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ジョニー・ウィアーが来日!(映画『氷上の王、ジョン・カリー』公開記念トークイベント) 

2019年6月11日、ジョニー・ウィアーが来日し、新宿で開催された映画『氷上の王、ジョン・カリー』公開記念トークイベントに出席しました。

ジョニー・ウィアーが来日!(映画『氷上の王、ジョン・カリー』公開記念トークイベント) 

2019年6月11日、ジョニー・ウィアーが来日し、新宿ピカデリーで開催された映画『氷上の王、ジョン・カリー』公開記念トークイベントに出席しました。ジョニーはスポーツ界におけるホモフォビアの問題にも触れ、「みんなが強い人間ばかりではない。彼らのためにも私は声をあげ、仲間をサポートしたい」と語りました。トークの内容を抜粋してお届けします。(後藤純一)
 

 ジョニー・ウィアーは、2004年〜2006年、男子シングルで全米選手権3連覇を果たし、2006年トリノ五輪および2010年バンクーバー五輪に出場し、プロに転向したフィギュアスケート選手です。2011年1月には自伝『Welcome to My World』で正式にゲイであることをカムアウトし、歌手としてCDをリリースしたり、冠番組『Be Good Johnny Weir』に出演するなど、タレントとしても活躍するようになりました。2011年末には弁護士のビクター・ボロノフさんとニューヨークで結婚しています。2013年に競技生活は引退したものの、現在も「ファンタジー・オン・アイス」ツアーをはじめとして様々なアイスショーに参加していますが、2022年には現役を退く考えであることを表明しています。レディ・ガガの「ポーカーフェイス」に乗って素晴らしくゲイテイストなパフォーマンスをしている動画や、キスアンドクライで薔薇の冠をかぶっている姿が印象に残っているという方も多いのではないでしょうか。
 ジョニー・ウィアーは、現在公開中の映画『氷上の王、ジョン・カリー』にも、ジョン・カリーにオマージュを捧げるゲイ・スケーターの代表として出演しています。ジョニーこそはジョン・カリーのクィアでアーティスティックなフィギュアスケートを受け継いだ人であると、誰もが感じているからでしょう。そんなジョニーが映画公開記念トークイベントに招聘され、多忙な仕事の合間を縫って来日してくれました。
 
 イッセイ・ミヤケのカラフルなプリーツにドリス・ヴァン・ノッテンの白いブーツを合わせるというスタイルで登場したジョニーは、「本日はお招きいただき、ありがとうございます」と流暢な日本語で挨拶し、600席を埋め尽くした満場のファンたちの喝采を浴びていました。
 以下、トークの模様を抜粋でお送りします(MCは蒲田健さんでした)
 
――映画、ジョニーさんはもうご覧になりました?

 もちろん。移動中にiPadなどで観ています。あいにく映画館ではまだ観れていません。日本で、こんな立派なスクリーンで観ていただけて幸せです。

――映画をご覧になって、いかがですか?

 ぼくは1984年生まれで、ジョン・カリーをリアルタイムでは知らなくて、フィギュアスケートをやるようになってから初めて知りました。アスリートとしては、金メダルも獲り、目標を達成し、素晴らしい選手でしたが、プライベートでは、トラブルがあり、ひどく苦しんで…問題が発生していました。映画を観終わったあと、泣きたいような、笑いたいような…すごく複雑な気持ちになりました。

――物心ついた頃にはジョン・カリーはもう、この世にいなかったんですね。ジョン・カリーは技術面とか芸術面では、どんなスケーターだと思いますか?

 彼は細かいところを見逃さず、ディテールに注目し…完璧主義だったと思います。女性のフィギュア選手でもあまり自分の感情を表現するのがうまくできない方もいるなかで、彼は表現することが実に巧みで。金メダリストである彼の技術を超える選手は当然、いませんでしたし。

――音楽とか、衣装とかの面でも、革新的なものがあったかと。

 この世界で、自分が生きた証を残すといことがいちばん大事だと思います。ぼくも、こんな変な格好をして喜ばせたり(笑)。この世に何かを残す、人を感動させる、笑わせること。当然、音楽や衣装も、独特な自分の感覚で表現していました。どんな厳しいトラブルに見舞われても、クリエイティブなところを残しつつ、実践してきた方。そこが非常に魅力的です。

