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LGBT法修正案の問題点を有識者が解説、西田政調会長代理が「LGBTQの権利擁護=共産主義」という旧統一教会と同じ妄説を繰り広げました

2023年05月11日

 LGBT理解増進法案をめぐってこの間、自民党内の会合で「性的指向や性自認による差別は許されないとの認識」という文言を「性的指向や性同一性による不当な差別はあってはならないとの認識」と修正する案が示されました。有識者は「差別禁止法の制定までは行きたくない思いが強く反映されている」と指摘しています。

 
 修正の柱は、超党派合意案の条文「差別は許されない」の変更です。第1条の「目的」から削除し、同じ表現を盛り込んでいた第3条の「基本理念」では「不当な差別はあってはならない」に改めました。さらに、法案名や条文から「性自認」を削除し「性同一性」に置き換えています。
 党政調会幹部は修正の理由を公式に説明していませんが、「不当な」の追加は「LGBTQへの異なる対応や取扱いでも認められる場合があると明確化する狙いがある」とみられています。「許されない」という表現を避けたのは、事実上の禁止規定と解釈され、“当事者が訴訟を乱発しかねない”などという意見を踏まえたためだとみられます。追手門学院大の三成美保教授(ジェンダー法)は、「差別に正当も不当もなく『許されない』という文言のままでも訴訟の根拠にはなりにくい」「単なる文言の問題ではなく、背景にある価値観が問われている」「LGBTQへの差別は許さないと前面に打ち出すことへの抑制が働いている。日本が目指すべき方向と比べると、かなり後退している印象だ」と述べています。
 松岡宗嗣さんはYahoo!の記事で、「そもそもLGBT理解増進法案に書かれた「差別は許されないとの認識」は、あくまでも理解増進の施策を進めるうえでの、前提認識や精神を述べているに過ぎず、個別の差別を禁止する規定ではない。訴訟の根拠にもならない文言だ。さらに「差別」というのはそもそも「不当」であって、正当な差別などない。差別に該当するかどうかは、その区別に「合理的な理由」があるかどうかで分かれる。本来、深刻な差別の被害に対して訴訟を起こすことは重要で、誰もが保障されている権利だ。しかし、性的マイノリティの多くが周囲の人々にカミングアウトしていない現状のなか、さらに、訴訟において差別を立証することが容易ではないなか、「訴訟が乱発する」というのはあまりに非現実的だろう。法的な意味においては、「差別は許されない」も「不当な差別はあってはならない」も、大きな違いはない。しかし、差別という言葉を減らし、わざわざ「不当な」という一言を加えたいという根強い反発が起きている背景には、少しでも法律の効果を薄め、差別を温存したいという意思が読み取れる」と指摘しています。

