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【追悼】人類で初めてAIと融合して「サイボーグ」として生きる決断をしたピーター・スコット-モーガン博士(の肉体)

2022年07月07日

 昨年、「すべては、愛のために」――人類で初めてAIと融合し、サイボーグとして生きる決断をしたピーター・スコット・モーガン博士が、夫との真実の愛を描いた著書が刊行との記事をお届けしていましたが、ピーター・スコット-モーガン博士は2005年、シビルユニオンが認められた英国で初めて同性パートナーと結婚し、経営戦略コンサルタントとして若くして大きな成功を収めながら、2017年に全身の筋肉が動かなくなる難病ALSで余命2年を宣告され、それを機に、人類で初めてAIと融合して「サイボーグ」として生きる未来を選んだ方でした。が、願いが叶うことなく、今年6月15日にその「肉体は」逝去されたそうです。今のところ「AIとしてのピーター博士」の活動は見られません。現在の技術は、ピーター博士が抱いたAIとの融合という夢に追いつけなかったのでしょうか…。
 
 
 NHK「クローズアップ現代+」の「ピーター2.0 サイボーグとして生きる 脳とAI最前線」でピーター博士と共演した稲見昌彦・東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野教授が『東洋経済』に追悼文を寄せています。
「2022年6月15日、ピーター・スコット-モーガンさんの肉体が安らかに息を引き取られたと、ご自身のTwitterで報告がありました。ご家族、ご近親の皆様に心からお悔やみを申し上げます。
 ピーターさんの「肉体」とあえて記したことを、関係者の方々には許していただけるかと思います。
 たとえ身体が旅立ったとしても、彼の精神(スピリット)が生きながらえることは、私を含めた支持者の願いであり、ご本人の遺志でもあったからです。しかも二重の意味において。
 ピーターさんは、身体を次第に動かせなくなる難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患いながら、暗転した運命に果敢に立ち向かってきました。彼の武器は最先端のテクノロジーでした。衰えゆく肉体の機能を人工知能(AI)とロボット技術で補う人類初のサイボーグ、「ピーター2.0」として生きる道を選んだのです。
 その帰結の1つが、彼自身とAIとの融合です。ともに生きるにつれて彼の思考法や感じ方を学んだAIが、次第に本人と見分けがつかなくなる将来を思い描いていたのです。
 ピーターさんの生き様を記した著書『ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』では、肉体を失った後もAI「ピーター3.0」として生き続ける決意を表明していました。ピーターさんのパートナーであるフランシスさんは、「AIを愛する史上初の人間になる」とまでおっしゃっていたほどです。
 現在の技術が、彼のアイデアに追いつけたのかどうかはわかりません。2022年6月末現在、ご本人のTwitterの更新は止まったままです。それでも、AIとしてのピーターさんがプライベートに活動している可能性は否定できませんし、彼自身のケースが時期尚早だったとしても、AIによる人格の継続という構想は、後進の研究者に必ずや引き継がれていくはずです。
 ピーターさんの遺志を継ぐという、もう1つの意味でのスピリットの継承は確実に果たされていくことでしょう。数々の開発の主体として立ち上げた財団「スコット-モーガン基金」の活動にとどまらず、彼の精神は難病に苦しむ多くの方々、医療関係者、さらには研究者やエンジニアにも影響を与え続けています」
「ピーターさんはその生涯を通じて、世の中の固定観念をいくつも覆してきました。言葉を換えると、確かにあるにもかかわらず、多くの人には不可視だった人間社会の壁と、一生を通じて戦ってきたとも言えます。ALS、そして肉体の死を巡る攻防は、その1つにすぎませんでした。
 少年時代の彼が直面したのが、性的マイノリティに対する偏見です。イギリスの上流階級に生まれ、名門のキングス・カレッジ・スクールに通っていた彼は、同性愛者であることが明るみに出て、学校から屈辱的な仕打ちを受けます。
 しかし、21歳になる直前にフランシスさんと出会ったピーターさんは、同性カップルであることを隠さず交際を続け、2005年に始まった「シビル・パートナーシップ制度」によって、結婚した夫妻と同等の権利が認められたイギリス初の同性カップルになりました。それだけでなく、制度に反対する勢力に抗うために結婚披露宴を開き、新しい時代の到来をメディアを通じて世界に知らしめたのです。
 社会に出て経営コンサルタントになったピーターさんが目をつけたのは、企業における「暗黙のルール」でした。企業における語られないルール、そして変革を阻害する、見えざる障壁をそう呼んだ彼は、当時勤務していたコンサルティング会社で、企業をカルチャーごと変革するテクニックを提案します。
 社内政治で潰されそうになりながらも、大口顧客を味方につけて形勢を逆転したピーターさんは、同社で最年少のジュニアパートナーに就任。世界を股にかけて活躍し、著名コンサルタントとして独立を果たしました。
 困難を前にした彼の行動を裏打ちするのが、将来に対する鮮明なビジョンです。
 人はマイナスの状況に置かれたときに、なんとかイーブン、ゼロの状態に持っていこうとするものです。しかし、ピーターさんは違いました。逆境の先に、プラスの価値を生むビジョンを打ち立て、そこに向けて突き進んだのです。
 性的な差別がないだけでなく、ありのままに自分らしく生きることに誇りを持てる社会。旧弊を断ち切り、まったく新しい姿に生まれ変わる企業。そして、難病患者に限らず、誰もが肉体の制約から自由になれる未来。
 目先の問題への対処にとどまらず、創造的な解決策を打ち出すことは、私自身、コロナ禍におけるスローガンとして掲げてきたのですが、ピーターさんの歩みには、その真髄を見る思いです」
「ピーターさん、勇気と希望にあふれる背中を私たちに示してくれて、どうもありがとう」

 稲見教授も触れているように、ピーター・スコット-モーガンは、ウィンブルドンにある全寮制の名門キングス・カレッジ・スクールで初等・中等教育を受けましたが、ゲイであるがゆえに校長から鞭で打たれるという理不尽な迫害を受けました。1970年代のことです。
 しかし、1979年にフランシスと出会い、パートナーシップを築き、2005年12月21日、英国でシビルユニオンが認められた日にデボン州の大邸宅Oldway Mansionで結婚式を挙げ、国内の同性婚第1号カップルとなりました。2014年12月10日には、デボン州で初めてシビルパートナーシップを遡及的に婚姻に変更する法的文書に署名する者として選ばれ、2005年12月21日から正式な夫婦であることが法的に認められました。
 著書『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン――究極の自由を得る未来』には、フランシスとの40年にわたるパートナーシップが彼を強くしたという感動的なストーリーが語られているそうです。
 ゲイとしても、起業家としても活躍し、不治の病にかかり余命宣告をされても前人未到の領域にチャレンジしようとしたパイオニアとなったピーター・スコット-モーガン博士。肉体はなくなりましたが、「AIとしてのピーター博士」が生きている可能性はゼロではないとのこと。いつか、ご本人のTwitterが再開されたりしてAIとして生きていることが証明されたら、素晴らしいですね。
 
 
参考記事:
64歳で逝去「人類初サイボーグ」が世界に遺した物(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/601582

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