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トランス女性が性別変更以前の自身の凍結精子によって女性パートナーとの間にもうけた子どもの認知の権利を求めた裁判で、東京家裁が訴えを却下…「親子関係ないと言われるのは辛い」にじむ悔しさ

2022年02月28日

 性別変更以前の凍結精子によってトランス女性と女性のパートナーとの間に子どもが生まれたものの、自治体が子の認知届を受理しなかったため、認知を求めて2021年6月に起こされていた裁判で、東京家裁(小河原寧裁判長)は2月28日、お二人の訴えを退ける判決を言い渡しました。生殖補助医療の進歩や多様な性をめぐる現状に法律が追いついていないことが改めて浮き彫りになりました。
 
 
 出生時に男性と割り当てられたトランス女性のAさんは、性別適合手術を受け、戸籍上の性別を女性に変更しましたが、手術の前に凍結保存していた精子を2017年、パートナーの女性Bさんに提供し、2018年に長女が生まれ、2020年夏には次女が生まれました。Bさんとお子さんたちとの間には法律上の親子関係がある一方、同性カップルであるがゆえに法的に結婚が認められないAさんとお子さんたちとの間には法律上の親子関係がありません。民法は、婚姻関係にない男女の間に生まれた子について「父または母が認知できる」と定めており、お二人は2020年、Aさん名義で子どもたちの本籍地を置いていた自治体(東京都外)に長女の認知届を提出しましたが、受理されませんでした。
 2021年6月、お二人は「双方が認知を望んでいるのに国の運用上認知ができないのは、子どもの福祉に反する」「他の親と同じように、子どもにはできることをしてあげたい」と訴え、認知を求めて2つの裁判を起こしました。
(1)Bさんが子どもを代理した原告として、Aさんを被告とする「認知の訴え」で、東京家庭裁判所に提訴
(2)Aさん、Bさん、子どもが原告となり、国に対する行政訴訟として、Aさんが子どもの認知届を受理される法律上の地位にあることの確認と国家賠償請求を求めて、東京地方裁判所に提訴
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 今回判決が下された裁判は(1)で、AさんのパートナーであるBさんが二人の子どもを代理した原告としてAさんを被告とする「認知の訴え」に関するもので、利害が完全に一致しているカップルが原告と被告になる異例の裁判でした。(なお、(2)に関しては東京地裁で審理が続いています)
 東京家裁は、「親子関係は認めない」との結論を下しました。主な理由として、女性が父親として子を認知することはできないことと、母子関係は懐胎・分娩によって生じるので、懐胎・分娩していない者には親子関係が生じていないことを挙げました。そのうえで、「法律上の親子関係は民法における身分法秩序の中核をなすもの」だとし、「多数の関係者の利害にかかわる社会一般の関心事でもあるという意味で、公益的な性質を有しており、当事者間の自由な処分が認められるものではない」として、「血縁上の父が子の父となることを争っていないからといって、このことからただちに法律上の親子関係を成立させてよいことにもならない」と述べました。
 
 判決後に開かれた会見で、性別変更したAさんは、「裁判の場で認めてもらえず悲しく思う。(カップルで)子を産み育てていて、生物学的に親子関係があるのに、このような判断が出ることに矛盾を感じた」と語りました。
 原告ら代理人の仲岡しゅん弁護士は、「不当だ」と判決を批判しました。「女性である父や男性である母を認められないという判断を下したことになるが、日本の法律のどこにもそんな規定はありません。むしろ、性同一性障害特例法では、子が成人している場合だと、女性に変わっても戸籍上は父のままですし、男性に変わっても戸籍上は母のままです。戸籍の記載上、女性である父や男性である母はすでに存在しています。今回は子どもが未成年のケースですが、あえて(女性である父や男性である母を)認めない合理的理由はあるのでしょうか。私はないと考えています」 
 仲岡弁護士はまた、母子関係が懐胎・分娩によって生じるとの判断は「昔の判決を引っ張ってきた」ものだと話し、性同一性障害が認識され、生殖医療も発達している現在とは「時代が違う」と指摘しました。「発達した生殖医療によって、懐胎・分娩によらずに子が生じることもあります。家族関係が多様化しているなか、そういった実態を認めずに、硬直的な思考で懐胎・分娩によって生じると判断したわけですが、間違っていると思います」 
 子どもを膝に抱えながら会見に臨んだAさんは、「凍結精子だと認めないというのは時代錯誤なのでは」と疑問の声をあげました。「親子関係がないと言われ続けるのは辛いです。ここで諦めるつもりはありません。最終的には(親子関係を)認めてもらいたいと思っています。なかなか当事者でないと理解が難しいかもしれませんが、こういう存在もいるのだということを社会にも認知してもらいたいです」 
 仲岡弁護士は、「不当判決なので、今後高裁や最高裁でも争っていきたい」と話し、控訴する意向を示しました。

 NHKのニュースは「生殖補助医療の進歩や多様な性をめぐる現状に法律が追いついていないことが改めて浮き彫りになりました」と記しています。「性同一性障害特例法では、戸籍の性別を変更するためには、結婚していないこと、未成年の子どもがいないこと、生殖機能をなくすことなど5つの要件を定めていて、すべてを満たしていなければ性別は変えられません。親子関係などをめぐって社会に混乱を生じさせないよう設けられた要件ですが、性同一性障害の人が戸籍を変える壁になっているとの指摘もあり、今回のケースでは複雑な事情を生む要因のひとつとなりました」
 また、生殖補助医療をめぐる課題も浮かび上がりました。「第三者からの精子や卵子の提供などで生まれた子どもについては親子関係を定める法律がなかったため、議員立法によって民法の特例法が成立し、去年施行されました。第三者からの卵子提供で妊娠・出産したときは、出産した女性を母親とし、妻が夫の同意を得たうえで夫以外から精子提供を受けて生まれた子どもは夫を父親とすることが定められています」「ただ、事実婚や同性のカップル、性別変更をした人などの場合に精子や卵子を提供した人と子どもの親子関係がどうなるか、明確ではありません。法律の付則では、生殖補助医療の規制の在り方などを2年をめどに検討したうえで、親子関係について特例を設けることも含めて検討するとしています」

 判決について、家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授は、「生殖補助医療の発達により今回と同様のケースは今後も増えることが予想されるが、今の法律のもとでは、裁判所が事案ごとに個別の判断をするには限界がある」と指摘します。
「生殖補助医療や親子関係に関するルールは子どもの法的な立場の安定やいわゆる『出自を知る権利』のためにも重要だ。立法が進む海外のように活発な議論をして、法整備や社会的な支援についても検討する必要がある」

 

参考記事:
性別変更の女性 凍結精子でもうけた子と法的な親子関係 認めず(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220228/k10013505211000.html
性別変更の女性、凍結精子で生まれた子との親子関係認められず 家裁(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASQ2X3K6CQ2VUTIL00L.html
性別変更の女性、自身の凍結精子で生まれた子の「認知」認められず 「親子関係ないと言われるのは辛い」悔しさ語る(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_18/n_14173/

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