 もう一つの問題点は、「性自認」を「性同一性」へと修正している点です。どちらもGender Identityの訳語であり、同じ意味なのに、わざわざ「性自認」を「性同一性」へ変える意図は、東京新聞によると、自民党内で「自らの認識で性を決定できると解釈されれば、社会の混乱を招く懸念がある」という主張があるためです。男性が「今日から女性になる」と言って女性用トイレに入るなど悪用の懸念がある、と例を挙げる人もいます。超党派LGBT議連会長の岩屋毅議員(自民)は8日の党内の会合後、記者団に「性自認という言葉がちょっと曲解されている」と述べていました。(性自認は、その時だけの自称ではなく、自分の意思で変えられるものでもなく、ある程度の一貫性や継続性のある、自身の性に対するアイデンティティのことを言います、念のため)
 松岡さんは、「注意したいのは、いま自民党内でされている議論は、G7をはじめ国際的に広く用いられている「Gender Identity」という概念そのものを歪ませるものだという点だ」と指摘します。「自民党保守派は、性自認は「自称」であり、これを認めると「男性が女性だと自称すれば、女性トイレやお風呂に入れるようになってしまう」と主張する。性同一性であれば、「医師による診断」が必要となるため問題ないという論理だ。その背景には、「性同一性障害特例法」によって、法律上の性別変更には「二人以上の医師による性同一性障害の診断」が必要とされている現状がある」「理解増進法ができても、性別を自称さえすれば、トイレや公衆浴場といった男女別の施設を利用できるわけでもなく、男女別施設の利用基準を変えるものでもない。自民党保守派には、トランスジェンダーは「性同一性障害」であるという、あくまで「障害」の枠にとどめておきたい意図がある。自民党の会合に出席した西田昌司参議院議員は、記者団に対し「性同一性は医学的な用語」と明確に述べている。もちろん、ここでは医学用語ではなく、法学用語の観点からの正しさが求められているのはいうまでもない。だが、昨年改訂されたWHOの国際疾病分類「ICD-11」では、「精神疾患」のカテゴリーから「性同一性障害」という概念はすでに削除されている点を確認しておきたい」「トランスジェンダー当事者のうち、性同一性障害の診断を受けている人はごく一部だ。そもそも「障害ではない」という立場や、診断を受けたくても経済面や体質、または近くに診断を受けられる医療機関がないなど、さまざまな問題があるからだ。「性同一性障害」を前提に、法案の「性自認」を「性同一性」に修正することは、診断を受けない/受けられない当事者のアイデンティティや権利を否定し、切り捨ててしまうことになりかねない」「すでに性自認による差別を禁止する条例を制定している自治体もあるが、総務省は「性別の自称」などというものに対する差別を禁止している事例はない、と国会で答弁している」「このままLGBT理解増進法案ができると、今後、国や自治体、企業、学校等の施策において「性同一性障害」のみが対象としての理解が広げられてしまう懸念がある。以前は「トランスジェンダー=性同一性障害」という誤解が根強かったが、こうした考えを再び広めてしまう可能性もあるだろう。これは当事者の権利や理解の後退に繋がりかねず、国際社会からも逆行するものだ」

 松岡さんは、昨日の会合で「学校でLGBTを教えるのはどうか」と削除を求める意見が上がったことについて、「法案は、学校に対して理解増進の施策を求めているが、あくまでも「努力義務」の規定にとどまっている。しかし、自民党保守派は努力義務の規定でさえ「削除」を求めており、実際に文言を弱める規定案が検討されているという。理解を増進するための法案にもかかわらず、これでは「学校でLGBTへの理解を広めるな」と言っているようなものだろう」と指摘します。「さらに、法案では国に対して理解増進のための「調査研究」を義務付けているが、自民党保守派の反対を受けて、「学術研究」に修正する案が検討されているという。これは「差別の実態」が調査で明らかになってしまうと都合が悪いため、国勢調査をはじめ、公的な調査や統計をさせたくないという意図があるのだろう」
「自民党保守派の主張は非論理的で、事実に基づかず、概念を歪曲し、差別を温存するための主張ばかりだ。これらの言説がまかり通ってしまうことに驚きを隠せない」
「G7広島サミットの場で、岸田首相はこの状況をどう説明するのだろうか。「日本は性的マイノリティの人権を守るつもりはない」と国内外に発信するのだろうか」
 


