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トランプ米政権の援助凍結によって630万人が亡くなり、新規感染者が870万人に上り、薬剤耐性のHIVが増加することが懸念されています

2025年02月24日

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は7日、トランプ米政権が資金援助を停止した場合、今後4年間で630万人がエイズで死亡する可能性があると警鐘を鳴らしました。UNAIDSのクリスティン・ステグリング副事務局長は、米政府が先月打ち出した対外援助凍結についてはHIV/エイズ・プログラムに適用除外措置が講じられたものの、将来的に多くの懸念が残っている、特にコミュニティのレベルで適用除外の実施方法に混乱が広がっており、治療サービスの提供に支障を来す事態が多発していると語りました。全般に資金が減っているなか、2025〜2029年にPEPFAR(米大統領エイズ救済緊急計画)の資金援助が再承認されなければ、エイズ関連の死者は400%増加し、630万人に上り、新規感染者が870万人に達する恐れもあるとして「少しでも削減されたり中止されたりすれば、われわれ全員に関わる」と述べ、国連加盟国に協力を求めました。
 
 また、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は12日の記者会見で、米政府が数百億ドルに及ぶ対外援助を凍結していることで、HIVやポリオ、エムポックス、鳥インフルエンザなどの対策プログラムが影響を受けている、50ヵ国でHIV治療や検査、予防サービスが停止したと述べました。「米政府が取っている行動には、世界の健康に深刻な影響を与えると懸念しているものがある」「診療所は閉鎖され、医療従事者は休暇を取らざるを得なくなっている」
 各国の保健専門家は、米国の援助削減によって病気が拡散したり、ワクチン開発が遅れたりする懸念があると警告しています。

 WIREDは、「命を救うための人道援助は支援凍結の例外とされているはずなのに、HIV研究プログラムは中止され、治療のための診療所も閉じられたままだ。HIV感染者が適切な治療を受けられなければ、これまで積み重ねてきた感染爆発を抑え込みのための蓄積も無駄になってしまう」と危機感をつのらせています。
 2月はじめ、米国の対外援助プログラムの凍結は「命を救うための」人道援助を例外とするという緊急通達が出されたものの、ナイジェリアやサハラ以南のアフリカ諸国のUSAIDの支援に頼る診療所や研究プログラムの多くが閉鎖されたままだといいます。そのなかには、HIV陽性者とエイズ患者の治療や予防にかかわる施設が多く含まれています。ナイジェリアには200万人以上のHIV陽性者がいて、その多くがウイルス量を抑えて発症を防ぐため、支援によって提供される医薬品に頼っています。

 国境なき医師団(MSF)も懸念を示しています。MSF米国のアブリル・ブノワ事務局長は「一部の活動には限定的な凍結免除措置が与えられているものの、MSFが活動する多くの国で、人びとがすでに命を守る医療へのアクセスを失ったり、治療がいつまで続けられるかわからなかったりという状況を目にしています」と語りました。
 MSF南アフリカの医療ユニット・ディレクター、トム・エルマンは「いかなるHIVのサービスや治療の中断も人びとにとって非常に大きな苦難であり、治療停止にいたっては緊急事態と言えます」と語ります。HIVの薬は毎日服用しなければ耐性ができてしまったり、命にかかわる合併症を引き起こしたりする危険性があります。
 PEPFARが支援するプログラムは米国の対外援助システムの他の構成要素、USAIDによる実施支援や米国疾病対策センター(CDC)による技術支援、その他の支援と密接に関連しています。対外援助の凍結や停止命令がこれら他機関に影響を与え続けていること、また、これらの機関のスタッフが即時休職や召喚を命じられていることを考えると、現在認められている限定的な活動でさえ、いつ、どのように再開できるかは不明確だといいます。「このような活動の停止は命を奪い、HIVに対する長年の進歩を台無しにすることになるでしょう」とブノワ事務局長は語っています。 
 
 毎日新聞で谷口恭・谷口医院院長は「科学および医学が政治に敗北したことを意味するのではないだろうか」「このままでは少なくともHIVについては大変な混乱を招くのは必至だ。アフリカでは薬剤耐性ウイルスが出現し、米国ではいったん下降に転じたHIVの新規感染者数が再び増加するだろう」と述べています。
「HIVの治療が中断されるということは、単にそれまで治療を受けていた患者たちがエイズ発症のリスクにさらされるだけではない。薬の中断により、薬剤耐性ウイルスが生じるリスクが上がるのだ。そして、薬剤耐性ウイルスがまん延するようなことになれば、既存の薬では治療できないHIV陽性者が世界中で増えることになる」
 
 このまま米政権が対外援助プログラムの凍結を続け、HIV関連の資金援助が打ち切られたりすると、アフリカ等でたくさんのHIV陽性者の方たちが治療を受けられずに大勢亡くなるだけでなく、薬剤耐性ウイルスが出現し、既存の薬では治療できないHIVを持つ方たちが世界中で(もちろん米国でも日本でも)増えてしまう…それが現実にならないよう、米政権がその危険性を理解し、冷静に対処していくことを望みます。
 



参考記事:
米資金援助停止ならエイズ関連死者630万人も=国連機関(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/us/NDD4JFRQLBNSFDVCB26FPTZ4TI-2025-02-10/
トランプ米政権の対外援助打ち切りで「50カ国の治療・予防に影響」 WHO事務局長(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/articles/crlk6l0nwldo
USAID“閉鎖”で、何百万ものアフリカの命が危険にさらされる(WIRED)
https://wired.jp/article/the-usaid-shutdown-puts-millions-of-african-lives-at-risk/
米国の「大統領エイズ救済緊急計画」の資金援助凍結をめぐり世界が混乱──数百万人ものHIV/エイズ患者の命に影響(国境なき医師団)
https://nordot.app/1264870884151182015?c=768367547562557440
WHO“感染症対策に深刻な影響” アメリカの海外援助停止で(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250213/k10014720811000.html
トランプ氏援助凍結、エイズで数百万人死亡の恐れ 国連機関(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=20250217047050a
世界中の人々の健康を脅かすトランプ政権 HIV感染者増加の恐れも(毎日新聞)
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20250219/med/00m/100/010000c
医療は政治に敗北し、エイズが再び増加する(日経メディカル)
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/shintaniguchi/202502/587693.html

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