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霊長類における同性間の性行動の意味が明らかに――「“自然の摂理”に反する」論が覆されました

2026年01月16日

 動物界における同性間の性行動は全く珍しくなく、約1500種で観察されているとこちらのニュースでもお伝えしていましたが、このたび、人間に近い霊長類でも同性間の性行動が一般的であり、この特性が遺伝する場合もあること、そして、サバイバルが難しい過酷な環境でこそ同性間の性行動が見られやすいことなども明らかになりました。従来の「同性愛は“自然の摂理”に反する」との見解が覆され、むしろ同性間の性行動が環境変化に適応し子孫を残すうえで有利な行動であり、厳しい世界を生き抜くための社会的な技術として進化したと見られています。
 
 
 ボノボという類人猿ではメスどうしで性行動を通じて仲直りする「ホカホカ」と呼ばれる習性がよく知られていて、性行動を通じて平和を保つサルの代表格のように紹介されることもありました。とはいえ、こうした動物の世界で見られる同性間性行動が何のために行なわれるのかは長らく謎で、自然淘汰(生存競争)に基づく進化論ではうまく説明できないため、「ダーウィンのパラドックス」と呼ばれてきました。 
 近年の研究で、この“寄り道”にも生物なりのメリットがある可能性が浮上してきました。
 例えばオスどうしで交尾を行なうオスザルは同盟を組んで他のオスを押さえ込み、最終的により多くのメスと交尾できる可能性があるという観察結果が報告されています。
 オスのアカゲザルでは同性間の性行動がどれくらい家系に乗っているかも調べられ、その遺伝の割合はおよそ6%強と推定されています。つまり、少しだけ生まれつきの要素もありつつ、多くはそのときの環境や社会の状況で変わりうる行動だと見られます。
 別の研究では、群れの緊張を和らげたり絆を強めたりする効果があるのではないか、と指摘されることもありました。
 しかし霊長類全体を通じて、同性間の性行動がどれだけ広がり、どんな条件で起きやすいのかということを体系的に調べた例はほとんどありませんでした。

 今回、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)が霊長類491種を対象に大規模な調査を行ない、結果、チンパンジーやマカク、ゴリラを含む59種(全体の約12%)ものサルや類人猿に同性間の性行動が確認されたと1月13日付の国際学術誌『ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション』に発表しました。類人猿などだけでなく、キツネザルのような原始的なサルまで含まれていて、その分布は「進化の木をほぼ一周する勢い」で散らばっているそうです。
 ICL生物学科のヴィンセント・サヴォレイネン教授は「非ヒト霊長類491種を研究した結果を分析したところ、59種で同性間の性的行動の証拠を見いだし、一部は遺伝することが判明した」「多くの人が長年、同性間の性的行動を偶発的または稀な現象、あるいは動物園の動物にだけ見られるものとみなしてきた。今回の研究は、そうした行動が霊長類の正常な社会生活の一部であることを明らかにした」と述べました。
 この調査では性行動の頻度も分析対象になっており、1時間あたり0.003回というごくまれな種から、約2.8回程度という「しょっちゅう起きている」種まで幅があることもわかりました。さらに、大きく複雑な群れを作る種で同性間の性行為が見られやすいこと、乾燥地帯に住み、エサが乏しく天敵(捕食者)が多い「地獄みたいな」過酷な環境でこそ、こうした同性間の性行動が見られやすいこともわかりました。
 同研究チームは2023年、プエルトリコのカヨ・サンティアゴ島に生息するアカゲザルを3年間追跡観察した結果、オスの72%が同性間の性的行動を行なった(異性間の性交渉よりむしろ頻度が高かった)と発表していました。今回の研究結果では、同性間の性交渉を行うオスは異性との性交渉にも積極的であり、結果としてより多くの子孫を広める傾向が確認されました。研究チームは、同性どうしの性交渉が“ミス”や“異常”などではなく、生存と繁殖に有利な適応戦略である可能性があると推定しています。オスどうしの性的接触は絆を強化する、すると序列争いが生じた際に互いを助ける強力な同盟を形成できる、同性間の結束が強い個体は社会的地位が高くなる可能性が大きく、これは最終的にメスと交尾する機会を高める、という仮説です。
 研究チームは、霊長類の“同性愛”が環境の影響を大きく受けると分析しています。例えばバーバリーマカクは食料不足や干ばつが続く環境で同性間の性的行動が増加し、ベルベットモンキーは捕食者に食べられるリスクが大きい時にオス間の性的行動行動がより頻繁になったといい、ストレスの多い環境で生存が困難なときほど同性間の性的行動が増える傾向が確認されています。寒冷な気候に適応したキンシコウの場合、同性間の性的行動が結束を強める毛づくろいとともに発生する傾向があるといいます。
 サヴォレイネン教授は「同性間の性行動は仲間どうしの絆を深め、緊張と攻撃性を減らし、その種が直面する課題を乗り切るのを助ける『仲良し戦略』のようだ」と述べています。「野生の動物社会の行動を理解するには、同性間の性行動も他の子育てや食事、争い(捕食者から身を守ること)と同じくらい重要なものとして考慮しなければならない」
 
