g-lad xx

NEWS

【エムポックス】タイの患者が重症化するクレード1bだったと確認、クレード1bも性的接触が主たる感染経路のようなので注意が必要です

2024年08月22日

 16日に【エムポックス】重症化しやすいタイプの変異株の流行についてというニュースでお伝えしたように、アフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)で重症化しやすいタイプのエムポックス(旧称サル痘)の新たな変異株(クレード1b)が猛威を奮っていることから世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。その後の情勢について、また、詳細がよくわかっていないクレード1bについても少し情報が出てきましたので、そちらについてもお伝えします。

 
 15日にスウェーデンで、流行地域に滞在していた方のクレード1bへの感染が確認されたのに続き、タイでも21日、クレード1bの感染疑い例が報告されました。タイ保健省疾病管理局トップのトンチャイ・キラティハッタヤコーン氏によると、感染の疑いがあるのはアフリカに滞在後にタイを訪れた欧州人で、「この人物がクレード1に感染していると確信しているが、検査の最終結果が出るまで2日かかる」とのことです。
 20日にはアルゼンチンで、ブラジルからの穀物輸送船にエムポックス感染が疑われる乗員がいるとの報告があり、この船をパラナ川で隔離して対応を取っているとの報道がありました。その後、陰性であることが確認されたそうです(こちらに書かれています)

【追記】2024.8.22
 タイの患者の方のエムポックスがクレード1bであることが確認されました。アジアでは初めてです。
 
 WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言の発出とともに、エムポックスへの対応に必要な資金を提供するよう資金拠出機関や援助国に訴えています。国境なき医師団(MSF)は、これを強く支持しながら、「包括的かつ協調的な対応が求められ、そこには疫学サーベイランス、検査の能力向上、地域住民の意識向上と参画、治療・ワクチン・診断へのアクセスの保証など、流行対応に必要なあらゆる要素が含まれる」と述べ、既存の2種類のワクチン(MVA-BNとLC16)をWHO「緊急使用リスト」に加え、ワクチンの増産を促進し、途上国へのワクチン供給を支援する国際機関がこれらのワクチンを調達して供給できるようにするべきだと訴えています。
 アフリカ疾病予防管理センターのカセヤ事務局長は、エムポックス流行に対応するために少なくとも1000万回分のワクチンが必要になると推計しており、(2022年の流行の際に)MVA-BNワクチンを大量に備蓄し、いま現在活発な流行が発生していないような国々にアフリカの国々への寄付を求めました。
 17日にはデンマークのババリアン・ノルディック社がMVA-BNワクチンの増産を発表し、19日には米医薬品受託製造のエマージェント・バイオソリューションズがACAM2000(天然痘の予防注射として承認されているものの、米食品医薬品局がエムポックス向けの使用をまだ承認していないもの)を5万回分寄付すると発表しました。日米両政府も協力を表明しており、来週にもエムポックスワクチンの初回供与分が届く見通しだとコンゴ民主共和国のムランバ保健相が19日に述べています。
 
 WHOは20日、エムポックスの感染拡大を制御する方法はわかっており、第二の新型コロナではないと強調しました。
 WHOのハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は国連のメディアブリーフィングで「エムポックスの世界的抑制と撲滅のためのシステム導入を選択するのか、あるいはパニックと放置の新たなサイクル突入を選択するのか。現在と今後何年にもわたってわれわれがどう対応するかは、欧州と世界にとって重大な試練となる」と述べました。
 
 
 強毒型のクレード1bがどんな特徴を持つ変異株で、どのように感染するのか、といった詳細については、まだあまり明らかになっていないのですが、少しずつ情報が出てきていますので、お伝えします。
 
 2022年以降、欧米のゲイ・バイセクシュアル男性を中心に流行した変異株(クレード2b)と異なり、現在流行中のクレード1bは女性や子どもの間でも感染が広がっており、死亡者の大半が子どもであると、家庭内感染が中心であるかのような報道が目立ちます。
 JB PRESSの記事で獣医師の星良孝氏は「家庭内感染で国を超えてそう簡単に広がるとは考えづらい」「実は2024年に入ってから、これまでアフリカの流行地域では報告されていなかった性感染症としてのエムポックスの広がりが確認されている」と述べています。コンゴや欧米などの国際グループが今年3月に発表した査読前論文に「アフリカにおけるエムポックスの主要な感染ルートが売買春によるものである」と書かれており、これによると昨年8月にコンゴ民主共和国東部のキヴ州で発生した多数感染の入院患者の感染経路を調査した結果、感染の主要な経路が(異性間の)性行為だったということです。
「クレード1bは、これまでのクレード1とは異なる変異パターンを持ち、人から人への持続的な感染が続いていることが確認され、しかも性感染症として広がっている可能性が考えられる。というのも、感染者の約52%が女性で、約29%が性的な労働者で、性感染症としての側面が強いことが示されたからだ」
 
 Yahoo!の記事で忽那賢志医師も「2年前の流行と同様に、性行為に関連して広がっている」と述べています。

 Bloombergの記事でも「新たに変異したウイルスが主に性行為を通じて成人の間で広がっている」とされていますが、コンゴにおけるエムポックスの感染経路は複数あり、「性行為などの密接な身体的接触を通じて感染するほか、感染者から同居している人々や医療従事者に広がる場合もある」とも述べられています。疫学者のアン・リモイン、ケイトリン・ジェテリナ両氏は「現場の専門家は空気感染の証拠を見ていない」と指摘し、「むしろ、子どもたちがネズミを捕まえたり、4人一緒にベッドに寝たりする方が感染経路になり得る」としています。「同国の他地域では、古いウイルス株が感染した野生動物からその動物を狩猟したり扱ったりした人間に伝染し、子どもたちの間で感染者が爆発的に増加している。両方のウイルス感染経路に関連しているのが、患者の家族や治療に当たる医療従事者の感染だ」とも述べられています。
 ヨハネスブルクのリプロダクティブ・ヘルス・アンド・HIVインスティテュートの創設者であるヘレン・リース氏は「われわれが目にしているこれらの新たなウイルスの中には、動きを変え、より攻撃的になっているものもある。エボラウイルスや新型コロナもそうだった。今度のエムポックスについても同じような状況が見られている」と述べています。

