PEOPLE
東京都新宿東口検査・相談室の上村悠先生にインタビュー
東京都新宿東口検査・相談室で来所者の相談に乗ったり結果の告知を行なったりしている上村悠先生にお話を聞きました。以前SH外来にも携わり、早くからゲイ・バイセクシュアル男性コミュニティでのPrEPの普及に努めてこられた方でもあります

東京都在住・在勤の方たちにとってのHIV検査の中心的な施設「東京都新宿東口検査・相談室」。すでに多くの方が利用してきたことと思いますが、こちらで来所者の相談に乗ったり結果の告知を行なったりしている上村悠先生に今回、お話を聞くことができました。上村先生は以前ゲイ・バイセクシュアル男性向けのSH外来にも携わり、PrEPオンライン勉強会の講師も務めるなど、早くからPrEPの普及に努めてこられた方でもあります。短い時間ながら、とても有意義で充実したインタビューになりました。
(聞き手:後藤純一)
――上村先生はSH外来にも携わり、ゲイ・バイセクシュアル男性向けのPrEPオンライン勉強会の講師も務めるなど、早くからコミュニティでのPrEPの普及に尽力されてきた方だと思います。2024年にようやくPrEPが公的に承認され、大手を振ってPrEPを利用できるようになったわけですが、ツルバダの薬価が高過ぎて利用できない方も多い、といった課題があると思います。いまPrEP利用に関して、これからやってみようかなと思っているゲイ・バイセクシュアル男性にアドバイスできることがありますでしょうか?
私は現在はSH外来には関わっていないのですが、普段から性感染症予防に携わっております。正直、PrEP、日本ではどうかな?とも思っていたのですが、結果を申し上げると「めちゃめちゃいい」です。HIV感染のリスクがあると感じている方はぜひ、前向きに利用を検討していただきたいです。
――ここ数年の新規HIV感染者報告数を見ると、同性間性的接触が明らかに減っていて、岡慎一先生などもPrEPの効果ではないかとおっしゃっていたと思いますが、いかがでしょう?
PrEPが新規感染の減少に及ぼした効果についての正確な、科学的な研究報告は出ていないんですけれども、やはり一因であるとは、私も思います。
――SH外来が始まったのと同じ頃、U=U(検出限界値未満ならうつらない)ということがコミュニティ内で周知・啓発されるようになりました。以前はHIV/エイズに対する恐怖心や嫌悪がものすごかったのですが、U=Uが認知されることによって、HIV陽性者が恋愛やSEXにおいて差別されることが減ったり、検査を受ける心理的ハードルが下がったりということにつながったと感じています。一方で、こうした検査所でHIV検査を受ける方の人数はあまり増えていないと聞いていますが(昨年のエイズ動向委員会の委員長コメントで「保健所等での検査件数の伸びが鈍化している」と語られています)、新宿東口検査・相談室でのゲイ・バイセクシュアル男性の受検数も増えていない感じでしょうか?
ちょっと難しい話なんですけれども。コロナ禍を境に明らかに検査数が減ったんですが、また盛り返してきていて。東京都に関して言えば、コロナ禍以前と同じくらいにまで回復してきています。一方で、受検数が減ったのと同じくらい日本全体のHIV感染報告が減ったかというと、そうでもない。やはり、リスクがある方は、コロナ禍の間もちゃんと検査を受けていた気がします。確かに検査数はもっともっと増えたっていいのかもしれない。枠自体はある。枠の問題ではなくて、検査をしようということに実際つながっていない。もっとモチベーションを上げるような啓発が必要だと思っております。
――意識を高めるような取組みをもっと。
そうですね。最近、診療しててよく思うのは、人によって全然知識が違うんですよ。HIVや性感染症のことをよくわかっている方もいらっしゃるし、全く知らない方もいらっしゃる。その差がすごく広がってきているように感じます。そういう意味では、全体への啓発活動っていうのがますます重要になっていると思います。先ほどU=Uのお話をいただきましたけれども、U=Uもとても強烈な、いいメッセージ。
――ある意味、革命的な。
HIV/エイズへの差別・偏見、それからスティグマって言いますけれども、これらを解消するためにはとても大事なキーワードです。しかし、残念ながら、医療者でも知らない人がほとんどかもしれないと思っています。もっとU=Uという言葉が一般に浸透したらいいなと思っています。
――世界エイズデーのテーマにも2年連続でU=Uが採用されてますけれども、もっともっと認知されてほしいですね。
日本でも世界エイズデーや強化月間、レインボーパレードなんかでもU=Uが掲げられる機会がありますけれども、例えばYahoo!みたいなところだと全然その話題が出てこないですよね。やはりもっと広く知られていかなければいけないのかなと思います。歴史的には、HIVの予防をするということがどうしてもセクシュアリティにつながってきてしまって、特定のセクシュアリティの方への差別につながりやすいということがあったと思います。果たしてU=Uという言葉だけでそういう方々を守れるのかどうか。近年、性の多様性が認知されてきていると思いますので、今こそ差別を払拭していける時期なのではないかとも思います。これが10年前、20年前だと違っていた気がします。先人たちのおかげで、もうゲイってことで差別される時代ではなくなっていると思いますので、もっと発信していきたいと思います。
――確かにそうですね。素晴らしい。ありがとうございます。話は変わりますが、新宿東口検査・相談室では、HIVだけでなく梅毒も、6月と12月には淋病・クラミジアなどもセットで検査できます。今も梅毒は流行が続いていると思いますが、梅毒にかかっているとHIVにもかかりやすくなりますし、梅毒はコンドームだけでは防げない病気ですし、何度でもかかる可能性もある、という意味では、みんなで定期的に検査を受けることが大事ですよね?
