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来春から小学校の教科書で性の多様性についての記述が大幅に増えることが明らかになりました

2023年03月30日

 2024年度から使われる小学校の教科書で、LGBTQ(性的マイノリティ)など性の多様性への言及が大幅に増えることがわかりました。前回の検定では保健体育の教科書2点のみでしたが、今回は道徳や社会を含め10点が性の多様性について触れています。保健体育では全6社が性の多様性を取り上げ、記述も大幅に増えたことがわかりました。
 

 文科省が児童に教えるべき内容を定めた学習指導要領では、小学校3・4年の保健体育で「思春期には異性への関心が芽生える」と学ぶよう定めており、性の多様性には触れていません。しかし、各出版社は、同性パートナーシップ証明制度の全国的な広がりや、同性婚・選択的夫婦別姓の論議が本格化するなど、多様な価値観が認められつつある社会情勢の変化を踏まえて判断したそうです。

 文教社の5・6年保健の教科書では、心の健康を学ぶ単元のなかで「人によっては、自分の生まれた性別と、心の性別が一致しなかったり、同性の子を好きになったりすることもあります」と記されました。
 光文書院は6年道徳の教科書で、東京五輪の開会式で虹色の衣装をまとって国歌斉唱した歌手MISIAさんの写真を掲載し、「LGBTQなどの問題についてさまざまなメッセージを発信している」と紹介しました。
 教育出版は3年道徳の教科書で、LGBTという言葉は明記せずに、ペンギンの雄のカップルが放棄された卵を温め、赤ちゃんが誕生する絵本『タンタンタンゴはパパふたり』を取り入れました。担当者は「『パートナーシップ制度』の広がっている状況を踏まえた」と説明。同社は6年社会の教科書でも、現代日本について学ぶ部分で「性別のちがいや性的少数者をめぐる差別もなくしていかなければなりません」と記載しました。
 Gakkenは6年道徳の教科書で、あらゆる差別と闘った米最高裁の女性判事に関する教材を取り上げ、その中で、同性婚を認める判決を下した点などに触れ「多くの人を力づけたのです」と記しました。
 東京書籍は、従来の教科書(3・4年)で思春期には「異性が気になる」としていた記述を「異性など、ほかの人が気になる」に変え、「異性と話したいけれど、はずかしい」を「異性や好きな人と話したいけれど、はずかしい」とするなど「異性」に限定しない表現にしました。
 大日本図書の保健体育(3・4年)の教科書では、思春期における男女の体の変化や心の成長を学ぶ単元に「生まれたときの体の性と、今、自分が思っている性がちがうこともあります。また、気になったり、好きになったりする相手が異性の場合もあれば、同性の場合もあって、『好き』の形もさまざまです」と記されています。「さまざまな性を表す言葉の一つとして『LGBT』という言葉があるよ」とも。

 ある出版社の担当者は「学校の教員から『異性への関心しか書かれていないと教えづらい。今はそうじゃない子も当たり前にいる』などの声が寄せられ、時代の変化を感じた」と語っています。大日本図書の編集担当者は「社会の雰囲気が変わったと感じ、今回は絶対に取り入れないといけないと強く思った」と語っています。 
 別の出版社の担当者は「学習指導要領に準じた教科書を作るというのが大前提で、そこにないものを取り入れるのは慎重にならざるをえず、悩んだ。それでも性的少数者として悩みを持っている子もいるし、子どもには、多様な生き方があるということを、おぼろげながらでもつかんでほしかった」と語りました。
 
 学習指導要領の改訂は10年に一度ですが、2017年の改訂を前に、「思春期になると、だれもが、遅かれ早かれ異性に惹かれる」とする旧来の記述に対して「性の多様性を反映してください」と求める署名運動が起こりました。しかし、改定後の現指導要領には反映されず、文科省は「保護者や国民の理解などを考慮すると難しい」などと説明しました。

 当時、署名活動を担った東京都の団体職員・室井舞花さんは「教科書で多様な性が取り上げられるのは大きな意味がある」と語ります。同性の女子が好きだった中学時代、教科書の「異性への関心が高まる」という記述を見て強い絶望感に襲われた、「教科書は正しいと思っていたので、そこにいない自分はやっぱりおかしいと思ってしまった」そうで、その感覚に何年も苦しめられたといいます。「教科書は自分を認められない決定打になった。学校でどんな情報に触れるかはすごく大事だからこそ、今回の変化はよかった」
 同じく当時の署名活動に参加し、現在は当事者の居場所作りなど様々な活動をしている遠藤まめたさんも「教科書に書かれるというのは、存在がなかったことにされないということ。当事者が最初にカミングアウトするのは学校の友達が多く、まわりの友達自身も性の多様性を知っておけるのは、すごく大事」と語り、学習指導要領については「教科書会社が先に変わるというのは、いかに国の腰が重いかを表している。現実社会にある性の多様性に目を背けないでほしい」と訴えました。


 
参考記事:
LGBT、掲載広がる 道徳や社会に、同性婚も 教科書検定(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023032800685
小学校教科書、来春から「LGBT」記述増える 多様性理解広がり(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230328/k00/00m/040/176000c

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