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【追悼】『プリシラ』でバーナデットを演じたテレンス・スタンプ

2025年08月19日

 永遠の名作『プリシラ』でバーナデットを演じた英国の俳優、テレンス・スタンプが8月17日(現地時間)、87歳で亡くなりました。ご家族が米『ニューヨーク・タイムズ』紙に明らかにしました。


 テレンス・スタンプは1938年7月22日、ロンドン東部に5人兄弟の長男として生まれました。演技に目覚めたきっかけは、映画館で『ボー・ジェスト』(1939年)を観たことだったそうです。彼は「ゲイリー・クーパーに覚えた共感は人生を一変させるほどであり、暗い劇場の中で秘かな夢が芽生えた」と回想録に記しています。ウェバー・ダグラス演劇学院の奨学金を獲得し、のちにマイケル・ケインとロンドンで同じ家に住みながらキャリアを歩み始たテレンスは1962年に『奴隷戦艦』で映画デビューを果たし、ゴールデングローブ賞最優秀新人賞を獲得し、アカデミー助演男優賞にもノミネートされました。
 若き日のテレンスは青い瞳と端麗な容貌で「スクリーンでもっとも美しい男性のひとり」と評されていましたが、そんなテレンスが(『ベニスに死す』でビョルン・アンドレセンが演じたタジオほど有名ではないものの)クィア映画史に残る「魔性の魅力を持つ美青年」を演じたのが、ピエル・パオロ・パゾリーニの伝説の名作『テオレマ』です。ある日、突然、ミラノのブルジョワの家に謎の美青年がやってきて、家族全員をトリコにし、全員おかしくなってしまい、青年が去るや、家族は崩壊…という、寓話的な物語です。青年は父や息子とも寝ます。それほど直接的な描写ではありませんが、男性どうしの性愛を描いた作品でもあったのです。
 テレンス・スタンプが世界に鮮烈なインパクトを与え、LGBTQコミュニティ(やストレート女性たち)にとって忘れられない存在になったのが1994年の映画『プリシラ』のバーナデット役です(英国アカデミー賞主演男優賞やゴールデン・グローブ賞にもノミネートされました)。シドニーのクラブでドラァグショウをしている老いたトランス女性・バーナデットがドラァグ仲間のミッチ、フェリシアとともにオーストラリア中部の砂漠の真ん中にあるリゾート地でショウを行なうため、プリシラ号と名付けた大型バスでシドニーを出発し、3000キロの旅に出るというロードムービー。ミッチが離れていた妻子と再会したり、フェリシアがお転婆してホモフォビックな男たちに殴られたりしていたなか、いちばん年長で大人びたバーナデットはいつも穏やかでエレガントな佇まいを見せ、フェリシアに対しても「私たちには都会しかないのよ。都会の壁がここにいる連中から守ってくれるんだわ」と慰めたりしていて、この作品のコアにあるもの、クィアとして胸を張り、誇り高く生きていこうとするスピリットを体現するようなドラァグクイーンでした。『The Hollywood Reporter Japan』によると、テレンスはこの役のオファーを受けたとき決して乗り気ではなく、女性の友人の励ましで受けることを決意したといいます。「現地に着き、恐れを乗り越えてみると、それはキャリアの中でも最高の経験のひとつになった。おそらく人生で最も楽しい仕事だったかもしれない」

以下、テレンス・スタンプが活躍する『プリシラ』の名場面の動画をご紹介します。
オープニングで「I've never been to me」をリップシンクするバーナデット。『プリシラ』の伝説がここから始まります


世界を魅了し、見事アカデミー衣装賞を獲った素晴らしい衣装の数々。センターがテレンス・スタンプです。いい味出してますよね  

 2024年には映画『プリシラ』の続編が制作されると報じられていました。テレンス・スタンプも続編に乗り気で、「ぜひ実現させたい。今年中(2024年)に撮影開始ができたらいいな。できるだけ早く」と語っていたそうです。しかし、テレンスが亡くなってしまい、『プリシラ』の続編は幻となってしまいました…。 『プリシラ』でフェリシアを演じたガイ・ピアースは、「さようなら、親愛なるテル。ハイヒールを履いていても、脱いでいても。あなたは本当にインスピレーションを与えてくれる存在でした。私たちにはいつもキングスキャニオン、キングスロード、それにあの最高なABBAが寄り添っている。“ラルフ”の旅路が素晴らしいものになりますように」とXに追悼コメントを寄せました。

  90年代、まだそれほどドラァグクイーンが世界的に認知されていたわけではない(少なくとも日本ではまだまだだった)時代に『プリシラ』というドラァグクイーン映画が作られ、大成功を収め、シドニーのゲイシーンに多大な貢献を果たし(プリシラ号の出発地点となったインペリアル・ホテルは、『プリシラ』ショウを見せるハコとして大人気に)、ミュージカル化されて世界各地で上演されるようになり(日本でも2016年にオナンさん出演で上演されました)、長きにわたって愛される名作となったのは、脚本や演出や衣装の素晴らしさのおかげでもありますが、やはりテレンス・スタンプという名優の存在が大きかったと思います(米国でも『3人のエンジェル』という似たような映画が作られましたが、あまりパッとしませんでした)。普段の品のよいおばあさんのような佇まいとショウのときのド派手なパフォーマンスとのギャップも素敵で、本当に多くの人たちに愛されてきたと思います。
『プリシラ』に多大な影響を受けた一人の元ドラァグクイーンとして、心からの感謝を。ありがとうございました。R.I.P.

(後藤純一)  


参考記事:
『スーパーマン』ゾッド将軍から『プリシラ』まで――名優テレンス・スタンプ、87歳で死去(The Hollywood Reporter Japan)
https://hollywoodreporter.jp/news/130688/
英国の名優テレンス・スタンプさん死去(映画.com)
https://eiga.com/news/20250818/8/
『スーパーマン』ゾッド将軍役、『プリシラ』主演俳優のテレンス・スタンプ(87)が死去(cinemacafe)
https://www.cinemacafe.net/article/2025/08/18/102740.html
『スーパーマン』“ゾッド将軍”テレンス・スタンプさん死去、87歳(クランクイン)
https://www.crank-in.net/news/172095/1

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