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元警察官&元消防士のゲイカップルが「男社会」の職場から抜け出した理由を語りました

2022年09月12日

 「元消防士と元警察官のゲイカップル」としてYouTubeチャンネル「KANE and KOTFE」で日常のいろいろを発信しているKANEさん(35歳)とKOTFEさん(40歳)が、複数のメディアでフィーチャーされています。お二人は、警察官や消防士という体を張って市民を守る仕事にやりがいを感じながらも、男社会(ホモソーシャル)な職場でのホモフォビアに悩まされ、苦しんできた、という実体験を赤裸々に語り、注目を集めています。
 

 KOTFEさんは小学3年から地元・堺市の町道場で柔道に打ち込み、スポーツ推薦で清風中高へ進学し、主将としてインターハイに出場したという経歴の持ち主です。
 柔道の世界は暴力と隣り合わせで、先輩に目をつけられた選手が何十分も絞め技や関節技をかけ続けられ、痛めつけられる場面も見聞きしてきたといいます。「ゲイだとばれたら、いじめられて大好きな柔道が続けられなくなる。口がさけても言えなかった」 
 「柔道を最初に教わったのが駐在所のお巡りさん。小さい頃から警察官になりたかった」というKOTFEさんは、大学を出たあと、京都府警に就職、1年の交番勤務を経て、機動隊で柔道を専門とする特別練習生となり、デモ警備や東日本大震災の行方不明者の捜索、京都アニメーション放火殺人事件での犯罪被害者支援などにも携わりました。苦しんでいる人の力になったり人々の生活を守ったりする仕事には、とてもやりがいが感じられました。
 しかし、警察署は宿直勤務などもあり、同僚と長時間を過ごす職場であるため、休憩時間に「彼女はいるのか」「結婚はまだか」と問われ、ごまかすのに必死でした。合コンに誘われれば、怪しまれないよう無理をして参加しました。  
「あいつ、今流行りのLGBTらしいで」とニヤニヤしながらアウティングする上司もいました。性的マイノリティは笑いのネタにされることも多く、とてもじゃないけどカミングアウトなどできませんでした。また、職場では、家族を持てなければ“半人前”とみなされる風潮があり、KOTFEさんもそのレッテルを貼られました。だからこそ、仕事は人の倍以上やるようにしていたそうです。休職したり辞めたりする人も多く、仕事は増えていき、それでも「できない」とは言えず、“半人前”な自分も優秀であれば、万が一ゲイだとバレても何とかなるかもしれないと思い、頑張ったそうです。
 そういう無理な働き方や本当のことを隠し続けてきたストレスが原因で、腹痛や不眠に悩まされるようになり、2年前(2020年)には適応障害と診断され、そのまま休職することになりました。「カミングアウトをしてもしなくても、その職場で心身ともに健康に働けるイメージを持てなかった」といい、これ以上自分を偽って生きるのはいやだという思いがつのり、KANEさんと相談し、二人で職場を辞めることを決めました。2021年3月のことです。
 
 KANEさんも、消防士になることが小さい頃からの夢だったといいます。生活保護を受けていた家で、なんとか高校に進学したものの、ボロボロの服を着ている自分と周囲の差に、なんとも言えない虚しさを感じていたといいます。卒業後、スポーツ用品に関連する仕事に就いたあと、アルバイトをしながら公務員予備校に通い、23歳のときに念願叶って大阪市消防局の消防士になりました。念願だった消防士の仕事はとてもやりがいがあり、多くの人の役に立てる仕事を誇りに思ったといいます。しかし、心身の不調で休職していたKOTFEさんと話し合い、11年間の消防士生活にピリオドを打ちました。
 仕事から離れて初めて、差別的な職場環境で働くことのしんどさが辞めたい気持ちにつながっていたのだと気づいたそうです。
 消防の現場は昔ながらの男社会で、同僚と長い時間一緒に働く泊まり勤務ではプライベートな会話は避けられず、よく「彼女おらんのか?」と聞かれました。合コンや性風俗にも誘われました。「先輩の言うことは絶対」という時代でもあり、断れずに行くこともあったそうです。6年目のとき、上司にカミングアウトし、泊まり勤務がしんどいということを相談しました。幸い、理解のある方で、日勤のみの部署に異動させてもらえたそうです。それでも職場にはホモフォビックな(ゲイ差別的な)言葉が飛び交っていて、無意識の我慢が自分を疲弊させていたことに、辞めてから気づいたそうです。
「僕の働く消防署ではLGBTの研修はあったんですが、名ばかりのものでした。講師の人がLGBTのことを理解しないまま指導しているのが伝わってきましたし、そもそも職場に当事者がいないこと前提で話されるんですよね。研修後も同僚が『子どもがゲイやったら絶対いややわ』とふざけるなか、自分がゲイだとばれないかドキドキしていました」
 ほかにも「ゲイはみんなエイズ持っとるわ」と言った人もいたそうです(本当にひどいですね…)
 KANEさんは、消防士の仕事を誇りに感じていたからこそ「仕事を好きな人が辞めなくてもよい組織になってほしい」と語ります。
 
