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【追悼】ケニアで有名な若手ファッションデザイナーでLGBTQ活動家のエドウィン・チロバさん

2023年03月10日

 ケニアで有名な若手ファッションデザイナーでLGBTQ活動家のエドウィン・チロバさんが今年初め、殺害されていたことがわかりました。まだ犯人はわかっていませんが、ヘイトクライムだとみられています。国際NGO(特非)日本リザルツ・ケニア駐在員の長坂優子さんが、読売新聞に寄稿していました。


 エドウィン・チロバさんはまだ20歳代半ばでした。デザイナー兼モデルという自身の立場を生かして、LGBTQの権利擁護運動を象徴するレインボーカラーのファッションの写真をInstagramなどにアップすることで、強いメッセージを発信してきた方でした。2021年にファッション・インフルエンサーに与えられる賞にノミネートされたそうです。亡くなる直前にもInstagramに「すべての疎外された人々のために戦う」と書き、自身も疎外された経験があることを語っていたばかりでした。
 そんなエドウィンが1月4日、何者かに殺害され、「遺体は女性の服を着せられ、金属製の箱に入れて捨てられていた」といいます。警察は彼のパートナーを含む5人の容疑者を拘束しましたが、捜査は紛糾し、まだ誰も起訴されていないそうです。 
 SNSではエドウィンのレインボーカラーのファッション姿をリツイートし、「驚くべき人間」「象徴的なファッションデザイナー」と追悼する動きが相次いでいるそうです。「ただ、今回の事件では、犠牲者であるチロバ氏の親族への誹謗中傷をする人も少なくない。葬儀ではこうした性的マイノリティへの差別をなくすため、家族や友人が訴える場面もあった」と長坂優子さんは教えてくれています。
「この事件は、彼のセクシュアリティに起因するとみられるうえ、その残忍な手口も相まって、ケニア国内はもちろん、BBCやCNNなどの国際的なメディア、一見こうした問題を扱わなさそうな中東のアルジャジーラや経済誌『フィナンシャル・タイムズ』なども大きく取り上げた。しかし、日本の大手メディアの報道は見る限りゼロ。何かできないかとブログで情報発信してみたが、関心を持ってもらえなかった。日本とのつながりが深い米国や中国、近隣のアジア諸国のニュースをメインで扱うのは理解できる。しかし、こうした問題を公然と議論するのがはばかられているのではないかと違和感を抱いたばかりだった」
 長坂さんは、2018年にケニア映画として初めてカンヌ映画祭でプレミア上映された『ラフィキ -ふたりの夢-』が自国で上映禁止になるなど「表現についても強いタブーが残っている」こと、「直近では外国からの児童書の輸入に関してLGBTQに関する書籍の販売が禁じられたばかりだ」ということも伝えていました。
「法律では見えない差別もある。人権団体によると、LGBTQを自認する人のうち半数が身体的暴力を受けたことがあるという。昨年4月には同じケニアのレズビアン活動家シーラ・アディアンボ・ルムンバさんが殺害されたばかりだ。また、病院に相談に行くと、そのままコンバージョン・セラピーが行われるなどの問題もあり、性的マイノリティだと声を発することすらままならない環境にある」
 しかし、そんなケニアでも前進と言える動きがありました。
「LGBTQ権利擁護団体である全国ゲイ・レズビアン人権委員会(The National Gay and Lesbian Human Rights Commission:NGLHRC)に関して、最高裁が非営利団体(NGO)としての権利を認めたのだ。もともと2013年にNGLHRCのNGO登録を、NGO調査委員会が「ゲイ」と「レズビアン」という名称が入っているとの理由で拒否したのがことの始まりで、10年にわたる裁判を経て、今年2月24日、ケニアの最高裁は「純粋に申請者の性的指向を理由に団体の登録を拒否することで、結社の権利を制限することは違憲である」としたのだ。今回の判決に対し、教会や国会などからは批判が続出。議論が継続することが見込まれる」
 ただし、「これがLGBTQそのものを取り締まる法律を変えたわけではない」とのことです。「ケニア高裁は2019年に刑事罰は違憲という訴えを退ける判決を出しており、今回の判決の際でも最高裁は「ゲイセックスは依然として違法である」という点を強調していた」
 
 同じアフリカのウガンダでは2011年、同性愛活動家のデヴィッド・カトが撲殺される事件がありました。
 そのウガンダでは、「異性愛者の伝統的家庭に対する脅威」と国が戦えるようにすることを目的に、LGBTQに最高10年の禁錮刑を科す法案が議会に提出されました。「男女というカテゴリーと対立する性自認を持つ」全ての人が罰則の対象で、同性愛の”普及”や同性愛行為の“扇動”“共謀”に関与することも犯罪と見なされるという無茶苦茶な法律です。現行法でも同性間の性行為には最高で終身刑が科されますが、議員らはそれでも不十分だと主張しています。恐ろしい状況です。
 そんなウガンダから日本に逃れてきたレズビアンの方は、難民認定を申請したのに認められず、不安定な生活を送っているそうです。母国ではとてもじゃないけど生きていけないというのに…。政府が今国会に提出した出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案では、難民認定申請の回数が制限され、不認定が続くと彼女は強制送還の対象になる可能性もあるそうです。これは命に関わる問題です。(ウィシュマさんの件などもありますし)これ以上、殺人に手を貸す国にはならないでほしいです。
 
 南アフリカ共和国だけが例外的に、同性婚を認め、憲法に「性的指向による差別の禁止」と明記している国ですが、アフリカの55の国・地域のうち、34ヵ国で同性愛が違法とされていて、たいへん厳しい状況があります。
 アフリカのLGBTQを取り巻く状況のことを身近に感じるのは難しいことかもしれませんが、彼らのなかには日本に来ている方もいますし、難民問題などは私たち日本人が声を上げないといけない問題ですので、ぜひ関心を持っていきましょう。
 

 
 
参考記事:
LGBTQ問題への対応を再考せよ エドウィン・チロバ氏殺害事件から考える(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/choken/kijironko/cknews/20230309-OYT8T50135/
Who was Edwin Chiloba? Murdered Kenyan LGBTQ+ activist ‘spread love wherever he went’(Pink News)
https://www.thepinknews.com/2023/02/09/edwin-chiloba-murder-kenya-lgbt-activist/

性的少数者に禁錮刑 ウガンダ、議会に法案提出(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023031000243
「レズビアンは祖国で自由に生きられぬ」 難民申請者の届かない訴え(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230228/k00/00m/040/125000c

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