g-lad xx

NEWS

日刊キリスト新聞が神政連や楊尚眞教授に取材、今回の差別的冊子配布事件が起こった経緯が見えてきました

2022年07月06日

 神道政治連盟国会議員懇談会で「同性愛は精神障害で依存症」「LGBTの自殺は本人のせい」など非科学的な主張が並べられた差別的な冊子が配布された問題について、神道政治連盟(神政連)がなぜ神道ではなくキリスト教系の楊尚眞教授(弘前学院大学)の講演録をわざわざ配布したのか、弘前学院大学はこの件をどう見ているのか、と気になった方もいらっしゃると思います。
 日刊キリスト新聞がその辺りのことについて神政連や楊氏に取材し、記事にまとめていましたので、ご紹介します。
 
 
 神政連の担当者によると、性的マイノリティをめぐる問題について「本質的な理解を深めるため」、昨年10月に連盟の機関誌「意(こころ)」(215号、現在はサイト上から削除)への寄稿を依頼したのがきっかけ。同誌には講演と同じ「同性愛と同性婚の真相を知る」と題して、楊氏による文章が掲載されています。その中で楊氏は、「同性愛を好感的に表現している映画や動画、BL/GL漫画に興味を抱き、同性との性行為を経験することによって同性愛者になることも」ある、「同性婚合法化は、公共の福祉、即ち、他者の権利に反することになり、憲法で保障されている表現・学問・思想・言論・信教の自由が侵害される」「環境の被害者となるのではなく、自然の摂理の中で生まれた人間がその摂理に従った生き方を取り戻して行くことが幸福な人間の姿」などと持論を展開しています。
 これに引き続くかたちで今年2月7日に楊氏を招いた講演が研修会として行なわれ、その講演録を冊子にしたものが今回議連で配布されました。研修会では、時事的な問題について内外から専門家を招いて講演を依頼してきたといい、楊氏の講演の内容について特に異論などは出なかったかを尋ねると、「講師個人の研究内容を披露していただき理解を深めるためのものなので、講演の内容について評価するものではない。懇談会では、神政連の活動である研修会の報告として配った」とのことです。
 なぜ神道関連の催しにキリスト教界から楊氏が選ばれたのかを問うと、「メディアでの発信を見て声をかけた」のだそうです。メディアでの発信というのは、昨年5月23日付の産経新聞の「自由の危機 LGBT差別解消の美名の下で…」と題する寄稿のことで、当時、超党派で議論されていた「LGBT理解増進法案」についての山谷えり子参議院議員(神政連国会議員懇談会にも所属)による発言を擁護するかたちで、「『性的少数者への差別をなくす』という美名の下、言論の自由、学問の自由などが制限される法律はつくってはならない」「性的少数者もそうでない人も等しく国民である。一方の意見だけを認め、もう一方の意見は存在すら認めないのでは、差別を解消するどころか反対派への逆差別を生むだけ」と主張するものでした。
 
 弘前学院大学の藁科勝之学長は7月1日付で以下のような声明を発表しています。
「この一両日、本学の一教員の論文がマスメディアに取り上げられ、本学にも、その内容等についての問い合わせが寄せられておりますが、本学は当該論文等には一切、関知及び関与もしておりません。
 本学は、建学の精神「畏神愛人」において「自己と異なる一人ひとりの人格と個性と立場を尊重し、受容すること」として、多様性の尊重を謳い、また、本学の教育方針については「弘前学院大学の教育方針」において、「すべての学生、教員、職員は相互の人格を尊重し、建学以来の伝統を重んじつつ、おのおのの立場において時代の要請に応える」ことを方針としております。
 なお、「LGBT」に関しては、2021年1月21日に学生・教職員が出席し、本学客員教授小林啓三先生による講演会を行い、多様性への理解とともにその認識を深めているところであります」

 松岡宗嗣さんは、この弘前学院大学の対応について「一研究者の立場や言論の自由は保障されるべきだとしても、差別的で著しく問題のある内容だった。大学として明確に内容を否定し、当該の教授に対して厳正に対応すべきではないか。差別は人を殺し得る。宗教は人を死に追いやるためではなく、弱い立場に置かれた人こそ抱き止め、共に同じ社会をより良く生きていくためにある尊いもののはず。神道関係者の中にも異論はあるはずだが、まだ一部に留まっている」と語っています。
 
 日刊キリスト新聞は、「学内にも当事者は必ずいる。今後、楊氏の司式のもとで行われる礼拝に、当事者はどのような心境で参列すればいいのだろうか。その胸中は察するに余りある。現在のところ藁科学長以外に、学内関係者を含め、キリスト教関係者からの公式な意見表明はまだない」と述べています。

