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渋谷区の同性パートナーシップ証明制度開始から8年が経ち、利用者の約6割が安心感を感じる一方、半数が世間の理解が足りないと感じる経験をしていることがわかりました

2023年11月06日

 日本で初めて2015年2月に同性パートナーシップも婚姻相当と認めて証明書を発行する制度の創設を発表し、同年4月に同性パートナーシップ証明を盛り込んだ新条例を施行し、11月から世田谷区とともに制度をスタートさせた東京都渋谷区。その制度開始からこの11月で8年を迎えました。渋谷区が証明書を取得した方たちへの実態調査を行なったところ、証明書がいざというときに役立つ安心感があると6割が答え、肯定的な声がたくさん寄せられましたが、一方、世間の理解が足りていないと感じる経験をした方も半数を占めました。
  
 
 渋谷区で23年10月1日までに制度を利用し、証明書を取得したのは77組だったそうですが、区は昨年7月~12月に利用者にアンケートを実施し、35人から回答が得られ、そのうち6組と1人にインタビューを行ないました。
 その調査結果が渋谷区公式サイトの「渋谷区パートナーシップ証明実態調査2022報告書」のページで公表されています。
・制度があるから渋谷区に転入したとの回答が17.1%もあったそうです。
・制度を利用した理由として最も多かったのは、「有事の際にパートナーとの関係を証明できるものが欲しかったから」(88.6%)で、「二人が特別な関係である証が欲しかったから」(71.4%)、「パートナーとの関係を自治体や社会に認知されたかったから」(65.7%)などが続きます。インタビューでは、「病気などに罹患した際に、立ち会えない可能性があること、そうした際に証明になるものが欲しいというのが大きな理由」「一つのけじめとして活用した」「銀行からパートナーシップ証明がないと共同名義にできないと言われたことをきっかけに」「結婚することが第一希望だったので、結婚と同等の制度ではないことへの落胆が大きかった」「法的なメリットが乏しい。公正証書作成のコストや手間に対し、メリットがクリアになっていない」といった声が上がっていました。
・民間サービスで証明書を活用した経験は、「保険金の受取人指定」が31.4%、「ポイント・マイルの家族利用」が28.6%、「携帯電話等の家族割」が25.7%、「病院での付添いや同意」が22.9%などとなりました。実際は、証明書を提示しなくても、パートナーだと言うだけで認知してもらえることが多いということもわかりました。インタビューでは事業者の担当者が理解しておらず、社内に確認するとか弁護士に相談するとかで「たらい回しにされた」事例があることがわかりました。公正証書の取得など多大な苦労があるのに「取ってきてくださいね」と簡単に言われ、寄り添う気持ちがないと感じた、という声もありました。
・パートナーシップを認知してほしい行政サービスとしては、「国民健康保険被保険者の同性パートナーへの疾病手当金相当額の支給」(85.7%)、「同性パートナーへの災害弔慰金の支給」(80.0%)、「要介護認定代理申請」(77.1%)、「保険料の納付相談」(77.1%)などのニーズが高いことがわかりました。自由回答では、「各種税金の控除を検討していただきたい」「パートナーが外国籍であった場合、永住権を認めてほしい」「男女の夫婦に求められているサービス全般」「同性カップルが子どもを持ち育てることを前提に、全ての行政サービスに同性カップルを想定していただきたい」などの声が上がりました。
・勤務先に同性パートナーを異性婚の配偶者と同等に扱う人事福利厚生制度(慶弔休暇、結婚祝い金など)があると回答した11人全員が制度を利用したと回答、そのうち3人が職場に証明書を提出したと回答しました。インタビューでは、職場でカミングアウトを始めていてキャバクラに連れて行かれるストレスから解放されたという方や、制度申請にあたって必要なごく一部の人だけにしか話していない(職場がそのような配慮をしている)方もいることがわかりました。
・証明書がいざというときに役立つ安心感があるかどうかについては、「そう思う」と「ややそう思う」との回答が62.8%に上りました。
・渋谷区のパートナーシップ証明書の取得を他の人におすすめする度合いについて、10点満点中8点以上とした人が半数強の54.3%となりました。インタビューでは「ただ同棲しているのではなく、結婚に近い感覚を持てている」「完璧な仕組みとは言えないが、それでも役立つ時はある」「社会的な保証があるのは心強い」「他の自治体と違って、公正証書による効力が付随してくるため」「自分で自分を認めてあげる、これでいいんだねと思うことができたことが大きい」「以前は子どもを持つことを想像しなかったが、そういう道もあると気付くきっかけになった」など、肯定的な声が多く寄せられました。
・制度が広く社会に認知・理解されているかどうかについては、「そう思う」と「ややそう思う」が60.0%に上りました。
・制度の社会的な認知・理解が足りていないと感じた経験が「ある」との回答が48.6%に上りました。インタビューでは大家さんが証明書のことを取り合ってくれず、賃貸の申込みを断られたという事例や、クレカの家族カードが作れなかったと言う事例、医師に「あなたは正確には”家族”ではありませんけどね」と言われた、といった事例が挙げられました。

 調査結果全体のまとめとして、「前回(2017年の調査)から一歩進み、パートナーシップ証明書取得者の暮らしについてより深く知ることを通じて、行政サービスにおける具体的な活用ニーズについて把握することができた」「公正証書の作成を要件とする渋谷区パートナーシップ証明書を取得することが、婚姻と異ならない実質を備えた関係であるという実感に繋がっていることが改めて確認された」「地域住民との接点において快く無い経験が見られたりしたことから、パートナーシップ制度の運用に留まらず、身近な生活の中で社会的包摂を促進する取組が欠かせないことがわかった」といったことが述べられていました。企業には研修などで理解を深めていただいたり「取組みを推進する余地がある」ともしています。区は今回の結果を今後の施策に活用する方針です。

 2015年の制度発表の際は、にわかにテレビで同性婚の議論が始まったり、コミュニティ内でも「初めて公に承認された」という喜びが広がったりしました。現在は300超の自治体が制度を導入するに至り(その多くは世田谷区型の宣誓制度ですが)、着実に社会がLGBTQインクルーシブな方に変わっています。渋谷区はその後も、虹色ダイバーシティと共同で全国の自治体の制度導入の状況を調査したり、こうして制度利用者への実態調査を行なって結果を公表したり、区の施策にとどまらない、社会全体への貢献を果たしていると言えます。
 同様の調査が数年後にまた実施されるのではないかと思われますが、LGBT理解増進法もできましたし、今後さらに社会の理解が進み、その頃には、賃貸の申込みを断られたり、医師に「あなたは正確には”家族”ではありませんけどね」などと言われることがないような状況になっていることを期待します。(そうなるためには「理解」というより「差別禁止」の法律が必要なのかもしれませんが)
 

参考記事:
渋谷区「パートナーシップ」開始8年 「認知されている」6割 半数が理解不足を経験(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/287918

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