PEOPLE
ニューヨーク在住のフォトグラファー、KAZ SENJUさん
8月10日から24日まで二丁目のコミュニティセンター「akta」で開催中の写真展「SHINJUKU STORY」。二丁目のお店の方たちの写真がたくさん展示されています。この写真を撮ったニューヨーク在住のフォトグラファー、KAZ SENJUさんをご紹介します。
2019年8月10日~24日(土)、二丁目のコミュニティセンター「akta」で開催される写真展「SHINJUKU STORY」。ニューヨーク在住のフォトグラファー、KAZ SENJUさんが3年間にわたって二丁目の45店舗のゲイバーやレズビアンバーのマスター&ママさん、時にはお客さんを撮影し、二丁目という街の生き生きとした顔を浮かび上がらせた写真がたくさん展示されています。お店のマスター&ママさんのポートレートがずらりと並んでいる様は壮観ですし(なかには、亡くなった「ZETA TOKYO」のANGENさんの写真もあります)、お店の中での様子もいろいろ…え?こんなことになってるの?みたいな場面もあったりして、少なからず刺激的だと思います。
なお、「SHINJUKU STORY」は、2冊の写真集になっているほか、マスターのポートレートもこちらで販売されています(aktaでも12日、23日、24日にはお買い求めいただけます)
KAZ SENJUさんは1965年岡山県生まれで、19歳の時に二丁目のゲイバーで働きはじめますが、21歳の時にはアメリカに留学し、以来ずっとアメリカに住んでいます。現在はニューヨークにお住まいです。フォトグラファーとしての経歴は、こちらをご覧ください。
今回、「akta」での写真展の初日に、バー『Penguin』のマスター・アキさんの司会でトークショーが行われ、二丁目との関わりや、なぜこのように二丁目の写真を撮って発表するようになったのか、といったことについて語られ、なかなか興味深いものがありましたので、ご紹介します。
KAZ SENJUトークショー
2019/8/10@akta
聞き手:『Penguin』のアキさん
−−KAZさんがどうしてこのような二丁目の写真を撮るようになったのか、お聞きしたいと思います。まず、二丁目との関わりについて教えてください。
初めて二丁目に来たのは1985年、19歳のとき。平日の昼間で、ほとんどお店も開いてなかったんですが、1軒だけ、開いてるお店があって。恐る恐る入ってみると、外は静かなのに中は音楽がかかってて、おしゃれなお店で。そこに短髪のスポーツマンっぽいお兄さんがいて。「初めてでしょ?」って言われて、「そうなんです」と。そこはお昼に、お酒だけじゃなくて食べ物も出していて、ちょうどお腹も空いてたので、カレーを食べることにして。そのお店の方が「どっから来たの?」とか「どういう人がタイプなの?」とかいろいろ聞いて話をしてくれて、そのうち「あなたかわいいわね、明日からお店に入らない?」って言われて。「自分はカクテルも作れないし、お店のことも何もわからない」と言ったんですが、「黙ってそこにいればいいのよ」って。それで、お世話になることにした。それが「ZIP」のミッキーさんとの出会いで、僕は「ZIP」の2号店の「クルーカット」というお店に入ってました。
−−「ZIP」は入ってないんでしたっけ?
