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与党が「骨抜き」LGBT法案をG7前日に駆け込みで国会に提出、これに対して野党は超党派議連で作成し与野党合意を見た原案を国会に提出しました

2023年05月19日

 自民・公明両党は18日、LGBT理解増進法修正案(与党修正案)をG7広島サミット開幕前日に駆け込みで衆院に提出しました。野党に共同提出を呼びかけていましたが同調する動きはなく、立民・社民・共産の3党は「後退は認められない」として2年前に超党派議連で作成し与野党で合意したLGBT理解増進法案(超党派原案)を国会に提出しました。今国会での成立は不透明な状況です。
 

 保守派に配慮した結果、超党派原案から大きく後退した与党修正案について、立憲民主党の長妻昭政調会長は18日の記者会見で「改悪だ。法律の本来の趣旨を骨抜きにした」と批判しました。「(二つの)法案を並べ、どういう意図で与党が骨抜きにしたのか明らかにする」
 同党の石川大我参院議員は超党派原案を国会に提出した後、「国会の中で、唯一、私1人が当事者、LGBTQのG、ゲイの議員だということをお伝えしたい」「LGBT法案に関しては何年も当事者の方たちと議論を重ねてきた。その中で私たちが提出したこの法案が、ぎりぎりのラインでした。当事者の方たちは、差別禁止法を作ってもらいたいという希望がありました。自民党には最低限ここの部分(差別禁止)だけは受け止めてもらいたい」と語り、与党修正案について「自民党案というのは悪質です。理解増進法案にはなっておらず、理解を後退させるもの、差別を是認するものだと強く思っています」と批判しました。

 日本維新の会は、「修正案は保守層のための文面変更。性的少数者の当事者団体は納得しない」(幹部)という異論も根強く、国民民主党とともに共同提出を見送りました。両党は「国会質疑を通じて賛否の判断や修正の検討を行なう」としています。

 朝日新聞によると、自民は対外的な体裁を保つことを優先し、「いわば与野党合意をほごにした格好」です。自民幹部らの事務所に「国を滅ぼす法案だ」「がっかりした」などと批判するメールや電話が殺到しているといい、与党修正案すらも国会審議や成立を急ぐような動きにはなっておらず、「むしろ野党の反発によって廃案にでもなればと考えている幹部もいる」とのことです。自民中堅議員は「サミット前に提出して意欲はあるという風に見せただけだ。提出できたので修正案の役割は終わった」と見ているそうです。
 こうした動きに対して立憲の安住淳国会対策委員長は、国会内で記者団に「やったふり、出したふりで今国会を終わらせたら、国際社会でわが国がどう思われるかを自民は考えるべきだ」と語りました。


 与党修正案は、「差別は許されない」との文言を「不当な差別はあってはならない」と変更し、「性自認」についても「性同一性」に変更するほか、超党派原案で独立項目だった「学校の設置者の努力」を削除し、事業主の項目と一体化しています。LGBTQコミュニティからは「学校を安全な場にするためにも、子どもたちにこそ性の多様性を教える必要がある」との声が上がっています。
 松岡宗嗣さんは「学校での理解増進を妨げようとするのは本末転倒。教育を軽んじる自民党の姿勢が透けて見える」と批判しています。「本当に必要なのは理解増進ではなく差別禁止だ」
 LGBTQやそうかもしれない若者を対象にした交流の場「にじーず」を主宰する遠藤まめたさんも、「LGBTQの子どもが初めてカミングアウトする相手は同級生の場合が多い。言いふらされるなど深く傷つけられる事態を防ぐためにも、LGBTQに関する正しい知識を学校で教えることが重要」と語ります。
 松岡さんは、「先月、G7の外務大臣の共同声明の中でも、性的マイノリティの権利保護に関して世界をリードするとうたっており、修正案では肩を並べることはできない」「『性同一性』という言葉で性同一性障害が前提にされ対象が狭められないようにしないといけない。理解増進法だけでは差別の被害への対処や救済ができないので、今後も具体的な議論を深めていく必要がある」と語っています。
 
