REVIEW
アート展レポート:TORAJIRO個展「Boys Just Want to Have Fun」
TORAJIROさんの個展「Boys Just Want to Have Fun」が銀座のAKIO NAGASAWA Gallery GINZAで始まりました。初日のレポートをお届けします

特集:2025年夏のクィア・アート展でもご紹介していたTORAJIROさんの個展「Boys Just Want to Have Fun」が今日からスタート!ということで、さっそく初日にお伺いしました。たぶんレセプションパーティだったと思うのですが、タキシードを着た方がワインをくださったりして、贅沢な雰囲気がありました(さすがは銀座のギャラリー)。何人か友人・知人にお会いして、絵について語ったりしながら鑑賞できて、とても楽しかったです。





今までになく広々とした空間に余裕(余白)をもって展示されていた今回の個展。そのタイトル「Boys Just Want to Have Fun」(もちろんシンディ・ローパーの「Girls Just Want to Have Fun」へのオマージュであり、ゲイテイストなユーモアです)の通り、夏らしい色使いや、スポーティな爽やかさや、がちむちな男の子たちの肉感的な魅力や、ラブリーなカップルや、裸で抱き合うセクシーな姿などがこれまで以上に屈託なく描かれていた印象です(でもみんなどこか悲しげな表情を浮かべているのは今まで通りです)
そんなゲイライフや愛の生活を描いた素敵な作品たちは、ステートメントに「「日々を楽しむこと」「だれかを愛すること」「自分に正直になること」といった、ごく当たり前で、だからこそ奪われやすい行為の尊さを再確認したい」とか「静かなレジスタンス」と書かれていたように、僕らが好きな人と一緒に暮らしたり、ゲイライフを謳歌したり、のびのび自由にやっていけているのは幸運なこと(というかこれまでにゲイが生きやすい社会の実現のために活動してくれた方たちのおかげ)であり、政治状況が変わればいとも簡単に揺らいだり失われたりするような危ういものだということをそこはかとなく訴えています。なかには英語で「誰かの権利を認めることで自分の権利が減るわけじゃない。そんなパイを分けるみたいなことじゃない」(意訳:ただ幸せな人が増えるだけ)と書かれている、同性婚反対派への反論に違いないと思わせる作品もありました。
考えてみれば、そもそも動物たちがたくさん登場するのは「ノアの方舟」的なイマージュであり、環境問題への言及だと思いますが、そういう動物たちも男の子たちもみな一様に「過剰な」愛らしさで描かれていて(ただし、悲しげに)、TORAJIROさんの作品は一貫して「静かなレジスタンス」だったんだなぁと再確認しました。
そこに今回、「ゴッホのひまわり」や「モネの睡蓮」の引用という遊び心も加えられていたりして、少しずつその作風が進化している様子や、ちょっと余裕のようなものも窺えて、愉しかったです。




TORAJIROさんがpixivに作品を上げていた頃からのファンだったというお友達が今回初めて作品を購入していたのですが、TORAJIROさんご本人を前にして感極まった表情を浮かべていたのを見て、絵を買うってこんなに幸せなことなんだ…ってちょっと感動しました(私は烏滸がましくてとてもじゃないけどアーティストなんて言えませんが、下手な写真展を開いたり短編映画を撮ったり、パフォーマンスしてお金をもらったりする側ではあったので、アート作品を買うということをしてこなかったのです)
ただギャラリーで絵を鑑賞するというだけではなく、人生模様と言いますか、幸せな瞬間に立ち会えたり、人の意外な一面が垣間見れたりもして、とても素敵な時間を過ごすことができました。きっとTORAJIROさんの作品にはそんな、人を引き寄せたりつないだりする引力のような、魔法のような魅力があるんだな、と思いました(社会のことを考え、発信する方ってみなさんそうですよね。根底に愛のようなものがあります)
行ってよかったです、本当に。
みなさんもぜひ、お出かけください。有楽町駅からも行けますし、銀座駅や東銀座駅からも近いです。
(文:後藤純一)
TORAJIRO個展「Boys Just Want to Have Fun」
会期:2025年7月3日(木)〜8月2日(土)
会場:AKIO NAGASAWA Gallery GINZA(東京都中央区銀座4-9-5 銀昭ビル6F)
開廊時間:火〜土 11:00–19:00 ※土曜は13:00–14:00にCLOSEします
休廊日:日・月・祝日
INDEX
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
- 休日課長さんがゲイ役をつとめたドラマ『FOGDOG』第4話「泣きっ面に熊」
- 長年のパートナーががんを患っていることがわかり…涙なしに観ることができない、実話に基づくゲイのラブコメ映画『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』
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