――今おっしゃったことは、そのままジョニーにも当てはまることだと思います。

 本当にうれしい言葉。フィギュア選手は氷の上で自分を表現しますが、自分がやってることは正しいのだろうかと疑問に思うこともあります。ぼくはずっと、自分がいいと思ってることをやり続けてきていますが、それはジョン・カリーみたいな存在があったからこそ、です。

――あと、この映画では、もう一つ、大きなテーマがあります。セクシュアリティのことです。映画でもジョン・カリーの闘いについて、ジョニーがその勇気を讃えるコメントをしていましたが、ジョニー自身の闘いについて、コメントをいただければ幸いです。

 何か自分は他人と違うと、世間では受け入れてもらえないということは、続いています。ぼくがゲイであるということは、周りからすごく注目されてきたけど、自分ではそれが問題であるとは思わなくて…そういうふうに生まれてきたので。ぼくが自分自身でいられる、ゲイであることを隠さずに、今までやってこれたのは、過去に同じ闘いをしてきた方々のおかげです。ジョン・カリーもそうですし、ルディ・ガリンド※もそうです。
 2006年、五輪に初めて出場して、まだ9年しかスケートをやってなかったので、経験が浅いと思ってて、国のためにメダルを取るという気持ちで臨んだのですが、失敗してしまい…滑り終わったあとの記者会見で、そういうことを聞かれるかと思ったら、みんなが聞きたがったのは、「ジョニー、君はゲイじゃないのかい?」ということばかりで、がっかりしました。ぼくは五輪選手として「今日のパフォーマンスのことのほうが重要じゃないですか?」と主張しました。
 バンクーバー五輪にも出場し、最高のパフォーマンスができたと思います。でも、メダルは獲とれなかった。そのあと、メディアでも話題になりましたが、カナダのTVレポーターが「ジョニー・ウィアーはセックスチェック(医学的な性別の検査)を受けたほうがいいんじゃないか?」と発言して、問題になりました。残念なことでした。
 当時は、こういう状況を変えたいと思い、記者会見でもそのようにコメントしたりしていて。自分自身は強い人間だと思うけど、でもそこまで強くない人も周りにいて、サポートしたいという気持ちが生まれて、そのときから、カミングアウトを考えるようになりました。
 最近の平昌五輪では、アダム・リッポンが初めてオープンリー・ゲイとして出場して。彼は、アンチ同性愛で知られるマイク・ペンス米国副大統領との面会を拒んだりして話題になりました。人々の認識は少しずつ変化してきていると思いますが、ホモフォビアはまだスポーツ界に残っています。

※ルディ・ガリンド:1969年カリフォルニア州生まれ。1996年の全米選手権で初優勝し、世界選手権で銅メダルに輝き、同年引退。2000年にゲイであること、HIV陽性であることをカムアウトしました。クイーンの楽曲や、ビレッジ・ピープルの楽曲でパフォーマンスするなど、ゲイプライドとゲイテイストを真正面から表現してみせた、素晴らしい方です。
 
――少しずつは変わってきてる。ジョニーは穏やかで優しい。それでいて、尊厳を傷つけるものにたいしては敢然と立ち向かう人、という気がします。

 ありがとう(日本語で)

――最後に、2022年に引退することを表明した件について。

 この道は自分だけで歩んできたのではなく、ファンのみなさんが、良い時も悪い時も支えてくれたおかげです。本当に感謝しています。本当はやめたくない、けど、自分が退いて、今度は若い選手がその場に立つ。またその選手がいずれ自分よりも若い選手を支える。ぼくはそういう流れを横で見守っていこうと思います。
 

 個性的な衣装とキラキラな空気感、そして、柔和な微笑み。神々しさすら感じさせるその姿は、なんだか美輪様を彷彿させました。
 イベント終了後、会場では「素敵だった」「かわいかった」「前からジョニーが好きだったけど、今日の話を聞いてもっと好きになった」といった声があふれていました。
 
 フィギュアスケートの世界におけるゲイの選手たちの闘いや生き様の一端に触れることができて、また、世界的に有名なゲイのレジェンドの姿を運よく、間近で拝見する機会に恵まれて、本当によかったです。
 映画『氷上の王、ジョン・カリー』、本当に素晴らしい作品ですので、ぜひご覧ください。
 
氷上の王、ジョン・カリー』The Ice King
2018年/イギリス/監督:ジェイムス・エルスキン/出演:ジョン・カリー、ディック・バトン、ロビン・カズンズ、ジョニー・ウィアー、イアン・ロレッロほか/新宿ピカデリー、東劇、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国で公開中

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