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G7は広島サミット首脳声明に「LGBTQの権利を保護し人権状況改善に取り組む」旨を明記する方針、一方、保守派に配慮したLGBT法与党修正案は…

2023年05月12日

 先進7カ国(G7)は19日に開幕する首脳会議(広島サミット)の首脳声明に、LGBTQ(性的マイノリティ)の権利を保護し、人権状況改善に取り組むG7の決意を明記する方針を固めました。昨年ドイツのエルマウで開かれたG7サミット首脳声明の「差別や暴力から保護されることを確保する」との表現を基に調整を進めます。議長国日本がLGBTQを差別や暴力から保護する法を整備できるかどうかが今後の焦点となります。
 
 
 一方、自民党は12日、性的マイノリティに関する特命委員会などの合同会議を党本部で開き、LGBT理解増進法修正案を了承し、森屋宏・内閣第1部会長に対応を一任しました。党内手続きや公明党との協議を経て、来週にも「与党案」として国会提出する方針です。国際的なメンツを保つと同時に党内保守派にも配慮した結果です。
 野党を含む超党派のLGBT議員連盟を中心に議論してきて、2年前に与野党合意を見た法案を修正。性的指向などを理由とした「差別は許されない」としていた文言を、修正案では「不当な差別はあってはならない」と変更したほか、「性自認」を「性同一性」とし、「性自認」という言葉に抵抗感が強い党内保守派の一部に配慮したものです。立法の目的「全ての国民が、その性的嗜好や性自認にかかわらず、等しく基本的人権を共有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向や性自認を理由とする差別は許されないとの認識の下に」はまるごと削除されています。また、国が理解増進の施策の策定に必要な「調査研究」を推進すると規定した部分は「調査」を削除、7条「学校の設置者の努力」の性の多様性に関する教育環境の整備や相談機会の確保などに学校が努めるよう求める規定も削除されています。LGBTQコミュニティや有識者からは「差別の温存」といった厳しい見方も示されています。

 会議には60人が出席し、28人が発言。反対意見が多数でした。党幹部は修正案について「骨抜きになっているからまとまるだろう」と評しました。慎重派からは「これで了承したつもりはない」との声も出ているそうです。
 会合後、保守派の西田昌司政調会長代理は「法案が提出されれば、衆参両院の委員会でいかなる目的のためにやっているのかをしっかり議論して議事録に残すことが、法の運用を誤らせない一番のもとだ。今回の一任はそういうことをやってもらうことを条件に認めた。審議時間の確保が必要だから、G7広島サミット前に成立するということはまったくあり得ない」と記者団に語りました。
 超党派LGBT議連の会長を務める自民の岩屋毅議員は「小異を捨てて大同について、性的マイノリティーの方も含めた共生社会を作っていく大目的のために心を一つにしなければいけない」と語りました。
 森屋部会長は「修正案にさらに修正を加えることはないと思う。国会審議の中で国民に理解をいただくための努力をしていかなければならない」と語りました。
 特命委員会を作った稲田朋美衆院議員は、「一部修正はあったものの、趣旨はまったく変わっていない。この法律ができることによって、霞が関の中に当事者の意見をしっかり受け止める部署ができる。その当事者と同時に心配されている女性の権利ですとかそういったことに持っていくために、大きな前進だと思う」「法律ができても6年ぐらいかかり、また合意案ができて2年間ほとんど動かない状況の中で、やっぱり大きな前進だと思う。野党の皆さんや公明党の先生方にも、ぜひご理解をいただけるように努力したい」と語りました。

 過去にまとめた自民案に「先祖返り」した法案について、当事者や有識者からは懸念や批判の声が上がっています。
 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「与野党合意案は一定の評価をしていたが、今回の修正案は少し後退した印象だ」と語りました。特に気がかりなのが「性自認」を「性同一性」と書き換えたことだといい、どちらも英語の「Gender Identity」の訳語で、基本的に同じ意味であるにもかかわらず、国内で「性自認」という言葉の使用に反対意見が出る場合、「自分は女だと自称さえすれば、男でも女湯に入れる」などの非現実的な主張と結びつき、「性自認」の尊重があたかも女性の権利や安全を脅かすかのようにネガティブに捉えられることを懸念しています。
 “差別を理由とした訴訟が頻発する”との保守派の声を受けて「差別は許されない」という文言を修正したことについて、国内外の差別禁止法制に詳しい独立行政法人労働政策研究・研修機構副主任研究員の内藤忍氏は、与野党で合意した法案はもともと裁判で損害賠償を求める場合の根拠になるとはされておらず、差別があった場合の行政の紛争解決や救済制度など差別の事後解決に役立つ具体的な内容もなく、「この法律を根拠に訴訟を起こすほどの効果はなく、訴訟が増えることは考えられない」と指摘しています。性別による差別が禁止された男女雇用機会均等法や、障害者差別解消法が施行されてからもそうした事態は起きていないことを踏まえ、「仮に訴訟が多く起これば、差別とは何かという司法の解釈が積み重ねられて明確になるので、むしろ良いことだ」と述べました。
 プライドハウス東京のメンバーで、2月に岸田総理にLGBTQユースの声を届けた大学3年生の山島凜佳(りんか)さんは、法案の文言修正に「衝撃を受けた」と語ります。「私たちを否定してくるのは社会の『雰囲気』ではなく、制度です」と強調しましたが、伝わっていませんでした。差別禁止の法律が必要だと求めたのに、文言修正で法案は骨抜きにされたように感じ、「当事者の人権を守るためではなく、抑圧している側の居心地をよくするための法律なのでしょうか」「議論しているというパフォーマンスはいらない。政治家は多くの人の声を素直に聞いて、価値観をアップデートしてほしい」と語りました。
 一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは、「法律を議論することが、逆に差別を広げている。非常に絶望的な状況だ」と語ります。「不当な差別」という文言への変更については「差別を温存したいという意思が表れている」とみています。「性自認」を「性同一性」と言い換える修正についても、「本来は二つとも同じ意味のはずだが、性自認は自称で、性同一性は『障害』であり、医学的な用語であるかのように捉えられ、概念自体がおとしめられている」と指摘します。「本来は、このような誤りを止めるための法律であるはずだ。世論と政治がかけ離れて、人権が守られない国のままでいいのか。当事者だけでなく、一人ひとりが考えなくてはいけない」
 SNSでも「やってる感の演出」「配慮すべき相手が違う」など、批判の声が上がっています。


 
 
参考記事:
G7、声明にLGBT対応明記へ 人権状況改善に取り組む決意示す(共同通信)
https://nordot.app/1029732068524556854?c=768367547562557440

自民 LGBT議員立法 修正案を議論 “今後の対応は幹部に一任”(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230512/k10014065901000.html
自民部会、LGBT法案で一任 修正案で性自認→性同一性に(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA124RD0S3A510C2000000/
LGBT法修正案を自民が了承 保守派に配慮、G7前に国会提出へ(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230512/k00/00m/010/283000c
自民・稲田朋美氏 LGBT法案了承「修正したが、趣旨は変わらず」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR5D6KKBR5DUTFK01F.html

LGBT法案「議論するほど…」 G7メンツと保守派配慮で先祖返り(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230512/k00/00m/010/284000c
LGBT法案の修正「抑圧側の居心地のためか」 差別拡大への懸念(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR5C7T33R5CUTFL013.html

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