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英国のLGBTQ国際会議がキャンセルへ…政府のトランスジェンダー差別にコミュニティが反発

2022年04月13日

 英国政府は今夏、ロンドン・プライド50周年を記念したLGBTQの国際会議を開くことを発表していましたが、7日、キャンセルとなりました。3月末に政府が発表したコンバージョンセラピー禁止法案にトランスジェンダーが含まれていなかったことでLGBTQコミュニティから非難の声が上がり、国際会議のボイコットが起こったためです。
 
 
 映画『パレードへようこそ』でも描かれていたように、当事者だけでなく炭鉱夫などアライの人々も参加するなど感動的なドラマを生んできたロンドン・プライド。2012年のロンドン五輪開催の年にはワールドプライドとして盛大に開催されました。この英国最大のプライドは1972年から開催されてきており、今年の7月2日、50周年を記念するパレードが行なわれます。今年のロンドンプライドは(2019年のニューヨークの時のように)世界中から「50周年おめでとう」の気持ちで多くのLGBTQ+Allyが駆けつけるだろうと予想されます。
 これに合わせ、5月5日には英国初のLGBTQ+歴史博物館「Queer Britain」がオープンしますが、それだけでなく、英国政府は「Safe To Be Me」と題したLGBTQの国際会議を主催することを発表しました。(プライドハウス東京2019のオープニングにも来場した)ニック・ハーバート上院議員は先月、会議の目的について「LGBTの人たちは特別な権利を求めているわけではなく、すべての人と同じ権利を求めている。誰もが暴力を恐れず、愛する人を愛し、自分を表現する自由があるべきだ」と語りました。会議は6月29日から7月1日まで3日間の日程で開催され、英政府は会議の理念に賛同する国・地域の首脳や国際機関、非政府組織(NGO)の代表を招くとしていました。
 しかし4月7日、この国際会議がキャンセルされると報じられました(つい先日、誇らしげに開催が発表されたばかりなのに、そんなことってあるんでしょうか…)
 理由はボリス・ジョンソン首相のトランスジェンダー差別にLGBTQコミュニティが猛反発し、国際会議のボイコットを表明したためです。
 
 3月31日(トランスジェンダー可視化の日)、英国政府はイングランドとウェールズで同性愛者やバイセクシュアルの人々に対するコンバージョンセラピー(転向療法)を禁止する法案を発表しました。しかし、そこにはトランスジェンダーのことは含まれていませんでした。
 イングランドのNHS(国民保健サービス)や心理学団体などは、あらゆる転向療法は「非倫理的であり、有害な可能性がある」と警告しています。米国ではコンバージョンセラピーによる損失が1兆円に上るという研究結果も発表されています。欧州の多くの国が次々とコンバージョンセラピーを禁止してきたなか、英国政府は態度を決めかねていました。政府は当初、既存の法律やその他の施策で禁止の道を模索していく方針を示しており、保守党の当事者団体からも抗議の声が上がったため、今回ようやく、禁止法案の発表に至りました。それは人の性的指向を変えようとする行為を違法とするという内容で、ジェンダーアイデンティティ(性自認)は含まれていませんでした(前日に、与党・保守党のジェイミー・ウォリス議員がトランスジェンダーであることをカムアウトしたにもかかわらず…)
 これに対し、LGBTQ団体や議員らは即座に批判の声を上げました。
 LGBTQ団体「レインボー・プロジェクト」は、トランスジェンダーを対象に含めない法案は「本当の禁止法案ではない」と批判。
 労働党のナディア・ウィットム下院議員は、「この法案は不十分だ。LGBとTは一体なのに、保守党は我々の味方ではない」と述べました。
 コンバージョンセラピーの被害者であり「#BanConversionTherapy(転向療法を禁止せよ)」連合の会長を務めるジェイン・オザン氏は、ボリス・ジョンソン首相がLGBTを見捨てたと批判し、性自認が禁止対象に含まれないのは「全く馬鹿げている」と批判しました。
 トランスジェンダー団体「トランス・メシア・ウオッチ」のジェイン・フェイ氏は、「がっかりした。コミュニティのことが本当に不安だ」と語りました。トランスジェンダーへの転向療法は広く行なわれているといい、「これは療法でも対話でもなく、虐待であり、拷問の一種だ」と非難しました。
 ウェールズ自治政府も、英国政府の方針を「受け入れられない」と反発しました。ウェールズ政府のソーシャルパートナーシップ担当次官でオープンリー・ゲイのハナ・ブライジン氏は、政府の"部分的Uターン"は「信頼を裏切る、残念で恥知らずの行為だ」と述べました。「3月31日のトランスジェンダー可視化の日に、ジョンソン首相は私たちのコミュニティの一部を守らないという選択をした」

