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LGBT理解増進法の成立を受けて、プライドハウス東京とLGBT法連合会が声明を発しました

2023年06月19日

 6月16日に可決、成立したLGBT理解増進法について、プライドハウス東京とLGBT法連合会が声明を発しました。
 

 6月18日、プライドハウス東京は「「LGBT理解増進法」に対する懸念の表明と差別を許さない運用のための声明」を発しました。プライドハウス東京は毎月2回、トランスデーを開催し、多くのトランスジェンダー当事者やアライが集える場を設け、理解や支援の輪を広げることに貢献してきました。4月から共同代表に就任した小野アンリさんもトランスジェンダーの方です。今回の件でトランス女性への差別やヘイトスピーチがさらに激化する恐れがあると指摘しながら、「私たちはこうしたヘイトスピーチの拡散に強い懸念と抗議の意を表明」しています。同時に、多くの企業や団体、大使館、スポーツ関係者などと良好な関係を結んできた団体として「あらゆるステークホルダーと連携し、本法律の原点を見据え、適切な運用がなされる取り組みを進め、誰も排除されないLGBTQ+インクルーシブな社会を共に実現することを呼びかけます」と述べています。
「6月16日の参議院本会議にて、「LGBT理解増進法案(正式名称:性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案)」が、議員立法の全会一致の不文律に反する形で成立しました。
 LGBTQ+当事者に対する差別を禁止する法律は、社会の中で偏見や差別を受けているLGBTQ+当事者にとって、安心・安全に生活を送るために必要不可欠なものです。
 しかしながら、本来はLGBTQ+当事者が今もなお受けている差別や困難を解消するための法案だったにも関わらず、紆余曲折を経て、今回成立した法律がLGBTQ+当事者への差別を助長し、より困難な状況を強いる危険性がある内容となってしまったことに対する悲しみや憤りの声が上がっています。
 特に、法案の審議の過程で十分な議論もないなか追加された、「性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という文言により、LGBTQ+当事者への理解を増進する活動や取り組みは多数派への配慮が前提となると捉えられる可能性があります。これは「多数派が不安だ」と言うだけで、LGBTQ+の啓発活動に歯止めをかける効力の可能性を意味します。また、「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という文言の追加は、家庭や地域からの協力を得られなければ、LGBTQ+に関する啓発活動すらできないと捉えられる危険性があります。
 さらに、今回の法案の成立によって、特にトランスジェンダー女性に対する差別を助長する恐れがあることも危惧されています。実際、トランスジェンダーの人々に対する実態とかけ離れた事実誤認や歪曲、差別や偏見に基づく発言などが継続的に行われており、SNS上などでそれが増幅され拡散されるという過酷な状況があります。また、プライドハウス東京コンソーシアムが設立当初から取り組んできたスポーツの現場においても、トランスジェンダー女性が排除される動きが活発になっています。トランスジェンダーの方々の命や健康に重大な悪影響をもたらし、排除や抑圧を深めるものとして、私たちはこうしたヘイトスピーチの拡散に強い懸念と抗議の意を表明します。
 プライドハウス東京コンソーシアムは、本法律の懸念点を厳しく批判し、内容の見直しを強く要望します。また、LGBTQ+当事者への差別の助長につながることがないように、今後も本法律の運用を厳しく注視し、LGBTQ+当事者の実態を踏まえた提言等を行っていくことを表明します。あわせて、識者・当事者団体らの声を法律を運用する際にきいていただけるよう、要望します。
 さらに、全国各地のLGBTQ+支援団体、専門家、民間企業、大使館、スポーツ団体・関係者、ジェンダー平等やマイノリティ支援に取り組む様々な団体の皆さんをはじめ、あらゆるステークホルダーと連携し、本法律の原点を見据え、適切な運用がなされる取り組みを進め、誰も排除されないLGBTQ+インクルーシブな社会を共に実現することを呼びかけます」


