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緊急連絡先として同性パートナーの名前を伝えた方が会社でアウティング被害に遭い、精神疾患を患った件について国が労災認定しました

2023年07月25日

 会社からアウティングを受けて豊島区に申立てを行なっていたゲイ男性に会社が謝罪し、和解が成立とのニュースでお伝えしていた、職場でアウティング被害に遭って精神疾患を発症した20代のゲイの方(Aさんとします)が国から労働災害であると認定されていたことがわかりました。アウティング被害による労働災害は全国初とみられます。

 Aさんは2019年5月に営業職として東京都豊島区にある保険代理店へ入社しました。Aさんは入社前から豊島区のパートナーシップ制度を利用し、同性パートナーと一緒に暮らしていました。Aさんは入社面談の際、様々な事情から上司にパートナーの名前を緊急連絡先として伝えざるをえませんでした。同性であることを問われたため、Aさんは「みんなの前で言える内容ではなかったので、別の場所で、上司に自分がゲイだということ、パートナーシップ制度を使っていることを伝えました。アウティングをしないでくれという意味で『他の人には言わないで』とも伝えました」。上司との話し合いのなかで、業務上知る必要性の高い正社員にのみ自分のタイミングで伝えること、パート労働者には伝えないことが取り決められました。
 ところが、入社から1ヵ月後、Aさんが何度話しかけても無視されるなど、パート労働者のAさんに対する態度が急変しました。突然のことに、Aさんは事態を理解できなかったといいます。同じ頃、Aさんは直属の上司から2人きりの飲み会に誘われ、そこで「同性のパートナーがいることを、パートに言った。自分から言うのが恥ずかしいと思ったから、俺が言っといたんだよ。一人ぐらい、いいでしょ」と笑いながら告げられ、上司から謝罪などは一切なく、あまりの衝撃にAさんは言葉を失ってしまいました。 
 その一件以降、Aさんは上司を信用できなくなり、上司との関係性も悪化していきました。上司からは電話で「ふざけるな」「ばか」「頭悪い」などと暴言を繰り返し吐かれるようになり、何度も社長へ相談したが「なんとか頑張ってくれ」「わかってるから」などと言われるだけで、改善に動いてくれることはありませんでした。結局、Aさんには、動悸、対人恐怖、不眠、希死念慮などの症状が生じ、「上司が他の社員にも自分がゲイであることを広めているのではないか」と人間不信に陥り、会社に行くことができなくなってしまいました。11月にAさんは精神疾患の診断がなされ、降長期の療養を余儀なくされました。
 深刻な体調不良に陥ったものの、幸いなことにパートナーのサポートもあり、徐々に「こんな理不尽なことは納得できない。泣き寝入りはしたくない」という思いが生まれました。Aさんは相談窓口を探し、NPO法人POSSEにたどり着き、その後、総合サポートユニオンへ加入し、会社に責任を求める団体交渉(会社との話合い)をスタートしました。両団体には、LGBTQの労働問題に対応した経験のあるスタッフがおり、また学生ボランティアや連携している当事者の方なども支援に加わりました。
 会社は当初、「上司がアウティングをしたことは認めるが、もともとAさん自身がゲイであることをオープンにしていきたいという意向があったので、善意でやったことだ」と開き直っていたそうです。そのような不誠実な対応に対し、AさんやPOSSEのメンバーは、アウティング禁止条例がある豊島区への通報を行なったり、会社の前で問題を訴えるスピーチやチラシ配布をするなどの宣伝活動を行ないました。また、職場でのアウティングに抗議するデモを池袋で行ない、200名ほどの大きなアクションになりました。
 このような活動の結果、2020年10月、最終的に会社はアウティングの事実関係を認め、謝罪・賠償をし、再発防止策を約束するという包括的な解決をすることができました。LGBTQの労働問題がまだまだ顕在化しないなか、会社側の適切な対応を引き出したことは、多くの当事者たちへ勇気を与えることとなりました。