 
 LGBTQコミュニティや野党だけでなく、経済界のトップや企業からも、日本の法整備が海外と比べて遅れていることに疑問や批判の声が公然と上がっています。
 経済同友会の新浪剛史代表幹事は16日、就任後初めての定例記者会見で、「(与党での法案取りまとめは)一歩前進ではある。しかし、完全なものでは全然ない。本当に考えていかないといけないのは、これでマイノリティの皆さんが本当に社会とともに歩むことができるのかだ」と語りました。「(『性同一性』という言葉の)解釈によって(実際の当事者が)排除されることのないようにしないといけない。英語(Gender Identity)だと(性自認と性同一性は)一緒だが、やっぱりこの言葉は違う」。新浪氏は、「多様性を認めることは企業や日本がイノベーティブ(創造的)になる基盤」との考えから法整備の必要性を訴えており、LGBTQも活躍できる社会の実現に向けた取組みの強化を求める政府宛ての署名を経済同友会の会員の経営者らに呼びかけています。署名数は500筆を超え、G7広島サミットの終了後に政府に提出する予定だそうです。
 経団連の十倉雅和会長が米政府要人から日本の状況を聞かれ、「理解増進法案が国会で議論されようとしています、と答えるのも恥ずかしいくらいだった」と、法整備に後れを取る日本の現状に強く苦言を呈したのも3月にお伝えした通りです。「世界は、理解増進ではなく差別禁止。そして同性婚を認める流れ。日本はその前段階の理解増進(法案)を出すのですら議論しているというのはいかがなものか」
 
 G7サミットを目前に控えた17日、パナソニックホールディングスや日本コカ・コーラ、会計監査大手・EYジャパン、LGBTQ団体の幹部らがサミットでLGBTQ差別禁止法、婚姻平等、性同一性障害特例法の見直しの法整備を主要議題にし、具体的な取組みを促すことなどを求める要望書を森雅子首相補佐官に提出しました。要望書には「日本企業が海外から高度なスキルを持つ人材とその家族を受け入れるうえでの障壁にもなっている」「社員の労働環境や私生活が法的に安定しないことは、職場における能力発揮を妨げるだけでなく、法制度が整備された国への人材流出もすでに現実化している」との問題意識も盛り込まれていました。
 世界で事業を展開する企業にとって、LGBTQ施策の遅れは、取引などにも悪影響を及ぼすことが懸念されています。サントリーホールディングスの社長でもある新浪氏は、自らのグループが消費者向けの事業を行なっていることに触れながら「海外事業をやっていくうえで、日本の企業として、大変ご理解が得づらいということにつながってくる」と述べました。
 EYジャパンのトップでありオープンリー・ゲイの貴田守亮さんは、「日本に差別禁止法がないことで、国内の会社は海外の企業と取引をするうえでの信用度に差がついてきます」「制度面で先進国から遅れを取ってしまっている、日本の経済がどんどん遅れを取るリスクが高まります」「(同性婚制度が)無いので、制度が有る先進国に移ってしまうケースがいくつも出ています」「あなたの企業にも人道的な制度がありますか? そうでないと取引できませんとおっしゃる企業もあります」と語っています。
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 新聞の社説等でも、骨抜きにされた与党修正案が批判されています。
北海道新聞:
「与党案は「性自認」の文言を「性同一性」に変更した。保守系議員が「自らの認識で性を決定できることになり、公衆トイレや浴場の利用時に混乱が生じる」などと反対したためだ。本人が性をどう認識するかという問題を、よこしまな目的で性を「自称」することと同一視するなど、偏見以外の何物でもない。こうした言説が性的少数者への差別を世の中に広げていると認識すべきだ」
「学校が性的少数者に関する教育や啓発に努めるとの規定を削除し、事業者などに努力を求める条項に含めて表現を弱めた。自らの性をどう認識するかで悩む子どももおり、既に道徳などで教えている例も多い。「子どもに教える必要はない」との保守系議員の主張は時代に逆行している」
「自民党案を即座に了承した公明党も、こうした保守派の論理に加担しているに等しい。国会で多様性を認め合う理念をより明確にする法律に練り上げる必要がある」
河北新報:
「理念が骨抜きにされ、根強い差別意識が社会に温存されかねない。文言の修正で法律の目的や条文の意味は曖昧になり、内容も後退している」
「強まる外圧を意識して、あす始まるG7広島サミット前の国会提出には間に合わせたものの、真摯(に差別根絶を目指す姿勢は読み取れない」
福島民友新聞:
「超党派合意案から、人権保護の色合いが後退したのは否めない」
「法案は国の体面を保つためや、性的少数者に差別的な目を向ける人のためにつくるものではない。少数者の人権を守るという本来の目的にかなうものとしてほしい」
長崎新聞:
「あなたたちは、いったいどっちを向いて仕事をしているのか」
「こんな作られ方の法律でも、少しは世の中は変わっていくのだろうか、それとも…。当事者たちは与党の修正案に強く反発している」