 一方、ナショナルジオグラフィックの記事では、「エムポックスは性行為だけで広まる感染症ではないことを示す証拠がある」とされています。米国立アレルギー感染症研究所のウイルス学者であるバーナード・モス氏は、症状が出ている人がいれば皮膚どうしの接触(性行為を含む)やベッドシーツやタオルや衣服との接触によっても広まると述べています。実際、アフリカでのこれまでの集団感染では、あらゆる年齢層の女性や子どもや男性が感染しています。「このウイルスは、1つの性別や1つの集団の中にとどまるものではありません」と、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校公衆衛生学部教授で感染症疫学者のアン・リモイン氏は述べています。
 同記事では、すでにワクチン接種を完了している人や、以前にクレード2のエムポックスに感染した人は「クレード1のエムポックスに感染しても重症化しにくいことが期待される」という良い知らせもありました。
 

 まとめると、どうやらクレード1bも(野生動物からの感染というルートもありつつ)主に性行為のような濃厚な身体接触によって感染が拡大してきたと言えそうです(貧困を背景に、セックスワーカーの女性などが性的接触によって感染し、一緒に暮らしている子どもたちにも皮膚どうしの接触やベッドシーツやタオルや衣服の接触によって感染し、免疫系が発達途上であり、栄養状態もよくない子どもたちが亡くなってしまっていると考えられます…そういう意味でも、流行地域へのワクチン供給が急務ですよね)。空気感染するわけではなさそうなので、「第二のコロナ禍」にはならないということでしょう。
 クレード1bも性的接触が主たる感染要因なのだとすると、これが(すでにスウェーデンやタイにも上陸していますが)欧米やアジアに広がりを見せた場合、2022年〜の時と同様、再び男性間の性的接触による感染も拡大するのではないかと懸念されます。クレード1bについてはまだ調査・研究の途上で、はっきりしたことは言えないのですが、もし強毒型であるクレード1bが日本に入ってきて感染が広がった場合、(弱毒性のクレード2bでも昨年末に1人亡くなっていますが)免疫不全状態の方などが重症化したり、命に危険が及んだりする可能性もあるのではないでしょうか…とても心配です。
 クレード2bは「欧州やアジアの国々を含む、通常このウイルスを目にすることのない100近くの国々に広がったが、感染リスクの高い集団へのワクチン接種によって、封じ込めに成功した」(BBCの記事より)ということですから、今回の対策も同様に(MSMもおそらく含まれるであろう)感染リスクの高い集団へのワクチン接種が鍵になるのではないでしょうか。日本でも欧米並みにゲイコミュニティへのワクチン接種の体制が整備されることを望みます。
 
 
 
参考記事:
タイ、エムポックス・クレード1の感染疑い例を初報告(AFP=時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=20240821046347a

アルゼンチン、エムポックス感染疑い発生の穀物船を隔離(ロイター)
https://jp.reuters.com/markets/commodities/OILHGHBEDNLC3BA72UNCCLOTMQ-2024-08-21/

WHO が緊急事態宣言を出した「エムポックス」──ワクチンの供給拡大が急務(国境なき医師団)
https://www.msf.or.jp/news/detail/headline/cod20240820nt.html

デンマークのババリアン・ノルディック、エムポックスワクチン増産へ(ロイター)
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/JF27PYSYYJOOBMH3EKB5D6F65E-2024-08-19/
エマージェント、アフリカ諸国にエムポックスワクチン5万回分寄付(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/us/LMUDZ7ADIFOILFUVWL74NLTP5Y-2024-08-20/
日本供与のエムポックスワクチン、来週にもコンゴ到着の見通し アフリカの感染対策に貢献(ロイター)
https://jp.reuters.com/video/watch/idOWjpvC63Z065A27V4R3NCECW66FLNY8/

エムポックス、「第二のコロナ」でないとWHO 制御法は周知(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/europe/GO52NWEW5FIWBKY6DPHOVQ6ZVM-2024-08-21/
アフリカでエムポックスのワクチン接種開始へ WHOは「制御可能」と強調(CNN)
https://www.cnn.co.jp/world/35223015.html

エムポックス急拡大の背景に「強毒型1b」と「売買春」、ゲイからヘテロに感染が広がり始めた意味(JB PRESS)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/82781?page=2

急拡大のエムポックス、感染パターン解明急務-人々は行動変える必要(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-08-22/SILHMCT0AFB400

エムポックス2回目の緊急事態宣言 1回目と違うところは?(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f6384c0a320645bab255250e1d70e4af363833fa

「エムポックス」はどう広まる? WHOが「緊急事態」を宣言(ナショナルジオグラフィック)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/24/081900451/

【解説】エムポックスとは? どのように感染が広がるのか(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/articles/c1d7n3vdr1do

タイで「エムポックス」“重症化しやすい新タイプ”感染判明、アジア初か 世界的な流行懸念(TBS)
https://news.biglobe.ne.jp/international/0822/tbs_240822_3519216447.html

INDEX

SCHEDULE