 さらに本日、「日本の国柄に合わない」などと言って「差別は許されない」文言に横やりを入れてきた自民の西田政調会長代理が、「(LGBTの権利を認めるのは)共産主義思想の延長」などと、旧統一教会と全く同じトンデモな主張をしたことで、SNS上で非難の声が相次いでいます(炎上しています)
 TBSラジオニュースの公式Twitterアカウントが投稿した動画によると、昨日、自民党内の会合の後、西田氏は記者から「自民党としては『正当な差別』はあるという認識か」と問われ、「それは屁理屈」「この問題いちばん困るのは、分断をさせないというのが大事なんでね、日本の国をね。だからそのためには、分断をしないということは寛容な社会(をつくること)。寛容な社会というのは何かというと、お互いがお互いに自分の、ある程度は我慢をしながら、相手のことを認めると」などと述べました。さらに記者から「(日本を)分断しようという勢力というのはどういうものを想定している?」と問われると、なんと、「あえてここで私は言いませんが、事実として、この種の問題がロシア革命以降のマルクスの共産主義の思想の延長線上に出てきているのは、これ事実です」と述べたのです。
 LGBTQの権利擁護を推進してきたのは主に欧米の自由主義、民主主義、資本主義の国々であり、社会主義・共産主義国のほとんどは同性愛を抑圧・弾圧しているという世界の状況を無視した、意味不明でめちゃくちゃな発言ですが、SNSでも多くの人が指摘しているように、LGBTQの権利を認めること=共産主義とだとする根拠のない妄説は、旧統一教会の主張そのものです。国際勝共連合は2021年の運動方針のひとつに「同性婚合法化や行き過ぎたLGBT人権運動の歯止め」を掲げ、「国内外に浸透する共産主義との闘い」として位置づけています。
 宗教社会学者で統一教会問題に詳しい上越教育大の塚田穂高准教授(宗教社会学)は、『東洋経済オンライン』2022年8月29日付の記事で、「私が見るに、政治活動としては「勝共」の「共」の枠が途方もなく拡大され、その中にさまざまなものが入れ込まれることで、「新たな敵」が設定されていったと考えています。家族や「性的」純潔を重視する教えからも、それらの「敵」とされた典型的動向としては、夫婦別姓や性教育、「ジェンダーフリー」、同性婚、LGBTなどの性的マイノリティー理解などが挙げられます」と指摘しています。「彼らが考えるところの「共産主義っぽいもの」「左翼っぽいもの」を一緒くたに「勝共」の「共」に入れ込み、それらと戦うことで自分たちのレーゾンデートル(存在価値)を見いだし活動が続けられる。当事者の悩みや苦しみなどは蚊帳の外で、これらの動向は「文化共産主義」なり「新マルクス主義」なりの策動として捉えられます」「夫婦別姓や同性婚は家族を破壊すると思い込んでいるし、共産主義勢力による「性の革命」が押し寄せている、これに抗しなければならないというのが現在に至るまでの彼らの行動原理になっていると捉えられます」 
 本と雑誌のニュースサイト『リテラ』は、「いまだに宗教右派の主張そのままに「共産主義の問題」などと言い張り、当たり前の「差別は許されない」という文言さえ消されてしまう――。こんな有様で、国際社会の先頭に立つG7サミットの議長国を務めることなど、できるはずがないだろう」と批判しています。
 
 「差別は許されない」という当たり前の一文をめぐって、2年前と同様、政権与党の議員から差別発言やトンデモ発言が次々に繰り出されている状況、さらに、ここにきてあからさまにLGBTQへの悪意をあらわにしたSNS上のコメントや、法律は絶対に作らせまいとする論調の記事なども増えていて(バックラッシュと言っていいのではないでしょうか)、しんどい思いをしている方もいらっしゃるのでは…と心配になります。
 なぜこの国のLGBTQは、差別から守られる権利という、当然の、誰もが与えられるべき権利(人権)が認められないのでしょうか。本当に日本は先進国と言えるのでしょうか…。
 幸い、今は、アライの方もたくさんいます。経済界や、行政の方や議員さんなどにも味方はたくさんいます。海外の多くの国の方たちも支援してくれています。あきらめずに、LGBTQ+Allyコミュニティの結束を強めながら、差別禁止法や同性婚の実現を求め、声を上げていきましょう。
 
 
参考記事:
LGBTQ理解増進法案「かなり後退」内容修正へ 合意ほごに動く自民の思惑は? 「性自認」巡る<Q&A>も(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249127

LGBT法案「大きく後退」修正案の問題点を解説(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20230511-00349138

「LGBT法案」で自民党が「差別」許容の改悪! 政調会長代理が「(LGBT権利は)共産主義思想の延長」と統一教会と同じ主張(リテラ)
https://lite-ra.com/2023/05/post-6275.html


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