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サル痘の治療の流れや予防接種の可能性について国立感染症研究所感染症危機管理研究センターの齋藤智也センター長にお話を聞きました

2022年08月13日

 2022年8月9日、国立感染症研究所がサル痘について、ゲイ・バイセクシュアル男性コミュニティ向けに取材・意見交換(オンラインミーティング)の場を設けてくださいました。これまで国立感染症研究所と意見交換を行なってきたぷれいす東京、akta、MASH大阪の働きかけのおかげで実現したものです。
 当日は、こちらの記事でもフィーチャーされている国立感染症研究所感染症危機管理研究センターの齋藤智也センター長から、サル痘の基礎知識についてお話があり、そのあと、質問に答えてくださいました。g-lad xxでもサル痘について早くから情報をお届けするとともに「サル痘への偏見や感染者への差別を克服しながら予防に努めましょう」というコラムに情報をまとめておりますが、まだまだわからないことも多く、いい機会でしたので、よくわからなかったことをお聞きしてみました。また、今後、日本のゲイ・バイセクシュアル男性の間で感染が広がるかもしれない懸念を踏まえて、ご要望といいますか、ご提案したいこともありました。決してサル痘についてのあれこれを網羅するものではなく、そうした点に絞っての質問とお答えになりますが、ご紹介いたします。(のちほど上記コラムにも今回の情報を追加します)

◎サル痘の基本情報について、まずこちらをご覧ください。
→コラム「サル痘への偏見や感染者への差別を克服しながら予防に努めましょう

 
1. 感染したかも、と思う方が安心して病院にかかり、治療を受けられる体制になっているのかどうか

ーーまず、高熱やリンパの腫れといった症状が現れた、1週間くらい前に接触の心当たりがあり、これはもしかしたらサル痘かもしれないと思った際、どの病院に行けばよいでしょうか。かかりつけ医でしょうか。

齋藤先生:最寄りの医療機関や保健所にまずご相談いただければと思います。ただし、現時点では国内で稀な感染症であることから、すべての医療機関で検査や診療を行なうことは実際のところ難しいかもしれません。各自治体において、サル痘患者等の受入れや接触者の発症時の受診について、管内の感染症指定医療機関等と協議を行ない、受入れ体制を整備しているところです。症例数の少ない初期の間は、サル痘の疑いがある場合はまず、特定感染症指定医療機関や第一種感染症指定医療機関等に紹介、検査を受けていただくという流れが検討されます。

ーー熱はないけど陰部や肛門に発疹ができ、これはサル痘に違いないと思った方は、どの病院に行けばよいのでしょうか。皮膚科でしょうか。

齋藤先生:最寄りの医療機関か保健所にご相談頂くか、感染症指定医療機関や感染症科のある医療機関にご相談することをお勧めします。

ーー新型コロナにおける「発熱相談センター」のような窓口はないのでしょうか。

齋藤先生:今はありません。今後、感染の状況を見て、設置されるかもしれませんが、今はそこまでではないので。
 
ーー厚労省の「サル痘について」によると、サル痘は国内では感染症法上の四類感染症に指定されています。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では、四類感染症の患者又は無症状病原体保有者及び新感染症にかかっていると疑われる者は、「直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を」届け出なければならない、とされています。これだけ「ゲイの病気」と言われてしまっているなかで、氏名などが伝わってしまうとなると、自分の性的指向がバレるのではないかと危惧し、受診をためらう方も出てくるのでは…ということも懸念されるのですが…。

齋藤先生:住所や氏名などの報告を保健所から行なうことになっていますが、あくまでも積極的疫学調査で、公衆衛生のための情報収集であり、決して公開されることはなく、関係者しか目にすることはありません。不安な方もいらっしゃると思いますが、調査や報告はプライバシーに配慮して行なわれますし、例えば濃厚接触の調査であれば、ご本人の了承を得てからご連絡するなどの手順を踏みますので、ご心配されませんように。

ーー最初の感染者について、ネット上では、この人はゲイじゃないのか、「その後サル痘と診断された者との接触歴あり」とされているが、セックスじゃないのか、といった詮索がなされたりしました。今後、私たちのコミュニティで第4、第5の感染者になるかもしれない方は、自分がもし感染したら、そういう詮索を受けるのではないか、万が一周囲に伝わってしまったらどんな差別やバッシングに遭うのか…と不安に感じる方もいらっしゃると思います。プライバシーの保護について、安心材料となるようなお話をお伺いできれば幸いです。
 
齋藤先生:行政のプレスリリースもプライバシーには配慮しています。性別、年代、都道府県、海外渡航歴は公表しますが、それ以上の情報、性的指向などについては発表しません。調査の過程ではお聞きすることもありますが、それをそのまま公表することはありません。もしMSMの方だとしても、今後10例、20例と集まってきた場合、感染リスクや重症化リスクが高い人に注意を促し、ご自身が予防行動をとるために、この情報を「何%」という数字で報告することもあると思いますが、個人が特定されるようなかたちでは発表しません。また、サル痘は誰にでも感染するということは強調したいです。