 東京新聞「本音のコラム」で北丸雄二さんは、超党派原案も「差別禁止」という「骨」が抜かれていたのだから本質はほぼ同じだと指摘しながら、「今回の「骨抜き」自慢は自民党右派の「私ら頑張ったよ」アピールでしかないことが透けます。誰に対する? LGBTQの人権を1ミリたりとも認めない旧統一教会や神道政治連盟など「伝統的家族」死守派に対する」と述べています。そして、LGBT理解増進法は理念法であり、具体的な規制や罰則は含まないものですが、理念法とはいえ「行政の現場ではいくらでも実体を持たせられます」と語り、「差別集団と結託する自民党を置き去りにして、自治体や民間企業はすでにLGBTQ差別禁止を進めている」「実はそれは宗教原理主義の強い米国が辿ったのと同じ道です」として、婚姻平等を求める裁判が次の天王山だと説いています。LGBT法をめぐる動きの本質を見極めつつ、今後の動きに期待や希望も持たせる内容、さすがです。 
 


参考記事:
自民・公明 LGBT法案を国会に提出 立民・共産はもとの法案提出(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230518/k10014071371000.html

2つのLGBT法案提出 与党修正案と野党案(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/530196

LGBT公表の企業トップ「制度の遅れで人材流出」“目指すべき社会”は…【news23】(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/489315

与党、LGBT法案を国会提出 立民は超党派合意を対案に(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA184WC0Y3A510C2000000/

LGBT法案、溝あらわ 自民がG7前日、駆け込み提出 党内しこり、野党は対決色(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230519/ddm/005/010/096000c

LGBT修正案、体面優先 自公が議員立法を提出 自民の一部「廃案にでもなれば」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15639697.html

自公がLGBT法案を提出 当事者ら反発「教育を軽視」(神奈川新聞)
https://www.kanaloco.jp/news/social/article-990466.html

72企業がLGBTQ差別に「NO」。経済的視点からも差別禁止法が必要な理由(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_646499bee4b056fd46d679da

与野党がLGBTめぐる2つの法案を同時提出 石川大我氏「自民党の修正案は悪質です」(東スポ)
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/263649

<社説>LGBT法 差別意識現れた与党案(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/847312
LGBT法自民修正案 差別根絶へ真剣さ見えぬ 社説(河北新報)
https://kahoku.news/articles/20230518khn000011.html
【5月18日付社説】LGBT法案/本来の目的忘れていないか(福島民友新聞)
https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20230518-778031.php
LGBT法案(長崎新聞)
https://nordot.app/1031364333346865359?c=39546741839462401

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