g-lad xx

NEWS

無罪が確定した浅沼さんが会見、「やっと声が出せるようになった」

2025年02月05日

 暴行罪で起訴されていたものの1月16日に無罪判決が出て、31日に無罪が確定したTransgenderJapan(以下TGJP)元共同代表の浅沼智也さんが2月4日、都内で記者会見を開き、突然加害者扱いされたことや警察の取調べの恐怖、支援してくれた方たちへの感謝を涙ながらに語りました。

 浅沼さんはこの間の辛い経験を涙ににじませながら「やっと声が出せるようになった」と語り始めました。旧知の仲で団体の活動も支援してくれていたAさんが突然、2023年2月に都内のホテルで同室になった際に性加害があったと10月になって言い始め(その直前にTGJPの畑野代表とSNS上で口論していました)、浅沼さんは一貫して否認を続けていたのに、刑事事件にまで発展し、昨年3月に青森県警に逮捕され、威圧的で恐怖を覚えるような態度で取調べがなされたり、自白を強要されたり、トランスジェンダーであるがゆえのハラスメントもあり、「心折れる日々」だったものの、ともに闘ってくれた弁護士さんや、信じて支えてくれた家族や友人、職場の方などのおかげで「僕はやってない」と言い続けることができ、否認しているせいで4ヵ月も勾留され、釈放されてからも判決が出るまで携帯所持禁止、実家から2日以上出てはいけない、特定の人物に会ってはいけないなどの制限を受け、本当に時間がかかったものの、ようやく冤罪を晴らすことができた、昨日から職場に復帰することができました、支援してくれた人に感謝しています、という言葉でした。(浅沼さんがどれだけ辛い日々を過ごしてきたか、「性暴力加害者」という汚名の返上に辿り着くまでの本当に長い道のりについては「無罪判決を受けてのご報告」に詳しく書かれているので、ぜひ読んでみてください)
 
 職場の同僚で浅沼さんを支援してくれていた須藤さんは、「浅沼くんは評判のいい看護師ですので、戻ってきてほしいと、スタッフともども支援していこうねと、復帰できるまで、浅沼くんがいないぶん、頑張ろうねと話していました。帰ってきてくれてありがたいです」と語りました。
 
 西脇弁護士は、「裁判自体、性被害に関する事案で、実際にあったら許されないわけですが、密室の中での二人のことで、冤罪と隣り合わせです。慎重に扱わなければいけません。今回は、訴えたAさんが、性加害があったとする事件の後も同じ部屋に朝まで二人で一緒にいたことや、10月に訴え始めた直前の9月にTGJとトラブルがあったという、不自然な事件であり、捜査機関もそこに気づくべきだったのではないかと思いました。無罪の決め手となったのは、供述が崩れるような証拠が出てきたからです。薄氷の上を歩くような裁判でした。実刑になるわけじゃないんだから、認めちゃえよ、早く出られて楽になるぞと言われたりするんですが、そこで浅沼さんが『間違ってない』と貫き通した結果、今日があります」と語りました。
 
 TGJPの事務局長を務める村田さんは、今回の事件によって2023年11月に開催予定だったトランスマーチが延期に追い込まれた、もちろんTGJPは性暴力の根絶を目指す団体であるが、被害者性を悪用することは、そのような声を上げていく人の行ないをも消費し、踏みつけるものであって、許されないことである、苛烈なバックラッシュにさらされている今日のトランスジェンダーをめぐる状況に鑑みても、このようなやり方で日本のトランスジェンダーの運動を分断させようとしたことは、誠に遺憾である、と語りました。

 最後に、TGJPの代表を務める畑野とまと氏が語りました。もともとAさんとは2000年代初めから同じような活動をしていて、同じ団体にも所属していた仲だが、今回の事件の発端は「私が書いたFacebookの他愛もない投稿」である、Aさんがこの投稿に対してコメントを書いたが、最初は何を書いてるかわからなくて、ふつうに返していたが、どんどん逆上され、内容を理解できなかったので、いいねだけ押して放置するようになった、すると今度はTGJPのメアドに「とまとが対応してくれない、いつまで代表にしてるんだ、やめさせろ」と連日メールが来るようになり、直接対応できないので村田らに対応を頼んだが、さらにAさんの怒りを買ってしまった、そんななか、10月7日、とあるLINEグループに「TGJからの性被害を告発します」とAさんが書いて、とある団体が「TGJPが性加害をした」とSNSに書いて炎上、トランスヘイターの人たちも飛びつき…何もわかってない人もそれに乗っかって責めはじめて、本当に苦しかった、私も浅沼も何度か自殺を試みた…というお話でした。
 