 KANEさんが、自身がゲイであることをなかなか受け容れられず、KOTFEさんに出会うまで幸せを感じられなかったという話も、身につまされるものがあります。同じような経験をしてきた方、少なくないと思います。
 高校時代は女の子に恋をすることもあり、「自分は少し、性的な興味があるだけ。絶対、男なんて好きにならない」と思い、自分のように「ゲイではないけれど、男性に興味がある」人と友達になりたいと思い、ゲイ向けのSNSを通していろんな人に会いましたが、なかなかうまくいかず、セックスだけで終わることばかりでした。24歳のときにSNSでKOTFEさんに出会い、一緒にいて今まで感じたことのない楽しさを味わいました。そしてKOTFEさんからつきあってほしいと言われましたが、「自分は友達が欲しいだけ。人を信じるのも怖いし、踏み込んでこないでほしい」という葛藤もあり、返事を保留しました。あえて仲のいい女性がいることなども繰り返し伝えて牽制すると、KOTFEさんに「KANEくんのこと、めっちゃ好きになっているからしんどい。望みがないなら、もう会わんとこ」と言われ、自分が悪いとわかりつつも、KOTFEさんを失うのはいやで、泣きながら「ずっと世間体を気にして生きてきたから、どうすればよいかわからない。貧乏だったから、普通の家庭に憧れていたし、自分がゲイだと認められない。ゲイという枠組みに入るのも怖いし嫌なんだと思う。それに、男どうしで幸せになれるのかわからない」と心情を吐露したそうです。KOTFEさんは「傷つけてごめんね、わかったよ。無理せず、その気持ちを大切にして、納得するまで一緒にいよう」と答え、KANEさんはKOTFEさんの部屋で一緒に暮らすようになり、1、2年かけてKOTFEさんとのパートナーシップを築いていったそうです。

 KANEさんは、昔はLGBTQに関するニュースを見ても「みんなセクシュアリティに関わらずしんどいことはあるんだから、我慢しろよ」と思っていたそうですが、今は自分が差別する側になっていたことを反省し、「我慢を強いるのではなく、おかしいことを少しずつなくしていきたい」と語ります。まずは自分が無理をせず、隠さずに生きてみるところから始めようと思い、他のゲイカップルの動画を見て、KOTFEさんに「YouTubeをやってみたい」と提案したそうです。そうしてお二人は、ゲイであることをカミングアウトし、YouTubeチャンネルを立ち上げました(現役のゲイの警察官や、カミングアウトできない50〜60代のゲイの人から「救われた気持ちになった」というメッセージをもらったそうです)
 昨年10月からは世田谷区で暮らしはじめ、交際10年の節目にはパートナーシップ宣誓を行ない、動画にも収めました。「どんな職場にもLGBTQ当事者はいる」ということを伝えるとともに、ゆくゆくは警察署や消防署でLGBTQが安心して働けるようになることを目指しているそうです。
 KOTFEさんはシンガーソングライターとして各地のパレードでライブをしたり(今度のレインボーマーチさっぽろにも出演します)、LGBTに関する講演活動や護身術の講師など、さまざまな活動をしています。
 お二人は今年7月、神政連の会合で「同性愛は依存症」などと書いた冊子が配布された件を受けて「撤回して」「差別を止めて」と訴える抗議集会に参加しています。KANEさんの「この場で、こんなことを言ってはいけないのかもしれませんが――生まれ変わっても、ゲイには生まれたくありません。もう二度と、こんなつらい経験はしたくありません。アイデンティティを否定され続ける人生です。そんな思いをする社会にしないでください。苦しんでる当事者を追い詰める社会にしないでください。お願いします」という訴えに胸が締め付けられるような思いをした方も少なくなかったはずです。
 
 警察署や消防署に限らず、ゲイ差別が横行している職場で本当の自分を出せず、ストレスで苦しんできた方、本当に多いと思います。世間のホモフォビアを内面化し、自身がゲイだということもなかなか認められない、彼氏をつくるということにも葛藤があるという方も…。そんな方たちの声を、お二人は代弁し、世に訴えかけています。ゲイであっても悩まずに生きていける、幸せになれる世の中になるように、との思いで。
 
  
 
参考記事:
「どんな職業にも性的少数者はいる」元消防士と元警察官のゲイカップル訴え(京都新聞)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/839489
ゲイ隠し10年以上働いた 元消防士と元警察官の同性カップルが「本当の自分」になるまで(ほとせなNEWS)
https://www.hotosena.com/article/14698384
「ゲイはみんなエイズを持っている」という偏見も。消防士を辞めた僕は、“無意識の我慢“に疲弊していたと気づいた(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_630791c3e4b0f7df9bb797ee
独身は半人前、「ゲイだとバレたら働けなくなる」元警察官が、“男社会”から抜け出した理由(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_630795d6e4b0f7df9bb7a3a4

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