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HIVワクチン候補の初期臨床試験が実施され、97%の方が抗体を作ることに成功したことがわかりました

2022年12月28日

 HIVワクチン候補の投与によって感染予防に役立つ広域中和抗体を作り出すことに成功したというフェーズ1(第1相臨床試験、全3段階ある臨床実験のうち、初めてヒトに行なう臨床実験)の臨床試験結果が、世界エイズデーに当たる12月1日、科学誌『サイエンス』に発表されました。8週間間隔でワクチンを2回接種すれば、HIVに対する免疫反応を引き起こすことができるとされ、専門家は「重要な一歩前進」と位置づけています。
 

 『サイエンス』誌に新たに発表された研究では、「eOD-GT8 60mer」と呼ばれるこのワクチン候補は、97%の被験者について研究者チームが期待していたような免疫反応を示したそうです。このワクチンは安全で、免疫トレランス(自分の体の構成成分に対しては免疫反応を示さない)が高いということです。
 「eOD-GT8 60mer」は、国際エイズワクチン推進構想(IAVI)がスポンサーとなり、スクリプス研究所(TSRI)の研究者によって開発されました。フェーズ1の結果は、2018年に初めて発表されました。これは、スクリプス研究所、米国国立衛生研究所(NIH)、フレッド・ハッチンソンがん研究センター、そして米国とスウェーデンの他のグループなどの科学者による大規模な共同研究の一環です。48人の健康な被験者が参加し、そのうち36人は8週間間隔で2回、ワクチンを接種されました(低用量投与群と高用量投与群で実施) 
 
 現在、HIV感染症は生涯にわたる抗ウイルス療法によって効果的に管理できます。しかし、ひとたび体内に入るとウイルスはその構造を巧みに変化させるので、ヒトの免疫系が長期間にわたってウイルスを認識することは困難です。このため、ほとんどの場合、HIVに対する持続的な免疫には手が届かないのが現状です。しかし数十年前、ウイルスに対して幅広い中和抗体を産生でき、うまく対抗できる人もいることがわかって以来、この抗体を産生できるHIVワクチンの研究が進められているのです。
 このような抗体を得るための新しい方法として、「eOD-GT8 60mer」が目的としているような生殖細胞を標的にする方法があります。簡単に言うと、1回目のワクチン投与で免疫を担うB細胞の中でも希少な細胞群を、抗体産生できる状態に誘導しようとするものです。そして、その後の2回目以降のワクチン投与(ブースター接種)でこれらのB細胞を再び活性化させ、最終的にHIVに対して持続的で、幅広い中和抗体をつくるようにするものです。

 『Science』誌に発表されたこの新しい試みの結果では、この戦略の最初の部分がうまくいっているようです。36人中35人のボランティアがこの広域中和抗体の前駆体を生成し、この免疫反応は2回目のワクチン投与で初めて増強されることがわかりました。
 
 今回の研究に関わってはいない米エモリー大学エイズ研究センターのカルロス・デルリオ共同所長は、この臨床試験結果を評価しながらも、実用化に向けてはまだやるべきことがたくさんあると指摘しています。同様にミネソタ大学医学部のHIV医学プログラムディレクターであるティモシー・シャッカー氏は、「ヒトにこの種の免疫を誘導することができれば、これまで効果的なワクチンの設計が難しかったウイルスから大勢の人を守れると期待しています」とCNNに語っています。「ですから、これはとても重要な第一歩です」
 
 フェーズ1は、主に実験的な治療法の安全性を検証するために行なわれるものです。それによってこのワクチン候補の安全性は確認され、ワクチンに関連した重篤な副作用は認められないと発表されています。 
 そうはいっても、この研究は概念実証に過ぎないと、この研究者らはつけ加えています。今回得られたごく初期の知見を確かなものにして、ブースター接種によって広範な中和抗体を確実に誘導できることを示すためには、ヒトでのさらなる治験結果が必要です。真に効果的なワクチンは、HIVに対する広範なT細胞反応も起こさせなければなりません。なぜならT細胞は多くの場合、病原菌に対する免疫の決定的な役割を担うからです。しかし、もしこの研究がうまくいけば、HIVだけでなく、C型肝炎やインフルエンザ、Covid-19などの予防ができ、さらに継続的に予防効果を発揮するワクチンをつくれるかもしれません。

 目下、eOD-GT8 60merの別のフェーズ1がすでに進行中で、他の類似のワクチン候補も試されています。そのなかには、昨年お伝えしたmRNAベースのHIVワクチンも含まれていますし、また、日本発のHIVワクチンも開発が進んでいます(自然免疫反応を助けてワクチンを認識するために「アジュバンド」というものを使用したものだそう。詳細はこちら

 実用化にはまだもう少し時間がかかりそうですが、エイズの流行開始(1981年6月5日)から40年を経て、ようやくHIVワクチンの実用化という夢が現実味を帯びてきたことは本当に喜ばしいことです。HIV/エイズの世界規模のパンデミックがようやく終焉を迎える日が見えてきたのではないでしょうか。
 


参考記事:
HIVワクチン候補、臨床試験で97%に免疫反応 「重要な一歩」(CNN)
https://www.cnn.co.jp/fringe/35196865.html
HIVの実験的なワクチンがヒトでの初期臨床試験を通過(GIZMODO)
https://www.gizmodo.jp/2022/12/experimental-hiv-vaccine-promising-early-human-trial.html



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