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超党派LGBT議連の総会で当事者団体が差別禁止法や同性婚法などの法整備を求めました

2023年02月16日

 2月15日、岸田首相は衆院予算委員会で、立憲民主党の西村智奈美氏が同性婚、LGBT理解増進法、選択的夫婦別姓に関する議論の期限をいつにするのかとの質問に難色を示し、「いつまでに結論を出せという課題ではないと考える」と答弁しました。
 
 同日、国会内で超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」(以下「LGBT議連」)が総会を開き、自民党や立憲民主党など与野党の国会議員およそ30人が出席しました。2021年に同議連が「差別は許されない」という文言を盛り込んで与野党合意を見ていながら自民党三役によって国会提出が見送られていたLGBT理解増進法案を土台に、G7サミット前に法の成立を目指す考えが表明され、新会長に選出された自民党の岩屋毅元防衛相は、「一日も早い法案成立を確認した」としました。
 岩屋氏は、「この間、自治体や企業の取り組みのほうが先行しており、国や国会はどう取り組むのかが問われている。国際社会も注目しており、議連として、理解増進法をこの国会で一日も早く、できるならばG7という日本の取組みに注目が集まる時までに成立させるべく、全力を尽くしたい」と述べました。「差別は許されない」との文言に対して自民党内の一部で「差別禁止は分断を生む」など反対の声も根強く、調整の難航が予想されるなか、岩屋氏は「最終的には文言調整になっていくと思う」とし、「焦点はどうしても自民党の中のことになると思うが、たたき台は自民党がつくった原案で、9割9分コンセンサスができあがっていると思っている」「残りの1分について丁寧に合意をつくりあげ、今度こそ国会に提出し、成立させたい」と述べました。
 総会には、前日に与党・公明党に差別禁止法の整備を求めたLGBT法連合会や「Marriage For All Japan –結婚の自由をすべての人に」などの方たちが出席し、前日の院内集会で上がった声も踏まえ、差別禁止法や同性婚法などの法整備を求めました。LGBT法連合会の藤井ひろみ代表理事は「私たち当事者の思いは一つです。差別はしてはならない。してはならないということは、つまり、禁止してほしいという思いです」と訴えました。
 しかし、岩屋氏は「理解増進法案すらできずに前には進めない。当事者の声を受け止めた上で、分断や対立を招かない立法へ努力をしたい」と述べました。
 会合のあと、岩屋氏は記者団に対し「『不当な差別はあってはならない』という精神がなくなることはあってはならず、そういう考え方に基づいて今後の議論が進むように努力したい」と述べました。また、立憲民主党の西村代表代行は「党の立場から言えば、ほかの野党と提出している差別解消法案を成立させたいという思いは強くあるが、このLGBT議連でまとめた法案を動かしたい」と述べました。
 
 これに対し松岡宗嗣さんは、「困難を抱える当事者を置き去りにして"理解増進法案で確認"しないでほしい。差別禁止なしではG7基準に到底達しない、これでは法整備したと言うことも汚名挽回もできない」「差別禁止規定で社会が分断されないのは、他の法律でも明らか。差別を温存させたい人々を守るのではなく、いま起きている差別の被害から守る実効性のある法整備を」とコメントしています。
 
 『AERA』でも松岡宗嗣さんは「一昨年に棚上げになったLGBT理解増進法案を自民党幹部は進めようとしています。これを落としどころにしよう、ということでしょう。でも、私が強く言いたいのは、必要なのは理解の増進ではなく差別の禁止だということ。これはやはり明確にするべきことです。日本はこの期に及んで効力の低い上っ面だけの法律を作ろうとしている。明らかに特殊な状況です」と述べています。
 
