g-lad xx

NEWS

ビヨンセの最新アルバム『ルネッサンス』が、ゲイクラブやクィアコミュニティへの愛が詰まった名作だと称えられています

2022年08月06日

 ビヨンセが7月29日、6年ぶりとなるアルバム『ルネッサンス(Renaissance)』をリリースしました。80年代〜90年代のゲイクラブを彷彿させるクラシックなハウスが多用され、たくさんのゲイアンセムや、クィア・アーティストの楽曲がサンプリングされ、ゲイだったビヨンセの亡き叔父・ジョニーに捧げる楽曲なども盛り込まれた、LGBTQコミュニティへの愛が詰まったアルバムだと称えられています。

 ニューアルバム『ルネッサンス(Renaissance)』のリリースに先駆け、ビヨンセは新曲「Break My Soul」をリリースしています。クラシックな4つ打ちハウスビートに乗せて「あなたに私の魂は壊せない」「怒りも、心も、仕事も解き放って」「愛を解き放って。残りのことは忘れて」と歌う、この心地よい楽曲は、ロビンSの「Show Me Love」や、バウンス界の人気クィア・ラッパー、ビッグ・フリーディアの「Explode」がサンプリングされており、ハウスミュージックを率いる黒人およびクィアコミュニティへの讃歌となっています。
(8/6にリリースされた「Break My Soul(The Queens Remix)」は、マドンナの「Vogue」の引用…と言うよりは、ほとんど「Vogue」とのマッシュアップになっていて(ビヨンセとマドンナが楽曲でコラボするのはこれが初)、オリジナルで「グレイス・ケリー、ハーロウ・ジーン…」と往年のハリウッドスターの名前を挙げていく部分で、アレサ、ダイアナ、ジャネット、ホイットニーなど偉大な黒人女性アーティストたちの名前が次々と挙げられ、そして、ハウス・オヴ・ニンジャをはじめボールルームシーン(すなわち本家のVogue)のレジェンドの名前も挙げられています。マドンナがフィーチャーしたVogue(ボールルーム)のもともとの担い手である黒人クィアたちを、アメリカのブラックカルチャーにおける女性&クィアアーティストという文脈で捉え返し(ある意味、取り戻し)、包摂し、称賛しているのだと思います。素晴らしすぎます。感動です)
 
 この黒人およびクィアコミュニティへの賛歌というテーマは、アルバムの収録曲に散りばめられています。
 
 アルバムの2曲目は、ディープなアンダーグラウンド・ハウスであり、「まるで1980~90年代のゲイクラブに迷い込んだかのようで、ゲイダンサーたちがボールダンスやヴォーギングしている様子が脳裏に浮かぶ」と評されている「Cosy」。その「あなたは神、あなたはヒーロー」「あなたはすべてを乗り越えてきた」という歌詞は、まるでクイーンの「We are the champions」のよう。「街にはレインボーのジェラート」というフレーズもあります。

 続く「ALIEN SUPERSTAR」はDanube Danceのゲイアンセム「Unique」のフレーズがフィーチャーされ、ビヨンセが「あなたはユニークな存在よ」と励ましの言葉を送っています。「ユニコーンはあなたの制服。あなたが踊ると目が釘付け」「カテゴリーはセクシー・ビッチ」といったリリックもクィアコミュニティへの愛が感じられます。ライト・セッド・フレッドの大ヒット曲「I’m Too Sexy」も引用されています。「Cosy」とこの曲には黒人でトランスジェンダーであるハウスミュージックのアイコン的存在、ハニー・ディジョンがプロデュースに関わっています。

 5曲目の「ENERGY (FEAT. BEAM)」もビッグ・フリーディアの「Explode」をサンプリング、その「Energy」というフレーズが繰り返されます。

 10曲目の「MOVE (feat. Grace Jones and Tems)」は、あのグレイス・ジョーンズをフィーチャー。70年代にアンディ・ウォーホールのミューズとなり、81年のアルバム『ナイトクラビング』は『NME』誌のアルバム・オブ・ザ・イヤーに選出、ライブではほとんどドラァグクイーンのような衣装でオーディエンスを楽しませてきた「クラブシーンの女王」。LGBTQコミュニティの一員でもあります。
 
 「Heated」は、ゲイだったビヨンセの亡き叔父、ジョニーに捧げる楽曲です。ビヨンセはこの曲の収録について「ジョニーは私のゴッドマザーであり、このアルバムにインスピレーションを与えてくれたたくさんお音楽やカルチャーを私に教えてくれた最初の人でした」「あまりにも長い間、その貢献が認識されなかったすべての堕天使たちに感謝します。これはあなたたちへの祝福です」というコメントを綴っています。曲は後半、ビヨンセによるボールルーム(『パリ、夜は眠らない』『POSE』で描かれている黒人・ラティンクスのクィアのパーティ)のチャントに変わりますが、その最後は「ジョニーおじさんは私のドレスを作ってくれた」というリリックで締められ、胸を熱くさせます。

 15曲目の「PURE/HONEY」は、Moi Renee「Miss Honey」や、ケヴィン・アヴィアンス「Cunty」といったゲイクラブのアンセムがサンプリングされたアンダーグラウンド・ハウスです。

 アルバムのフィナーレを飾る「SUMMER RENAISSANCE」もクラシックな4つ打ちハウスで、(サム・スミスもカバーしている)永遠のゲイアンセム、ドナ・サマーの「I Feel Love」がフィーチャーされています。ビヨンセがあの「Oooh, It's so good, It's so good, It's so good」というフレーズを艶めかしく歌い上げるとき、このアルバム全体がゲイクラブへのオマージュだったということが高らかに告げられたような気がして、感動に涙してしまいそうになります。
 

 音楽界に様々な革命を起こし、世界で最も崇拝されるアーティストの一人であるビヨンセは、バックバンドやバックダンサーをオール女性で揃えるなど(「Run the World (Girls)」もそうですが)女性たちのパワーを高らかに誇ってきたことで知られていますが、これまで、例えばマドンナやレディ・ガガほどにはLGBTQ支援のメッセージは発してこなかったと思われているかもしれません。しかし今回の『ルネッサンス』は、正真正銘、ゲイクラブやクィアコミュニティへの賛歌です。「こんなアルバムを待っていた!」と言いたくなるような、拍手モノの名作です。
 

★ここで紹介した楽曲の動画(リリックビデオ)はこちらをご覧ください


参考記事:
ビヨンセの最新アルバム『ルネッサンス』をもっと楽しむための、5つのポイント。(VOGUE JAPAN)
https://www.vogue.co.jp/celebrity/article/uk-vogue-beyonce-renaissance
ビヨンセ『RENAISSANCE』全曲解説 開放感に満ちたニューアルバム最速レビュー(Rolling Stone Japan)
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/38112

INDEX

SCHEDULE