2. ゲイ・バイセクシュアル男性ヘの予防接種について

ーー8月1日に開催された厚生科学審議会感染症部会で、感染者との接触リスクが高く、接種を希望する医療従事者に広く曝露前予防としてワクチンを接種することが承認されました。しかし、欧米のように、ハイリスクグループであるゲイ・バイセクシュアル男性に対して曝露前予防としてのワクチン接種を行なうということは検討されていないようです。現在のサル痘のパンデミックは90%以上がMSMに集中していて、MSMへの曝露前予防としてのワクチン接種を行なうことによってまずMSMの間での感染拡大を抑えることが、結局は、社会全体に感染が広がることを防ぐことにつながるのは明らかだと思います(サル痘の感染はマスクなしの長時間の会話や、寝具の共有、発疹への接触などでも起こるわけですから)。ぜひMSMヘの予防接種を検討されてはいかがでしょうか?
 
齋藤先生:国によって政策が違っていて、基本的には患者に接する可能性ある医療者や、ウイルスを扱う検査対応者に接種していますが、ハイリスクな性的接触があった方にワクチンを接種する国もあります。ワクチンには副反応のリスクもあり、効果とのバランスを考えて慎重に行なう必要があると考えています。欧米の場合、すでに相当感染が広まっていて、一例一例での接触追跡などの対処では抑えられなくなっていて、ある程度ターゲットを絞って、という対策を取らざるをえない状況です。日本はまだ、そこまでやる段階ではありません。日本のワクチンは、一定の副反応はあるかもしれませんが、安全性の高いワクチンです。また、濃厚接触者の方は、希望があればワクチンを打てるようになっています。さほど感染が広がっていない今の段階では、すぐ行なうことはせず、状況を見ながらということになると思います。

ーー2022年4月27日〜6月24日に16ヵ国43施設で診断された528人のサル痘感染症例についてまとめた論文「Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries ― April-June 2022」(『The New England Journal of Medicine』誌に掲載)で、感染者の41%がHIV陽性者だったとされています。MSMのなかでもHIV陽性者が感染しやすいということは言えると思います。一方、今回厚労省で承認されたKMバイオロジクスのワクチンは「生ワクチン」で、HIV陽性などで免疫の状態がよくない方には使えないのではないかと思います(国立国際医療研究センターの「サル痘における曝露後予防としての痘そうワクチンの有効性及び安全性を検討する非盲検単群試験」への参加について」にも「免疫機能に異常のある疾患を有する方」は参加できないと書かれています)。欧米で使われている、デンマークのババリアン・ノルディック社が製造しているImvanex(米国では「Jynneos」)は、天然痘やサル痘を引き起こすウイルスに近いものの害が少ない、増殖力のないMVA(改変ワクシニアアンカラ)を利用したもので、HIV陽性者でも接種できるものです。HIV陽性者の方が安心してワクチンが打てるよう、MVAタイプのワクチンの接種もご検討いただけるとよいかと思うのですが、いかがでしょうか?

齋藤先生:実際に免疫不全の人に接種して安全性を確認できれば、安全性が高いと言えます。今回承認されたKMバイオロジクスのワクチン「LC16」を実際に免疫不全の方に接種した事例はないのですが、動物実験で、免疫不全のマウスやサルに接種し、重篤な副反応がなく、ちゃんと防御効果がみられたということは確認されています。ただし、実際に、HIVのコントロールができていない(CD4が低く、免疫不全を起こしそうな)方が仮に濃厚接種者になった場合、迷うところです。ババリアン・ノルディック社のワクチンは国内で承認されていません。薬がありますので、治療が重要になってくるでしょう。難しい判断です。



3. プールやお風呂で感染するのかどうか
 
ーー7/22のCNN「全米でサル痘のクラスター、パーティーなどで感染急拡大」という記事で、「音楽フェスティバルやプールパーティー、温浴施設などを通じ、サル痘のクラスター(感染者集団)が急拡大している」とあり、ネット上で過敏に反応するコメントが見られます(ちなみに、プールパーティに触れているのはこの記事だけです)。本当にプールや温泉で拡大するのでしょうか。水中を漂ったウイルスが皮膚に付着して感染させるということは考えにくく、あるとしたら、そういうパーティでマスクなしでしゃべったり、抱き合ったりキスしたりということだと思うのですが…。いかがでしょうか?

齋藤先生:正しいと思います。水を介してではないですね。飛沫感染であったり、皮膚と皮膚が接触するような濃厚接触による感染です。

ーーありがとうございます!




◎8月12日、国立感染症研究所公式サイトに「サル痘に関するQ&A」が公開されました。そちらもぜひ、ご覧ください。




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