 霊長類において性行動が繁殖のためだけに行なわれているのではなく、生殖に直接関係しない性行動も進化の中で無視できない役割を果たしてきたということを、今回の研究は示唆しています。性の多様性は進化的におかしな“例外”などではなく、むしろ厳しい世界を生き抜くための社会的な技術の一部かもしれないという視点。生物進化上の「同性どうしの性」の意味を問い直す成果です。
 研究チームは、同性間の性的行動は環境的要因と遺伝的要因が相互に絡み合いながら進化したと、各個体の同性愛特性は環境的要因によって形成され、これらが集まって社会構造が複雑になるにつれ、同性愛特性が後代まで継承されると説明しています。同じ文脈で、古代人類や現代人の同性愛も説明できるとしています。
 英ダラム大学心理学科のザンナ・クレイ教授は「今回の研究は、同性間の性行動が稀少または異常ではなく、人間を含む霊長類社会で一般的かつ重要な部分であることを示す」「今回の分析を動物界の他の構成員へ拡張し、類似の仮説が成り立つかどうかを検証することは非常に興味深い」と評価しました。
 ただし、この研究成果をそのまま人間に当てはめることはできない、との見方もあります。ロンドン自然史博物館のジョシュ・デイヴィスは「動物行動を研究する他の研究と同様、自然界で同性愛が広く行き渡っているという結果を人間の行動へ結びつけるのは極めて難しい」「人間は複雑であり、他の動物とは切り離された多様な要因の産物であるため、このような比較と推論には議論の余地がある」と述べています。
 

 ともあれ、実に何世紀にもわたって同性愛は「“自然の摂理”に反する」がゆえに“倒錯”や“精神異常”と見なされ、同性に惹かれる人たちは異端視され(聖職者にさえ呪いの言葉を浴びせられ)、“治療”と称してコンバージョンセラピーを受けさせられ(なかには自殺する人も…)、学校や職場や地域社会で(時には国会議員からも)露骨に侮辱されたり、いじめや差別や暴力を受けたり排除されたりしてきたわけですが、今、ようやく、そうした受難の根源とも言うべき「“自然の摂理”に反する」論が生物学において明確に否定されたことの意義は、決して小さくないものがあると言えます。
 今後、「道徳的に認められない」「種の保存に背く」「足立区が滅ぶ」などといった「生殖に貢献しない性行動は“自然の摂理”に反するから同性愛は異常」的な主張でLGBを差別・攻撃したり権利を奪おうとする人たち(特に議員など)が現れた場合、そんな理屈は通用しませんよ、生物学(進化論)の世界でも否定されてますよ、と言いやすくなったのです。

  
 

参考記事:
霊長類で同性愛が適応戦略となり序列と交尾機会を拡大(ChosunBiz)
https://biz.chosun.com/jp/jp-science/2026/01/13/XDFHM3ALAZAPBAMOBUCHVRJGBM/

過酷な環境ほど、サルたちの同性間の性行動が多いことが分かった(ナゾロジー)
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/190419

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