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広島高裁が特例法の外観要件を「違憲の疑いがある」とし、申立人の性別変更を認めました

2024年07月10日

 最高裁大法廷が昨年10月25日、戸籍上の性別を変更する際に現行法で生殖能力がないことを必須としている規定(不妊化要件)を違憲であるとする初めての判断を示しましたが、外観要件(変更する性別の性器に似た外観を備えていること)については高裁で審理が尽くされていないとして審理を高裁に差し戻していました。その広島高裁の判断が10日、示され、外観要件について「憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」として申立人の性別変更を認めました。


 申立人のトランス女性は(仮にAさんとします)性同一性障害と診断され、女性として社会生活を送ってきました。性同一性障害特例法では生殖能力がないこと(不妊化要件)、変更する性別の性器に似た外観を備えていること(外観要件)が要件とされ、事実上性別適合手術を受けることが必須となっていました。最高裁は昨年10月の判決で不妊化要件について「自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が、人格的生存に関わる重要な権利として保障されていることは明らか」だとし、「性同一性障害者がその性自認に従った法令上の取り扱いを受けることは、(中略)個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益と言うべきである」「治療として生殖腺除去手術を必要としない性同一性障害者に対して、手術を受けることを余儀なくさせるのは身体への侵襲を受けない自由を制約するもので(中略)必要かつ合理的なものということができない限り、許されないというべきである」と述べ、違憲だとする判断を示しました。一方、外観要件については最高裁が審理をやり直すよう命じ、高等裁判所で審理が続いていました。申立人はトランス女性であるため(トランス女性の場合、外観要件を満たすためには性別適合手術を受ける必要があるため)、申立人の性別変更を認めるかどうかも広島高裁で判断されることとなっていました。

 関係者によると広島高等裁判所は10日、外観要件について「手術が必要ならば体を傷つけられない権利を放棄して手術を受けるか、性自認に従った法的な扱いを受ける利益を放棄するかの二者択一を迫る過剰な制約を課し、憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」と指摘しました。そして「手術が行われた場合に限らず、他者の目に触れたときに特段の疑問を感じないような状態で足りると解釈するのが相当だ」として、手術なしでも外観の要件は満たされるという考え方を示しました。そのうえで、申立人のAさんがホルモン治療で女性的な体になっていることなどから、性別変更を認めました。

 性別変更が認められたAさんは、弁護士を通じコメントを出しました。
「物心ついたときからの願いがやっとかないました。社会的に生きている性別と戸籍の性別のギャップによる生きにくさから解放されることを大変うれしく思います。これまで支えて下さったたくさんの方々に感謝したいと思います」 
 代理人を務める南和行弁護士は、決定を伝えたときの当事者の様子について「ことばを詰まらせて電話の向こうで泣いている感じでした」「申立てから5年近くかかったので、ようやく本人が安心して生活できるようになったことが何よりもうれしいです」と話していました。
 南弁護士はさらに、「性別変更に必要な外観の要件について判断の枠組みを明確に示したので、各地の家庭裁判所での審判に影響がある。個別の事情から手術を受けられず、諦めていた人が申し立てをしやすくなると思う。最高裁判所大法廷の決定以降、与野党ともに議論が始まったと聞いている。困っている人の生きづらさや不利益をできるだけ少なくするという視点で立法の議論をしてほしい」とコメントしています。

 
 林官房長官は午前の記者会見で「国が当事者として関与しておらず、詳細を承知していないため、政府としてコメントは差し控える」と述べました。「関係省庁では去年10月の性同一性障害特例法に関する最高裁判所の違憲決定を踏まえて、実務的な課題や対応などについて検討している。立法府とも十分に連携し、引き続き適切に対応していきたい」


 今回の判決で外観要件も違憲ということになったと言えるかというと、そうではないと思われます。今後、当事者団体や有識者などから声明やコメントなどが発表されると思いますので、そちらを待ちましょう。
 まずは念願叶って晴れて法的性別変更が認められたAさんに「おめでとうございます」と、5年にわたって裁判を闘ってきた南弁護士・吉田弁護士に「おつかれさまでした」と申し上げたいです。



 なお、たまたま同じ時期の発表となりましたが、8月に退官する戸倉三郎・最高裁長官の後任に今崎幸彦・最高裁判事が就くことになりました。今崎氏は2022年6月に最高裁判事に就任し、昨年7月の経産省職員トイレ使用訴訟の画期的な判決で裁判長を務めていた方です。戸倉氏は今年の憲法記念日談話でLGBTQ関連の訴訟について裁判官に「広い視野」「深い知見」を求めていましたが(詳細はこちら)、今崎氏もLGBTQ(性的マイノリティ)の法益を尊重し、性の多様性を尊重する社会の実現に向けて、当事者の個々の具体的事情を踏まえながら適切な判断をしてくださる方だと言えそうです。数年後には「結婚の自由をすべての人に」訴訟の最高裁判断も予想されるなか、今崎氏のような方が最高裁長官になってくださると、とても心強いですね。



参考記事:
男性から女性への戸籍上の性別変更 手術なしで認める決定 高裁(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240710/k10014507081000.html
“手術無し”で男性から女性への性別変更を認める決定 広島高裁に差し戻された家事審判で(テレビ新広島)
https://www.fnn.jp/articles/-/726454
戸籍上の性別変更 手術なしで認める決定 広島高裁(広島ホームテレビ)
https://www.home-tv.co.jp/news/content/?news_id=20240710261755
手術なしで性別変更認める 外観要件は違憲疑い、広島高裁(日経新聞/共同通信)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE101IZ0Q4A710C2000000/
手術なしで性別変更認める 外観要件「違憲の疑い」 男性から女性に・広島高裁(時事通信)
https://sp.m.jiji.com/article/show/3281526
男性から女性への戸籍上の性別変更、手術なしでも認める高裁決定…申立人「願いがやっとかなった」(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240710-OYT1T50077/
トランス女性の性別変更「手術なし」で認める 高裁、外観要件満たす(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS7B0CRZS7BUTIL01LM.html

最高裁長官に今崎幸彦氏が内定、近く閣議決定 13代続け裁判官出身(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS782RS2S78UTIL00FM.html

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