリスクが大きすぎるとも語っています。幹細胞移植療法は、移植後に最大20%の患者が死亡し、他の合併症が起きるおそれもあるという危険な治療法です。
「今回のような事例に対してわれわれは常に注意深くなります。なぜなら骨髄移植は、HIV患者にとって適切ではないからです。この女性が骨髄移植を受けたのは、白血病だったからです」
 
 米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も15日のラジオ番組で、「この患者にはたまたま幹細胞移植を必要とする疾患があったが、HIV感染者に幅広く適用されると考えるのは現実的ではない」とコメントしています。
 

 HIVの治癒については、昨年11月、国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」が、サルを使った実験で、免疫反応を強める物質を出す細菌の遺伝子を弱毒化したHIVの遺伝子に組み込み、生ワクチンを作る方法で体内からHIVを完全に除去することに成功した(詳細はこちら)とのニュースをお伝えしましたが、こちらの方法のほうが実用化の可能性が高いのかもしれません。
 
 
参考記事:
HIV感染者が治癒、女性では世界初か アメリカ(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/60411990
HIV感染患者の治癒報告、女性では世界初(ロイター)
https://jp.reuters.com/video/watch/idOWjpvC8AQXYGE28GJYQVLOUOM8WO36F
HIV感染の米女性、幹細胞移植後に寛解 3例目の報告(CNN)
https://www.cnn.co.jp/fringe/35183576.html

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