入ったこともあります。系列店でスタッフがぐるぐる回るので。「クルーカット」で働いて、いろんな方たちと会うことができて、よかったです。ファッションデザイナーの方、大学教授、大企業の方…。自分の知らない世界の方たち。19歳の自分には驚きでした。そのあと、アメリカに留学することになって。就職して、アメリカの企業で日本関係の仕事もあって、出張で来て、それで『Penguin』に行ったり。そうこうしてるうちに「メンクラ」とかもどんどん閉まって…。
−−なくなってしまいましたね…。
新千鳥街でよく行ってた「chibi」もなくなって。どんどん知ってるお店もなくなるし、知ってる友達もいなくなって。そのうち、東京に数年間、出向することになって、パートナーのジョージと二人で東京に来たんです。それで、再び二丁目に通うようになり、行きつけの店もできたし、友達もできた。そこで、一度アメリカに行って、日本に帰って来てから、気づいたんですが、二丁目みたいな街も、こういうゲイバーっていうのも、世界中どこにもないんですよね。あのスケールのお店って、ほかにはないんです。
−−新千鳥街なんて特にそうですよね。2坪くらいのお店がごちゃごちゃ集まってる。
世界中どこにもないって実感して。お客さんとリビングルームで話してるような、家族みたいな雰囲気。二丁目の新千鳥街は、貴重だと、これは世界に知ってほしいと思って。そういう話をしてたら、『VICE』マガジンから取材してほしいと依頼があって。それで、知ってる6軒のお店の取材をして。「Penguin」とか「Bumpy!」とか。
−−小さいお店ばっかりでしたね。
そうですね。マンハッタンの3ブロック分、例えば6番街と7番街の間で42丁目から46丁目くらいの区画に200軒~300軒のバーがある、と説明すると、どうしたらそんなにたくさんのお店が入るの?と聞かれる。1階がレズビアンバーで、2階が若い子のお店で、3階がクマ系で、4階がSMバーで、みたいになってて、それぞれのお店が、席が6つくらいしかなくて、トイレ行くのにお客さん全員立ち上がらないといけないんだよ、とか。『VICE』の記事は評判がよくて。
−−なぜ二丁目のゲイバーだったんですか?
最初に飲み始めたのも働いたのも二丁目だったからですね。実はこういう話もある。僕は生まれたときからバーとのつながりがあって。親父がナイトクラブをやってて、周りにホステスさんがいる環境で育った。そのホステスさんの中に女装した人も1人いて。かつきさんという名前で。
−−九州男のかつきさんではないですね?
(笑)実は親父は、ほかのホステスは全員手を出してたんですが、かつきさんだけは無傷で。ある日、母親がリビングで泣いてた時に、かつきさんが慰めてて。唯一、お袋が味方だと思える人だったんです。それが子どもの頃の記憶にある。そこらへんが、二丁目の写真を撮りたかった理由です。
−−写真を撮るにあたって、マスターたちにインタビューもしていたと思いますが、どういう内容でした?
『VICE』マガジンの取材と並行して、自分でも記録しておきたいと思って、さっきの6軒に紹介してもらって、さらに紹介してもらって、40軒以上撮らせていただいたのですが、写真だけでなくインタビューもしたんですね。「自分がゲイだって気づいたのは、いつ頃ですか?」という質問と、「なぜゲイバーをやろうと思ったんですか?」という質問。それで、最初の体験として、何回も繰り返し出てきたのが、今の若い人は知らないと思うけど、映画館だったんですよね。「九州男」のまっちゃんとか、「OUT」のマスターとか。「Base」のToshiさんは大阪時代、『スター・ウォーズ』を観てたら隣の人に触られたそうで。ここに行けばこういうことがあるのか、と思って、何回も映画館に通って、そのうち友達ができて、輪が広がったと言ってました。「Leo Lounge」の光生さんやNaoさんも同じことを言ってました。
−−昔はそうでしたよね。この中で映画館が初めてだという方? (シーン…)いないですね。昔はハッテン場が少なくてね。トイレとか公園とか。それくらい。
実は僕も、ポルノ映画館の体験あって。座ったら、横に来て、抜かれる。半年くらい通いました。触られた時に、タバコくささとかも伝わってきて、体の毛穴で感じながら。そういう、体と体の触れ合う空間のエロティックさ。今はアプリで、最初から自分のタイプを絞り込みすぎる傾向があると思うけど、体験の質というか、思考回路が全然違ってくる気がします。二丁目で飲んでるときも、横に座った人の匂いや体温を感じたり、手を触れたり。そうやって、その人が魅力的に思えてきたりして。
−−今だと、ネットやアプリで画像を見て選ぶ感じですものね。
タイプを絞り込まない、サプライズ的な要素も、出会いには大切だと思います。
−−インタビューの話に戻ると、お店ごとに質問を変えたりもしてる?