 さらにジョンソン首相は4月6日、「トランスジェンダー女性は女子スポーツ競技に出場するべきではない」と発言し、非難を浴びることになりました。
 この日の取材でジョンソン首相は、コンバージョンセラピー禁止法案について語ったあと、「生物学的男性が女子スポーツに出場するべきではないと思う。これは物議をかもす発言かもしれないが、理に適っているように私は思う」と述べました。「また、病院や刑務所、着替える場所などでも、女性専用の場所が必要だと思う。この件について、私の考えが及ぶようになったのは、今のところここまでだ」「この考えが他の人との軋轢を生むなら、それを解決する必要がある。ジェンダーを変えたい、性別を移行したいという人に私がものすごく同情していないということではない。そういう決定をするにあたっては、最大の愛情と支援が必要だ」「複雑な問題なので、すぐに決まる簡単な法律1本で解決できるようなことではない。きちんと上手にやるには熟考が必要だ」
 英国を代表するLGBTQ団体「ストーンウォール」は、「トランスジェンダーの人々は、他の人々と同様にスポーツの利益を享受する機会を持つべきだ。トランスジェンダーの人々を一括で除外するのは根本的に不公平だ」と批判しました。「これは複雑かつ急速に展開している問題で、学術的にも発達していない領域だ」「インクルージョンの方針は競技ごとに考慮されるべきものだし、怒りをあおるような言葉を避けることも重要だ。そうした言葉によってトランスジェンダーの人々は、愛するスポーツを続けることが不可能になることが多い」「スポーツには大勢を団結させる独特の力がある。トランスジェンダーの人々が除外されたり虐待されたりすることなく、そうしたスポーツの利益を享受する機会を持つことが重要だ」
 
 そうして6日、英国政府はLGBTQ国際会議の計画を破棄しました。
 大きな理由は、国際会議の強力なパートナーであった英国最初のLGBTQビジネスのチャンピオン、Ciceroグループのイアン・アンダーソンが抜けたからだそうです。ロイターによると、アンダーソンは首相宛ての公開書簡で「線引きは間違っている」と批判しました。「今ほど私たちが寛容さとリスペクトを必要としている時はない」
 ジョンソン首相は、「国際会議のパートナーからこのようなコメントが引き出されたことはがっかりだ。会議を開催することは不可能だろう」と述べました。
 
 英国のLGBTQコミュニティでは、トランスジェンダーを守ろうと呼びかける運動が続いています。
 50周年を記念するロンドン・プライドは、トランスジェンダー差別へのプロテストの色が濃いものとなりそうです。


【追記】
 4月12日のPink Newsの記事によると、YouGovと『タイムズ』紙の共同調査によると、英国の成人の65%が人の性的指向に対するコンバージョンセラピーを禁止することに賛成で、ジェンダーアイデンティティについても62%が賛成する(あまり変わらない)という結果になりました。コンバージョンセラピーの禁止に反対する人は14%、トランスジェンダーへのコンバージョンセラピーの禁止に反対する人は15%(あまり変わらない)という結果になりました。民意は、トランスジェンダーも含めてコンバージョンセラピーを禁止することに賛成であるということが明らかになったものです。


 
参考記事:
LGBT権利向上へ国際会議(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59382970V20C22A3TY5000/

UK cancels global LGBT+ conference over trans conversion therapy dispute(Reuter)
https://www.reuters.com/world/uk/uk-set-cancel-global-lgbt-conference-over-conversion-therapy-row-2022-04-06/

イギリス政府の転向療法禁止法案、トランスジェンダーの人を対象に含めず(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/60964297

ボリス・ジョンソン首相、「トランスジェンダーへの転向療法は禁じない」発言で物議を醸す(ELLE)
https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/a39655053/boris-johnson-transgender-conversion-therapy-220407/

英ジョンソン首相、「トランス女性は女子競技に出るべきではない」と発言(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/61019271

Boris Johnson is losing his anti-trans ‘culture war’ on all fronts, polling suggests(PinkNews)
https://www.pinknews.co.uk/2022/04/12/conversion-therapy-ban-trans-yougov-boris-johnson/

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