 Aさんは2021年4月、アウティングによる精神疾患の発症について国へ労災申請を行ないました。職場でのアウティングが公的に労災認定されるようになれば、同様の被害を受けたLGBTQの労働者が生活補償を受けられることはもちろん、企業や加害者への責任追及も容易になり、アウティングを社会的に無くしていくことにつながると考えたからです。
 しかし、アウティングは現在の労災の認定基準の中へ明確に位置づけられているわけではなく、法制度上のハードルがありました。そこで、Aさんらは労災申請をすると同時に、記者会見を行ない、オンライン署名をスタートしました。職場でのアウティング被害について社会問題としてアピールすることで、現状の法制度の課題を乗り越えようとしたのです。すぐに約2万筆が集まり、同年6月、厚労省に署名提出と申入れも行ないました。その際、厚労省からは、現行の労災認定基準自体には「職場でのアウティング」は必ずしも明記されていないものの、2020年に国が出した(パワハラ防止法に基づく)「パワーハラスメント指針」などの関係指針等から総合判断し、「労災と認められうる」という回答を引き出すことができました。
 新たにできた「パワーハラスメント指針」に記載のある「個の侵害」の中には、「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」と項目が新たに定められていました。
 そして、労災申請から約1年が経過した2022年4月、ついに、国はアウティングの事実関係を認定し、Aさんへの労災の支給を決定、国に対して行なった情報公開請求で明らかになった認定理由を示す書類の中にも、明確にアウティング被害が事実として認定されていました。
 
 これまで、2021年に大阪府で「SOGIハラ」での初の労災認定が下りていましたが、アウティングでの労災認定は、今回が初の事例とみられます。Aさんが泣き寝入りせず、行動を起こしてくれたこと、そしてNPOや労組などの支援のおかげです。
 労災認定が下りてから、記者会見まで1年以上の歳月を要したのは、Aさんの体調がよくなかったからです。今も精神疾患が完治していないにもかかわらず、記者会見に臨み、Aさんは次のように語りました。
「パニック状態でその時は、嗚咽というより、体調がわるくてめまいなどがすごく、その場から逃げたい、消えたい状態に陥りました。自殺も考えた。アウティングがどれだけ人を傷つけ、生死を分けるようなことかを改めて多くの人に知ってほしい。人間不信になったが、NPOやユニオンなど一緒に行動する人とつながったことで人を信じれるようになってきた。今回の取組みをきっかけに職場でのアウティングやLGBTQへの差別を無くしていきたい。各企業には、罰則のあるアウティング禁止規定を作ってほしいと思います」
 
 今回の労災認定の意義についてPOSSEの佐藤学さんは「アウティングと精神疾患発症などの因果関係が労災として認定されたことで、今後、加害行為に対して謝罪や賠償、再発防止などの責任追及がされることになります」「相談窓口の設置や教育が進んでいき、社会的にアウティングをなくしていくことにつながると考えています」と語りました。 



 もし今後(あるいは今までに)職場でアウティングの被害に遭った場合、まずはPOSSEに相談するとよいのではないでしょうか。きっと親身に相談に乗ってくれますし、解決につながると思います。

NPO法人POSSE 無料労働相談窓口 
03-6699-9359(平日17時~21時、日祝13時~17時、水・土定休)
メール:soudan@npoposse.jp
 


参考記事:
「俺が代わりに言っておいてやった」 LGBTQの「アウティング」被害で労災認定(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20230724-00359193
同意なき性的指向暴露“アウティング”巡り 労災認定 全国初か(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230724/k10014140411000.html
「泣き寝入りはしたくない」同性愛者であると上司に広められ…うつ病など発症 20代男性「アウティング」で初の労災認定(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/society/2544f21cd7a64c2ba25050c70ea28a2f
「人間不信に陥り家の外に出ることもできなくなり」アウティングによる初の労災認定か 労基署が性的指向の暴露をパワハラ認定(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/621671?display=1
「アウティング」で初の労災認定 同性愛を暴露され精神疾患(FNN)
https://nordot.app/1056233715989774772?c=516798125649773665
「アウティング」による精神疾患 初めて労災認定(テレ朝)
https://news.livedoor.com/article/detail/24673322/
性的指向を暴露され労災認定 初事例か、パワハラに該当(共同通信)
https://nordot.app/1056153147460976937?c=768367547562557440
「アウティング」で労災認定 職場で性的指向暴露、精神疾患に 東京(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023072400919
上司の「アウティング」はパワハラ、異例の労災認定…緊急連絡先の同居パートナーを同僚に暴露(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230724-OYT1T50282/
「アウティング」精神疾患で労災 性的指向、本人同意なく暴露(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15698861.html
アウティングが労災認定。“初判断”に訴える「自殺を選ばせてしまう重みがある」と被災者(ハフポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_64bdc3b5e4b09a3b48931d74
アウティングが労災認定。同性愛を暴露され、退職の当事者「泣き寝入りしたくなかった」(BUSINESS INSIDER JAPAN)
https://www.businessinsider.jp/post-273102

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