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米政府のサル痘への対応が遅いのはホモフォビアが原因だとジョナサン・ヴァン・ネスが批判しました

2022年08月20日

  アメリカのゲイの方たちが、サル痘について次々に声を上げています。

 ポルノ俳優のシルバー・スティールさんは勇敢にも、口元に疱疹ができてから治るまでの3週間、どのように変化していくかを克明に記録し、その一連の画像をインスタグラムで公開しました(こちらに画像が掲載されています)
 彼は7月4日、ある同性愛者のパーティに出席して感染したそうです。1週間後、口元に正体不明の疱疹ができはじめたのを発見し、初めはかみそりのせいではないかと思ったのですが、すぐに痛みが激しくなり、「ナイフで刺したかのように口の周りの疱疹が激痛を伴い、気絶するところだった」といいます。それから4日後にはリンパ線が腫れ、ものを飲み込むのも困難を感じ、吐き気や発熱も始まり、病院に行ってサル痘陽性の診断を受けました。かさぶたができると徐々に好転し、8月になってからは薄いかさぶたが残りながら症状がほぼ消えました。
 シルバーさんは、「私は誰かを怒らせようとしているのではなく、啓発のためだ」としながら、「すべての人が同じ経過で症状が出るわけではないが、1人以上の専門家から私の症状が『臨床的に完ぺきな事例』なので米疾病対策センター(CDC)や医学ジャーナルに使われると聞いた」と語りました。
 シルバーさんは、「私のようになりたくないならワクチンを打ったほうがいい」「飛まつ感染なので、キスをしたり飲み物を共有したりしてはならない。皮膚に疱疹などがある人に触れば感染する場合がある」「手指消毒剤をきちんと使い、ハグやキスの代わりに手を振って挨拶をし、多くの人々が汗を流す行事では気を付けたほうがいい」とアドバイスしました。

 俳優/映像作家のマット・フォードさんは、『Newsweek』に寄稿し、サル痘に感染したときの体験をリアルに語りました。
 マットさんは6月17日、皮膚の微妙な病変に気付いたとき、友人から電話があり、サル痘に感染したらしいと聞き、翌週のニューヨーク・プライドで予定していたイベントをキャンセルすることを覚悟しました。
 最初は腹部や陰部などに少し発疹が出ただけで、特に痛みもかゆみもありませんでしたが、次第に肩や足、顔にも病変が現れ、腫れが大きくなるとかゆみや痛みが出てきました。腫れ物がつぶれ、膿が出て、新しい皮膚が再生されるまではひたすら痛みを我慢し、ようやく落ち着いたのは6月も末になってからでした。
 マットさんはネットにサル痘の動画を投稿しました。プライド月間でもあり、クィアの仲間にメッセージを届けたかったからだそうです。「サル痘は同性間の性交渉でのみ感染すると思い込んでいるクィア男性は多い。だから、なかなか感染の事実を人に告げにくい。私自身、「おまえはゲイだろう」とネットで中傷された。卑劣な話だから、私は無視した」「サル痘は新型コロナとは違う。感染経路は限られていて、キスやセックスを含むスキンシップか、誰かの病変に触れた場合に限られるという。そうであれば、新型コロナほどの社会的影響はあるまい。そう、私は信じている」
 彼は7月21日にニューヨークでHIV団体「ACT UP」が開催した「サル痘と政府の失策への抗議デモ」に参加し、スピーチしています。
 
 『クィア・アイ』の美容担当で、優しくチャーミングなキャラクターで知られるジョナサン・ヴァン・ネス。2019年にHIV陽性であることをカムアウトしていますが、かつてのエイズ対策の失敗も踏まえながら、サル痘についての政府の対応が遅いのはホモフォビアが原因ではないかと批判しました。
 ジョナサン・ヴァン・ネスは『Time』誌に寄稿し、「サル痘に対する政府の未熟な対応を見続けているのは、奇妙なことです。そして多くの面から、私はそれがホモフォビアやトランスフォビアによって加速していると信じています。アウトブレイクが主にMSMに影響する場合、選挙で選ばれた議員の多くには行動に起こす動機がありません。議員は自分たちの支援者には関係のないことだと思うからです。人々の命が危険にさらされていて、50のすべての州にクィア・ピープルがいるのですから、それはもちろんバカげたことです」と述べました。
 ジョナサンはさらに、80年代のエイズ危機にも言及し、ジョナサンは、連邦政府がかつて「ゲイの癌」だとの偏見からエイズ対策を遅らせ、多くのゲイたちを見殺しにしてきた経験をしておきながら、今回も対応が改善されていないことについて、「リーダーたちには非常に落胆しています。とくに、バイデン大統領やペロシ下院議員といった、エイズ危機真っ只中にも政治家だった人達には」と苦言を呈しました。
 ジョナサンの周りでも感染者が出ており、ワクチンも行き渡っていないと実感しているそうで、「私たちは最近の歴史のなかで、政権が多くのワクチンを早急に調達したのを目撃しました。この政権がサル痘のワクチンを早急に調達することを優先するのを目撃できていないのはなぜなのでしょうか?」と訴えました。
「そして覚えていてください。現在の問題はサル痘ですが、HIVもまだあります。人々が苦しんでいる様々な病気があり、治療にアクセスするためには多くのスティグマとバリアを乗り越えなくてはなりません。これは、サル痘の話ではありません。私たちがどうやって常に周縁化されている人々を見捨てているか、についての物語です。私たちは何を目撃したいのかということについて、勇敢にならなくてはいけません。そして、誰も、この2ヵ月で広がっているアウトブレイクを目撃したいとは思っていませんでした」


 米国では8月18日現在、サル痘感染者が1万4114人に上っており、すでに各地域に配布しているワクチンおよそ100万回分とは別に追加でおよそ180万回分のワクチンを今月22日から配布す、さらに、感染リスクの高い人たち(ゲイ・バイセクシュアル男性と思われます)が集まるイベントに合わせてワクチンを接種できるよう準備を進めることや、およそ5万人分の治療薬を追加で用意し、特に多くの感染者が出ている地域などで利用できるようにするとしています。
 対応が遅い、ワクチンが足りないと批判されていますが、米国政府はこのように(感染者の95%以上を占める)ゲイ・バイセクシュアル男性向けに予防としてワクチンの接種を進めています(これほど感染者の層がはっきりしているのですから、そうした人たちに優先的にワクチンを接種することが感染拡大を抑えるうえで効果的であることが明らかだからです)。日本では、まだ感染が拡大していないため、医療従事者以外への予防接種をすることは考えられていませんが(詳細はこちら)、もし今後、感染が拡大した場合、果たして私たちはワクチン接種を行なってもらえるのでしょうか…米国のゲイの方々に倣い、コミュニティとして声を上げていかなくてはいけないと思います。

 

参考記事:
疱疹が次々と出現「気絶するところだった」…米ポルノ俳優が苦痛を受けたこの病気(中央日報)
https://japanese.joins.com/JArticle/294519

急に集中力が落ちて、皮膚に病変──サル痘に感染した想像以上の過酷な日々(ニューズウィーク日本版)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/08/post-99379.php

サル痘への対応が遅いのは「ホモフォビア」が原因、ジョナサン・ヴァン・ネスが苦言(フロントロウ)
https://front-row.jp/_ct/17563609

米 サル痘感染拡大で新たに180万回分ワクチン追加など対策(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220819/k10013778271000.html

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