 LGBT法連合会も19日、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案の成立についての声明」を発しました。LGBT法連合会はそもそもLGBT差別禁止法の制定に向けて、国会内の超党派LGBT議連への政策提言を行なうために、全国の100以上のLGBTQ団体が集まって結成された団体で、かれこれ6年以上もLGBT法の制定のために尽力してきました(だからこそ、LGBT法をめぐる動きに関してLGBT法連合会がその都度コメントしたり、会見を開いたりしてきました)。2年前の、与野党合意を見ながら(ただ差別発言だけが垂れ流されて)国会に提出されなかった事件を経て、今回の、議論されるたびに内容が後退し、挙げ句の果てに土壇場でマジョリティ配慮の(差別増進的な)内容に変質させられてしまった件を、誰よりも悔しく感じていることでしょう。声明にもその憤りが表れていると同時に、「差別を禁止する法制度が確立されるよう、歩みを止めることなく、多くの人々とともに連帯して運動を続けていく」との決意表明が述べられています。
「2023年6月16日、参議院本会議において、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」が成立した。本法は、極めて異例の審議・修正の過程をたどり、短期間で法の内容が後退するものとなった。日本で初めて性的指向及びジェンダーアイデンティティについて位置づけた法律として、歴史的な意味を持つべき法律であるにもかかわらず、私たちが求めてきた差別禁止法とは大きく異なり、懸念を表明しなければならないものであることは極めて残念である。長年の運動の結果が、このような法律の制定であることは受け入れ難く、厳しい姿勢で臨まなければならない。また、今後、この法律については、取り組みの後退が懸念される部分、前進に活かし得る可能性のある部分の双方について、対応を早急に検討しなければならないであろう。
 この法律は、「全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下」理解増進の施策を進めるとの基本理念を掲げている。この理念に則り、国の基本計画の策定、省庁連絡会議の設置、学術研究の推進、毎年の白書の発行などが政府に義務付けられている。また、国、地方公共団体、事業主、学校は、基本理念に則った施策の実施に努めるものとされており、啓発や相談体制の整備その他の必要な措置を努力義務として課している。ただし理念法でありながら、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」と、性的マイノリティ当事者の尊厳を踏み躙るかのような条文を設け、政府が具体的な指針を策定するものと規定している。
 理解増進の名を冠しながらも、啓発等は努力義務に留まっており、国の体制整備を義務付ける法律と捉えるべきものである。ただ、国会答弁によれば、すべての施策は「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」こととなる。更に、指針が策定されることにより、現在、もしくは今後の地方自治体や教育現場の取り組みに対し、実質的な萎縮効果をもたらすことが懸念される。一部の勢力によって、さまざまな取り組みが「安心できないもの」であるとされ、停滞させられることのないよう、今後の基本計画や指針の策定経過はもとより、地方自治体や教育現場への、学術的に裏打ちされ、統計的な根拠を持った働きかけを強めなくてはならない。
 本法律が日本で初めて性的指向及びジェンダーアイデンティティ(性自認)について位置づけた法律であるにもかかわらず、このような内容となったことに憤りを禁じ得ない。法律制定までの審議過程も含め、これが当然に導き出される経緯や法の内容ではないことは、強調しておきたい。当事者は、法律の制定に至る過程の中で、多くの傷つきと途方もない苦しみを味わうこととなったが、これを当然とせず、このような過程自体が社会的に問われるべきものであり、真摯に省みられるべきであることを指摘する。
 今後、この法律が性的指向や性自認に関する取り組みを阻害する動きに使われることなく、真に基本理念に則った取り組みが進むよう、また差別を禁止する法制度が確立されるよう、歩みを止めることなく、多くの人々とともに連帯して運動を続けていく」