 弘前学院は、日本メソジスト教会の創始者である本多庸一氏(弘前出身)によって1886年に設立されたプロテスタント系の伝統校です。大学の沿革には、「キリスト教の精神と本多先生の信条を建学の基とし、このような人間形成を教育の根底に据えて、その上で高度の専門の知識と技術を習得する事を志向している」とあり、2019年には同じメソジスト派にルーツを持つ青山学院大学と「連携・協力の推進に関する基本協定」を締結しています。
(なお、日本メソジスト教会は1941年に日本基督教団に合流しています。日本基督教団といえば、オープンリー・ゲイの牧師の平良愛香さんも所属している教団です)
(メソジスとは、18世紀、英国でジョン・ウェスレーによって興されたキリスト教の信仰覚醒運動の中核をなす主張であるメソジズムに生きた人々および、その運動から発展したプロテスタント教会・教派に属する人々を指します。英国メソジスト教会は英国での同性婚実現を支持し、昨年、同性婚への祝福を承認しています。一方、米国の合同メソジスト教会は、LGBTQを受け容れる人たちと認めない人たちがずっと内部で論争を繰り広げてきて、2020年にLGBTQの聖職者や同性婚を認めないグループが離脱し、分裂しています)
 
 在日大韓基督教会の牧師でもある楊氏は、2010年に同大学へ赴任。現在は唯一の宗教担当者として礼拝の司式やキリスト教関連の講義を担当しているそうです。日刊キリスト新聞の取材に対し、同氏は、「現在はコメントできる心境ではない」としながらも、「事実を歪曲して報じられた。選挙期間中、自民党を攻撃するために講演の一部を切り取って『差別的』と糾弾された」と反論したそうです。講演の内容は一個人の主張ではなくアメリカなどの研究で証明された「事実」に基づいており「差別の意図はない」、「あくまで個人的な研究であり、学内で同様の考えを披露したことはない」と主張しています。
 同じ在日大韓基督教会の関係者によると、かねてから楊氏の神学的立場は原理主義(ファンダメンタリズム)であり、以前にもLGBTQをめぐる差別的な言動で糾弾された経緯もあるといいます。なお、略歴に列挙された多数の著書について本人に尋ねると、いずれも自費出版であり、日本では聞き覚えのない「ダキュピア出版社」に至っては会社ではなく、韓国の印刷サービス業者であることが判明しました。

 話を要約すると、米国でキリスト教原理主義(≒アンチLGBTQの宗教右派)の思想に染まった楊尚眞氏が、日本で弘前学院大学に職を得ながら、その差別的な思想を披瀝する本を自費出版でせっせと出版してきて、これまではほとんど相手にされなかったものの、昨年5月の産経新聞への寄稿で展開した主張が、神政連のアンチLGBTQの運動を推進したい人たちの目に留まり(見込まれ)、今年2月、研修会に講師として呼ばれ、コンバージョンセラピーなど米国で見聞きしてきたアンチLGBTQの思想や運動の話が受けて、今回その講義録が議連で配布されたということのようです(言い換えると、LGBTQ差別ありきで、いかにLGBTQへの支援を止めるか、権利を認めさせないようにするかという一点で、宗教の枠すらも超えてキリスト教原理主義の楊氏が召喚されたと言えるのではないでしょうか)
 
 
 キリスト教の中にも非常に多様な宗派があり、また、同じ宗派であっても、LGBTQへのスタンスは、国や地域によっても異なりますし、時代や社会とともに変わっています(例えば、カトリックはいまだに同性婚を祝福しない方針ですが、スペインやフランス、アルゼンチンなど多くのカトリック主要国が同性婚を認めてきました。最近ではチリでも同性婚が実現しています。ローマ教皇のお膝元であるイタリアでもシビルユニオンが認められています)。一部の宗派や教団はLGBTQに対して不寛容なだけでなく、パレードに「地獄に堕ちろ」というプラカードを向けたり、強力に同性婚反対運動を展開したり、トランスジェンダーへの攻撃を強めるなど、激しくアンチLGBTQの活動を展開してきました(その影響が日本にも及んでいることが明らかになりつつあります)が、こうした一部の「カルト的」な宗派や教団はともかく、キリスト教自体が本質的にLGBTQを差別していると見なすことには慎重にならなければいけないと思います(神道もそうですし、イスラム教などもそうです)
 今回の日刊キリスト新聞の記事は、神政連や楊氏を追及するだけでなく、7月4日に行なわれた抗議デモのことも紹介したり、終始私たちに寄り添うスタンスで書いてくれていて、素晴らしいと感じます(感謝です)。日本でも何人かカミングアウトしている牧師さんもいますし、LGBTQのキリスト者のグループなどもあります。また、つい先日、平良愛香さんが監修を務める『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』という本も発刊されたそうです。
 
 
 
参考記事:
神道政治連盟 弘前学院大学宗教主任によるLGBT断罪の講演録を配布 大学側は「関知しない」(日刊キリスト新聞)
https://christianpress.jp/55004/

INDEX

SCHEDULE

    記事はありません。