 TBSの「news23」では「理解増進」ではなく「差別禁止」を訴える当事者の声が紹介されました。
 上司から数ヵ月間にわたって執拗ないやがらせを受け、うつ病を発症し、3年半以上にわたり休職を余儀なくされ、その後、労災認定されたトランスジェンダー女性のAさんは、「少なくとも欧米レベルの、差別をしちゃいけませんよという考え方をみんなで共有できるような、そんな社会になってほしい」と訴えました。
 松岡宗嗣さんは「理解増進なんてあまりにも生ぬるいです。作るのであれば差別禁止法でしょう」と語りました。「もし、LGBT理解増進法案が成立した場合、人によっては、何もないよりあった方がよいじゃないかと思う方もいらっしゃると思いますが、0.1歩進んだかのように見えて、実は後退する可能性がある法律かなと思います」「「差別の禁止」という規定がない。これは端的に言うと、家の土台がないまま家を建てようとしているような状況で、深刻な被害に対して「差別を禁止」という土台がないとまず守られないというのもそうですし、公人の発言など差別的な認識を持っている人たちが広げる理解って一体何だろう?というような疑問もあるので、誤った理解を広げられてしまう懸念もあるかなと思っています」「例えば採用面接でトランスジェンダーを理由に落とされてしまったりとか、または退職を迫られたりする、サービス提供を拒否されてしまうということもあるんですね。実際に、私もゲイの当事者として経験しています。例えば今、パートナーと一緒に家を借りて過ごしていますが、やはり男性同士のパートナーであるということを理由に3件ほど家を断られてしまったということもあって、これも性的指向を理由とした差別的取り扱いと言えるかなと思います。こういったものを防ぐために対処するために必要ですね」「家を借りられないとなったときに『相手の理解がなかったのが、残念でしたね』、『今後は理解を広げていく必要がありますね』となり、問題の解決にはならないんですよね」「例えば、訴訟を起こすというときには、法的な、強力な後ろ盾になるという意味でも大事ですし、当事者ではない人からしても「何をしては駄目なのか」ということがよくわからない、そういうところだと思うんですよね。この法律が重要なのは、例えば内心どう思ってるかとか、差別発言をすることを禁止してるわけじゃなくて、内心が何であれ、解雇してしまったり、退職を迫ってしまったり、サービス提供を拒否したり、そういったことが駄目ですよっていう基本的なルールを示すところなので、具体的に何がいけないのかというところが整理される大きなきっかけになるかなと思います」「例えば、男女雇用機会均等法だったり、アイヌ施策推進法、障害者差別解消法などで、いわゆるマイノリティとされている人たちの差別を禁止する法律というのは既にあるんですよね。それで社会が分断されているのかというと、やはり分断されていないのは明らかなので、抽象的かつ論理的ではない。まさに言ってしまえば、差別をなくしたくないかのような印象を持つ主張かなと思います」

 毎日新聞政治プレミアで古賀伸明元連合会長は、「首相の言う「多様性」には、性的少数者は含まれていないのではないか」「成熟した社会では意識や価値観が多様化する。家族観や価値観が国民全体でひとつのものではないという当たり前のことが理解できていないようだ」と厳しく追及しています。
「日本は2008年、国連から性的指向と性自認に基づく差別の撤廃を求める勧告をうけた。その後も13年、14年と再三にわたり人権条約機関から差別禁止の法整備を求められてきたが、いまだに実現していない」
「19年、国連での長年にわたる議論を経て「BORN FREE AND EQUAL」という国際文章の改訂版がまとめられた。性的少数者の基本的人権を守る道しるべとなるこの文章には、最低限、国がしなければならない義務として「差別の禁止・対処」が具体的に示されている。差別を予防するための意識啓発のみならず、性的指向や性自認などに基づく差別を法律で明確に禁止することが必要だとしている」
「性的少数者に関する差別から当事者を守る法律がないため、場合によっては当事者は泣き寝入りせざるを得ないのが現状だ」
「今、日本社会で求められているのは、多様性への理解を深めるとともに、性的少数者から基本的人権を奪っているさまざまな障壁を、差別禁止というルールで取り除くことである」
「首相は、議員立法であることを理由にして受け身になるのではなく、自ら指導力を発揮することが求められる。当然、理解促進のためのみならず、差別の禁止を明確にすべきである。同性婚の法制化や選択的夫婦別姓にも、早急に取り組む必要がある」

