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もともと結婚していたトランスジェンダーの夫婦が、同時に性別変更することを認められました

2024年09月06日

 戸籍上の性別の変更を求め、家裁に申立てを行なったトランスジェンダーの夫婦に対し、東日本の家裁が9月4日、二人ともに性別変更を認める判断をしたことがわかりました。性同一性障害特例法には「現に婚姻をしていないこと」という非婚要件があり、結婚している方に対して性別変更を認めるのは極めて異例なことです。
 
 朝日新聞によると、申立人は、2023年に結婚した東日本在住のカップルで、アルバイトのトランス男性(戸籍上の性別は女性)と公務員のトランス女性(戸籍上の性別は男性)。今年5月、同じ日に申し立てたところ、家裁は併合して審理を行ないました。
 夫婦のどちらか一人が戸籍上の性別の変更を望む場合、離婚して性別変更するか、性別変更を断念して結婚を続けるかという選択を迫られます。
 申立人のトランス男性は「私たちには、いったん離婚し、性別変更後に再婚する方法もあったが、あえて結婚したまま申し立てた。トランスジェンダーの家族のあり方を制約している非婚要件のおかしさを問いたかった」と語っています。

 家裁は9月4日付の審判で、二人がともに18歳以上(年齢要件)で未成年の子がおらず(子なし要件)、変更する性別の性器に似た外観を備えている(外観要件)という特例法の要件は満たすものの「非婚要件」に欠けると認めました。ただ、2020年3月の最高裁決定※を踏まえ、非婚要件が設けられた前提には、夫婦の一方の性別を変更すると「同性婚の状態」が生じ、異性婚しか認めていない現在の「婚姻秩序」に混乱を生じさせかねないことへの配慮があると指摘し、そのうえで、二人の場合、同時に性別変更の審判をすれば、同性婚の状態が生じる可能性はなく、非婚要件を欠いていても変更を認めるのが相当であると結論づけました。

※2020年3月11日、特例法の非婚要件の違憲性が問われた家事審判で、最高裁第二小法廷(岡村和美裁判長)は、「異性間においてのみ婚姻が認められている現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえないから、国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできない」として、合憲であるとする初判断を示しました。裁判官全員一致の意見でした(判決内容はこちら
 
 性別変更の家事審判には民事裁判のように対立する当事者がいないため、性別変更を認めた今回の判断は確定となります。他の裁判所を拘束する力はありませんが、同様の申立てが広がる可能性があります。

 一方、今回の家事審判は、申立人夫婦の法的性別変更は認めたものの、非婚要件そのものに問題があるとの判断は示しませんでした。京都産業大の渡辺泰彦教授(家族法)は「法律の文言通りに解釈せず、無用な離婚を迫らなかった点では評価できるが、根幹の問題は残ったままだ」と指摘しています。
 
 性同一性障害特例法の、2003年の制定以来ほとんど変わっていない(今は国際社会からも人権侵害だと言われるような)厳しい要件をめぐっては、その違憲性を指摘する司法判断が相次いでいます。最高裁は2023年10月、生殖不能要件(不妊化要件)について違憲・無効と判断し、今年7月には広島高裁が外観要件について「違憲の疑いがある」としました。
 非婚要件については、上述の2020年の最高裁判断では合憲とされましたが、同年5月、長年日本で暮らし、女性と結婚し、母国で性別変更したトランス女性のエリン・マクレディさんが、日本で性別変更か婚姻解消かを迫られ、裁判を起こすことを表明しました(詳細はこちら)。今年7月には、結婚後に性別移行したトランス女性が戸籍上の性別の変更を京都家裁に申し立て、離婚を強制する非婚要件は憲法違反だと訴えています(詳細はこちら

 朝日新聞の記事に対し、自身もトランスジェンダーである仲岡しゅん弁護士は「そもそも、非婚要件はそれ自体がおかしいですね。非婚要件は早急に廃止・改正されるべきだと思います。他方で、異性愛者だったのに配偶者の性別移行によってその意に反して同性カップルになってしまう他方配偶者の利益にも配慮し、例えば「配偶者の同意を得ている」などの条件を満たしていれば、性別変更が認められるべきではないかと思います」とコメントしています。

 
参考記事:
トランスジェンダーの夫婦、結婚したまま性別変更 家裁が異例の判断(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS9542JSS95UTIL029M.html

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