「どんなお客さんが来るんですか?」とかですね。まだそのインタビューは世に出てないので、できれば、お店の方たちのポートレートで次の写真集を作りたいですね。今回展示してる写真は「SHINJUKU STORY」のvol.1とvol.2に収録してある写真なんですが、vol.3として、マスターたちのポートレート+インタビューを集めたものを作りたいです。
−−次のプロジェクトですね。
もう1つ構想があって。Chunky Asian Boysという。「SHINJUKU STORY」のサイン会をニューヨークでやったときに、「Youの写真を見て、Chunky(ガチムチ)なアジア人もいるんだ?って思った。俺が知ってるアジア人は、全員Twink(細くて若くて肌がスベスベ)系だ」と言われて。アジア人は全員若細で、熊系なんていないというイメージ。限られた情報しかない。実際のアジア人はそうじゃない、いろんな人たちがいる。それを見せる機会。すでに、クアラルンプール、バンコク、ホーチミン、台北、上海を回って、30人くらい撮りました。
−−楽しみです。ほかにも構想がありますか?
実はフェチが入ってる。緊縛とか。そういう写真も撮りたいと思ってるけど、オーディエンスがどんどん少なくなっていって…。「誰が見るんだ?」と言われそうなので、そうならないことを祈ります。
−−ありがとうございます。
この後、会場からの質問を聞いて、答えるというやりとりがあったのですが、ほぼほぼハッテン映画館のお話でした。24日のクロージングに行くと、確実にKAZさんに会えるので、写真に興味がある方や、ニューヨークのゲイシーンについて聞いてみたいという方なども、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか?
KAZ SENJU 写真展「SHINJUKU STORY」
@コミュニティセンター「akta」(新宿区新宿2-15-13 第2中江ビル301)
8/10(土)17:00- オープニング、写真集サイン会
8/11(日)~23(金)16:00-22:00 展示(火水は定休日)
8/24(土)17:00-19:00 クロージングレセプション
※会場での販売は8/12 16:00-19:00、8/18 15:00 – 17:00、8/23 16:00 – 19:00、8/24 17:00-19:00となります
その後、米国のLGBTマガジン『Advocate』にKAZ SENJUさんのSHINJUKU STORYの写真が掲載されてました。
また追加情報などあれば、お伝えします。
(2019.8.28)
INDEX
- 『超多様性トークショー!なれそめ』に出演した西村宏堂さん&フアンさんへのインタビュー
- 多摩地域検査・相談室の方にお話を聞きました
- 『老ナルキソス』『変わるまで、生きる』を監督した東海林毅さんに、映画に込めた思いやセクシュアリティのことなどをお聞きしました
- HIV、梅毒、コロナ、サル痘…いま、僕らが検査を受けるべき理由:東京都新宿東口検査・相談室城所室長へのインタビュー
- NYでモデルとして活躍する柳喬之さんへのインタビュー
- 虹色のトラックに込めたゲイとしての思い――世界的な書道家、Maaya Wakasugiさんへのインタビュー
- ぷれいす東京・生島さんへのインタビュー:「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」について
- 二丁目で香港ワッフルのお店を営むJeffさんへのインタビュー
- 東京都新宿東口検査・相談室の城所室長へのインタビュー
- 俳優の水越友紀さんへのインタビュー
- 数々のLGBTイベントに出演し、賞賛を集めてきた島谷ひとみさんが今、ゲイの皆さんに贈る愛のメッセージ
- 今こそ私たちの歴史を記録・保存する時−−「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」プロジェクト
- LGBT高齢者が共同生活できるシニアハウスの設置を目指す久保わたるさん
- 岩崎宏美さん出演のクラブパーティを開催するkeiZiroさんへのインタビュー
- 英国の「飛び込み王子」トム・デイリーについて、裏磐梯のゲストハウスのオーナー・GENTAさんにお話をお聞きしました
- ニューヨーク在住のフォトグラファー、KAZ SENJUさん
- ジョニー・ウィアーが来日!(映画『氷上の王、ジョン・カリー』公開記念トークイベント)
- 畠山健介さんへのインタビュー
- トークセッション「ダイアモンドは永遠に――日本におけるドラァグクイーン・パーティーの起源」
- RAINBOW FESTA!2018事務局長・桜井秀人さんへのインタビュー
SCHEDULE
- 10.05ふくしまレインボーマーチ
- 10.05BEAR-TRAIN
- 10.05第2回東京SPAMナイト
- 10.06ぐんまレインボープライドパレード
- 10.06岡山レインボーフェスタ2024