 同じく毎日新聞は石川大我参院議員と松岡宗嗣さんへのインタビューも掲載しています。
・石川大我さん
「LGBT理解増進法を成立させる動きがあるが、規定の多くが努力義務であり、実効性がない。差別を禁止する差別解消法が必要だ。自民党内には思想や良心の自由に関わるから慎重にすべきだという反対意見があるが、求めているのは「差別的な取扱いの禁止」であって、内心の自由はまったく関係がない。このような荒唐無稽なことを言うのは我々に対する攻撃の常とう手段だ」
「割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダーであることを明かした瞬間に就職面接を打ち切られたり、ゲイを理由に退職に追い込まれたりするような例は今も数多くある。障がいを理由に差別を受けてはいけないとする障害者差別解消法や、男女雇用機会均等法と同じ性格のものだ」
「同性婚や差別を禁止する法律が実現すれば民主主義が進化し、我々の社会が良くなる。誰にとっても良いことであるにもかかわらず、自民党保守派が反対している。背景には世界平和統一家庭連合(旧統一教会)も含めた宗教右派の影響がある」「首相は国会でたびたび「多様性を認め包摂的な社会を目指す」と答弁している。首相が本気で多様性を尊重するのならば、同性婚を法制化し、差別を禁止する法律を作り、行動で示すべきだ。もしできないのであれば、自民が宗教右派の影響を拭い切れていないことの証左になる」
「同性婚も差別を禁止する法律もない日本は、世界からは人権が尊重できない国だと奇異の目で見られている。経済的にも、海外の企業から見れば同性婚の制度がない国には優秀な人材は派遣できないとなる。国際標準からどんどん遅れていく。政府の高官から「見るのも嫌だ」と言われるような社会か、差別が禁止されていて幸せに生きられる社会なのかという選択だ」
「これまで同性婚を導入した国で廃止した国は一つもない。同性婚が実現しても誰も困らないことを証明している。同性婚のある社会こそ、多様性のある社会だ」
・松岡宗嗣さん
「こんな差別発言が出て、苦しめられて、もうニュースも見たくない。けれども声を上げないといないことにされ、差別は繰り返される。たださえマイノリティーであり、声を上げにくい立場なのに、さらに政府から追いつめられ、何度声を上げても変わらない。絶望的な状況だ」
「命の問題だということを強く言いたい。政府自身が性的少数者を自死のハイリスク層である(厚生労働省「自殺総合対策大綱」)としているにもかかわらず、政府の中枢から弁解の余地もない差別発言が出る。政府が当事者を守るのではなく、死に追いやっている。政府が性的少数者の権利を侵害して、命と尊厳を脅かしている」
「この問題は性的少数者の問題ではない。人ごとだと思っているかもしれないが、多数派の人たちの一人一人の責任の問題だ。マイノリティーの人権を侵害し続けている、そういう政府をサポートしている人たちの問題だ。あなたたちがこの社会を変えないと本当に人が死んでいくという自覚を、すべての人にもってほしい。みんなが今の政治の状況を作っている。中立や無関心は、現在も性的少数者の人権が侵害されている状況を温存させている、加担していることになると認識してもらいたい」
「多数派の人たちが作った「普通」という言葉や規範が、その枠に当てはまらない人をどれだけ抑圧したり、存在を消し去ったりしているか。その最たるものが法制度であり、政府中枢からの差別発言だ。現状を変える一歩目として、性的少数者の権利を守る法整備をし、多様な性に関する適切な認識を広げる、その義務が政府にある。そのために大前提として、差別禁止や同性婚の法制化が必要だ」
「これは人権の問題だ。「可哀そう」「思いやり」などという気持ちの問題にしてはならない。好きだろうが嫌いだろうが、多数派も少数派も等しく保障されるべき権利が人権だ。現状は多数派が少数者の尊厳を奪っている、人権を侵害している。みんなが持っている同じ権利なのに、一部の人が持っていない。それをいつまで放置しているのか。見えていないだけで実際には周囲にいる、大切な誰かの命や尊厳が脅かされている。これを今すぐやめてほしい」


 LGBTQI+の人権擁護に取り組んでいるジェシカ・スターン米特使は、朝日新聞のインタビューに応え、「LGBTQI+の人たちが家族の一員だからといって、家族の基本的な構造が変わるわけではありません。また、「法の下の平等」以上に基本的なことはないので、すべての人の権利を認めるという社会の基本的な構造を変えることもできません」と述べています。
「私が2月上旬に日本を訪問した際、本当に鼓舞されたのは、日本全国で200以上の自治体が何らかの形で同性婚を支持していて、65%以上の日本人が同性婚を認めることを支持しているということを知ったことです。つまり、LGBTQI+の人たちは社会的にはすでに、高いレベルで受け入れられているのです」
「日本は現在、LGBTQI+の人たちの歴史的な不可視性に挑み、すべての日本人が保護されるための国政論争が行われています。政府にはすべての人を守る義務があり、それが本質的な姿勢です。日本における議論で私が強調したいのは、LGBTQI+の人たちはどんな場所においても、差別から解放されなければならないということです。終止符を打つべきです。今年は日本にとって、とても重要な年です。国連安全保障理事会の非常任理事国であり、G7の議長国でもあります」
「日本がLGBTQI+の人たちの権利を保護する国レベルの法律や政策を前に進めれば、G7の同盟国や世界の指導者たちと足並みをそろえることになるでしょう」
「差別に対する解毒剤は、平等を法的に保障することです」
 


参考記事:
首相、期限設定に難色示す 同性婚や夫婦別姓議論(共同通信)
https://nordot.app/998450681191727104?c=768367547562557440

LGBT法 G7広島サミットまでに成立目指す 超党派の議員連盟(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230215/k10013981731000.html
超党派のLGBT議連総会 当事者代表“一日も早い差別の禁止を”(TBS)
https://article.auone.jp/detail/1/2/3/307_3_r_20230215_1676458631934772
LGBT法「G7サミット前に成立を」超党派議連の新会長(共同通信)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA159FO0V10C23A2000000/
LGBT法「G7サミット前に成立を」 超党派議連の新会長表明(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230215/k00/00m/010/281000c
稲田朋美氏「再スタートしたい」LGBT理解増進法案「1日も早い成立を」議連が総会で確認
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202302150001098.html

LGBTQ当事者、秘書官の発言は政権中枢が差別的 「実効力のある法整備が必要」〈AERA〉
https://dot.asahi.com/aera/2023021400012.html
LGBT当事者の訴え「理解増進」ではなく「差別禁止」を 相次ぐ公人の差別発言“LGBT法案”の行方は?【news23】(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/328974
性的少数者への差別発言(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230215/ddm/004/070/002000c
岸田首相の人権感覚 「多様性」掲げるだけでなく、法制化で示せ(毎日新聞政治プレミア)
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230214/pol/00m/010/004000c
同性婚で「社会は変わらない」 米特使が見た、唯一もたらす影響とは(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR2G7GZQR2BUHBI03W.html

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