 この「Facebookの投稿」の内容やAさんの「尋常ならざる様⼦」、LINEグループでの“告発”、その後のTGJPとAさんとのやりとりについては2023年12月のTGJPの「A⽒および⼀部団体との問題に関する事実経過の報告」に詳しく書かれています。10⽉14⽇には畑野代表がAさんに会いに行き、11⽉19⽇のトランスマーチの開催は実現に向け努⼒すること、今後はTGJPの性暴⼒の件はこれ以上広めず、コミュニティへの影響を最⼩限に留めること、「性暴⼒」の問題の責任の取り⽅や今後の対策など具体的な取組みについては今回の問題を知るトランスコミュニティの⼈々らが納得のいく筋道を模索することという3点で合意が交わされました(和解しました)。しかし、事態は混迷の一途を辿り、トランスマーチは延期を余儀なくされ、浅沼さんは逮捕されてしまい…その後のことは、報道のとおりです。
 今はもう見れないのですが、“告発”を受けた後、浅沼さんがSNSに投稿した文章によると、10⽉14⽇、浅沼さんはAさんと電話で話し、AさんはTGJPとの確執により傷ついたが、Aさんの心情への配慮がなく、TGJP関係者との話し合いのきっかけを作るために、浅沼さんが性暴力を行なったという“告発”をした(仲直りしたいために利用した)と話し、謝罪していたそうです。
 
 このように、浅沼さんが性暴力を行なったという“告発”はTGJPの畑野氏とAさんとの個人的な確執に基づく、いわば虚偽の“告発”で、TGJPの共同代表であった浅沼さんはそこに巻き込まれ、利用された被害者だったのです。
 かつての東京のパレードなどもそうでしたが、大きな運動をやっていると、考え方の相違などから関係がこじれてしまったり、壇上で紛糾したり、団体が分裂したり、イベントが中止になったり、様々な出来事があります。人間、誰しも完璧ではありませんし、失敗もしますし、いろんな考え方を持つ方たちがいるなかで確執も生まれるわけですが、それでも、LGBTQが生きやすい社会の実現や権利回復に向けて、という大きな目標のために、よく話し合って関係を調整したり、納得できるところは妥協したりしながらみなさんなんとか辛抱強くやってこられたと思います。しかし、今回のように性犯罪のでっちあげによって“問題解決”を図ろうとする行為は、本当に信じがたい…村田さんもおっしゃっているように、勇気を出して声を上げてきた性犯罪被害者をも踏みにじるようなことですし、たいへん深刻な問題だと言えるでしょう。
 
 ともあれ、この稀に見る冤罪事件によって1年半にわたって苦しい思いを強いられ、晴れて無罪が証明された浅沼さんには、最大限のあたたかな言葉で苦労をねぎらいたい気持ちです。浅沼さんを支え続け、温かく職場に迎えてくれた須藤さんや、弁護士さんにもありがとうございますと申し上げたいです。
 
 事件後、東京トランスマーチは参加者も激減してしまっていましたが、今年は以前のような盛り上がりになるといいなと思いますし、世界的にトランスジェンダーへのバッシングが強まっているなか、よりいっそうコミュニティの連帯を強め、運動を大きくしていけたらよいのではないでしょうか。

 
参考記事:
浅沼さんの無罪確定、控訴せず 知人女性抱きつきで青森地検(共同通信)
https://nordot.app/1257985824008012037?c=302675738515047521

「性暴力加害者のレッテルを貼られてきた」 トランスジェンダー団体・元共同代表の「無罪」が確定(弁護士JP)
https://www.ben54.jp/news/1930
 
「無罪判決を受けてのご報告」(浅沼さんのnote)
https://note.com/tomoya_asanuma/n/n4052b664f727

「A⽒および⼀部団体との問題に関する事実経過の報告」(TGJP)
https://tgjp.jp/statement1228/
浅沼智也に対する青森地裁判決を受けて(TGJP)
https://tgjp.jp/report20250116/

INDEX

SCHEDULE