おっしゃる通りだと思います。梅毒や淋病・クラミジアは依然、流行が続いているのですが、女性の間でも流行していますし、セクシュアリティに関係なくみんな検査を受けたほうがいいです。
――今はそんなに気にしなくてもいいのかもしれませんが、エムポックスの流行の懸念ということもあると思います。2023年末には免疫不全状態の埼玉県の30代の方がエムポックスで亡くなりました。HIVに感染していることに気づかずにエイズを発症してしまい、さらにエムポックスにも感染してしまうと、命に危険が及ぶ可能性もある、という意味でも、やはり定期的に検査を受けることが大事ですよね?
はい、そう思います。実際、昨年末からちらほらエムポックスの患者さんを診療することがありまして、また増えてきているなという印象です。そのペースも上がっていて、注意が必要です。免疫が健常ですとそんなに問題ではないのですが、免疫不全の方は命にかかわるリスクがありますから、おっしゃる通り、まずHIVがあるかないか、調べたほうがいい。検査を受ける一つのモチベーションになると思います。
――U=Uの認知によってHIV陽性者への偏見・差別が減っているかと思いきや、現実は、性に関するクリニックで陽性者が門前払いになるケースもいまだにあると友人から聞いています。先ほど医療機関であってもまだ知られていない現状があると教えていただきましたけれども、本来はU=Uという科学的知見に基づいて医療者が率先してHIV陽性者への偏見・差別の払拭を推進すべき立場にいらっしゃると思うのですが、どう思われますか? 行政とかの問題なのでしょうか。
例えば研修医の方にU=Uのお話をすると、みんな驚く。それくらい知られていないです。医療者への教育も必要ですし、それだけじゃない気がしていて。もっと若者たち一般への性教育としてU=Uが知られてもいいのかな、と思います。
――学校でも教えようよ、と。
一方で、私はHIVというものを特別視する必要はないと思っていて。感染された方は生涯、治療が必要になるということはあるんですけれども、例えば膠原病とか糖尿病などの慢性疾患のほうが手強かったりしますよね。HIVは薬を飲み続けていれば、天寿を全うする方もいらっしゃるし、子どもを授かることもできます。差別されるようなものではない。差別・偏見を持っているのはたぶん上の世代の方に多くて。40代以上の方だと、深田恭子さんのドラマのイメージがあるんじゃないでしょうか。最後に亡くなったりして。逆に若い世代の方は何も知らないがゆえに偏見も持っていなかったりする。10代の方は、「HIV、そんなに心配なの?」という人もいたりする。そういうギャップがあると思います。ただ、若い方は「性とは何か」みたいなことが自己学習みたいになっていて、あまり正しい知識が身についていない方も。陽性告知を受けて泣いちゃう人もいるし、友達もいるし大丈夫です、というような方もいて。世代によるギャップもあるし、人によって受け止め方が様々です。私自身もYouTubeで動画を作って啓発に努めていますけれども、もっと世間で広く知らしめていくことが必要だと思います。
――よくわかりました。最後に、東京都のゲイ・バイセクシュアル男性に向けて、特に20代や30代の若い方に向けて、何かメッセージをお願いします。
もしもHIV検査を受けたことがなければ、一度はぜひ受けていただきたいです。また、PrEPはすごくいい予防法なので、ぜひ検討していただきたいです。
――PrEPを始める場合、HIV検査は必須なので、そういう方も新宿東口検査・相談室を利用していただけますね。とてもいいお話を聞けました。ありがとうございました。
上村 悠
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター 救済医療室長