 両団体と同様に、LGBTQを差別から守るための法整備や平等な権利、当事者の生きづらさを解消するための施策等を求め、活動してきた一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんも19日、Yahoo!に「LGBT理解増進法が成立。「多様な性」尊重の流れを止めないためにできること」と題した記事を寄稿し、これからLGBTQ+Allyコミュニティはどうしていけばよいのか、ということについて論じました。
 松岡さんは「この法律はそもそも根本的な問題があり、加えて、土壇場で修正された文言によって、もはや理解の増進ではなく「理解を制限できてしまう」ものへと変質してしまったと言わざるを得ない」として、「差別禁止規定がないため、具体的な被害を解決できない」「「多数派の安心への留意指針」が盛り込まれ、理解増進の施策が制限される可能性」があるなど、この法の問題点を整理しながら解説しています。「家庭や地域住民の協力」が明記され、学校教育が制限される可能性については、行政法が専門の日本大学大学院・鈴木秀洋教授が「学校教育法の同様の規定は、学校教育を縛るものと解釈されていない」と述べていることを挙げ、LGBT理解増進法においても学校での理解を広げる動きに介入できるものではないとの見方を示すとともに、参議院内閣委員会でも法案提出者の一人である國重徹議員(公明)が「保護者の協力を得なければ取り組みを進められないという意味ではありません」と答弁していることを確認し、不安の解消につなげています(MFAJの寺原さんも「国会での議論の過程は大事」と語っているように、こうした答弁が記録に残っていることは重要だと言えそうです)
 このような懸念点を踏まえたうえで、今後、どんな対応が必要になるのか?ということについて、松岡さんはこのように述べています。
「この法律をもとに、今後、政府は「基本計画」や「指針」を作っていくことになる。その際、性の多様性に関する理解を広げたくない議員や団体が、法の適切な解釈を無視してでも「多数派の安心に留意」「家庭や地域住民の協力」といった点を口実に施策を制限しようとすることが考えられる。基本計画や指針が策定される際、その審議の中で性的マイノリティ当事者が参加し、当事者の声が反映されるか、さらには特定の声だけではなく、エビデンスやデータに基づく議論がされているか、特に自治体や学校現場の施策を萎縮させるものになっていないかを注視する必要がある。連合がすでに事務局長談話で表明している通り、労働者や使用者なども参加する公開の場で、「不安」といった観念的な議論ではなく、現場の具体的・実務的な視点からの議論が必要になるだろう。さらに、前述の「多数派の安心に留意」「家庭や地域住民の協力」といった文言を使って、直接的に自治体や学校へ理解を広げないようはたらきかけが行われる可能性も十分あり得る。これによって自治体や学校が萎縮しないよう注意しなければならない」
「大きな危機感を持つ必要はあるが、一方で希望もある。これまでは何も法律がないからこそ、学校や企業、自治体等での現場の努力で取り組みが進められてきた。時代の大きな流れを見ると、確実に社会は性の多様性を尊重する方向へと進みつつある。だからこそ、今後この法律を活用できるか次第で、さらに良い方向へと社会を進められる可能性もある。2000年代には性教育やジェンダー平等に対するバックラッシュが起き、特に学校現場は萎縮、現在でも適切な性教育が阻まれている。こうした事例に学びつつ、現状の社会の流れを止めないために、一人ひとりが行動し、それぞれの現場で取り組みを広げていくことが重要だ。さらに、性の多様性をめぐる理解を阻害しようとしてくる動きの背景に、どんな団体や組織、政治的な動きがあるのかという点を明らかにしていくことも大切だろう」
「今後も保守的な家族観や国家観を守るために、あえてトランスジェンダーを標的にしたバッシングは続くかもしれない。その際、社会に対していかにトランスジェンダーのリアルを伝えられるか。社会の知識が追いついていないのだとすれば、そこを埋められるか。不安を煽り、分断させられること自体に抗えるか。すべての女性の安全を守り、同時に性の多様性を尊重する社会の流れを止めさせないかは、LGBT理解増進法を前提に、今後も適切な取り組みを広げられるかにかかっている。自治体、企業、学校など、それぞれの現場での理解を広げ、反対の動きが起きたとしても萎縮しないよう、手を取り合っていくことが今後より一層求められる。これまで「ダイバーシティ」を掲げながら、人権や政治、制度について語ってこなかった人や企業も、良かれ悪しかれ法律ができたことを契機として、今こそ立ち上がり、繋がって欲しいと思う。LGBT理解増進法ができても、当然だが差別がすぐになくなるわけではない。今後も「差別禁止法」や「婚姻の平等(同性婚の法制化)」、そして「性別変更に関する非人道的な要件の緩和」など、性的マイノリティの命や尊厳を守るための法整備が求められることは変わらない」

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