REVIEW
アキラ・ザ・ハスラー「ふつうにくらす」
アキラ・ザ・ハスラーの個展「ふつうにくらす」が六本木のオオタ・ファイン・アーツで開催されています。SEXやHIVをめぐる(生や性についての)アート作品で多くの人々の心を動かしてきたアキラ・ザ・ハスラーが、震災を経て、世に送り出したのは、もはや安全とは言えなくなったこの国で「ふつうにくらす」ことのかけがえなさ、「命を守れ」と声を上げる人たちの美しさでした。

アキラ・ザ・ハスラーの個展「ふつうにくらす」におじゃましてきました。ぜひ多くの方に観ていただきたいと願いつつ、レポートをお届けします。(後藤純一)





六本木駅から徒歩数分、六本木ヒルズを頭上に仰ぐ瀟洒なビル(ちなみに地下にはゲイ御用達のティップネスが入っています)の3Fに、個展会場となっているギャラリー「オオタ・ファイン・アーツ」があります。
ミラーボールが輝く真っ白な部屋。入り口付近の壁には、右の写真のようなテキストが大きく書かれています。そして、大小さまざまな絵、幾体ものクレイ(粘土製)の人形、そして映像が展示されています。
クレイの人形は、2010年に東京都写真美術館で開催された「ラヴズ・ボディ 生と性を巡る表現」というエイズをめぐる写真展に「Red String」というタイトルで展示されたのが最初だと思います。台所で男の人が、包丁で切ったのか、指を血で赤く染めています。それが赤い糸となって、奥さん(彼女?)の指へとつながっているのです。この作品についてアキラさんは「僕は、本当の意味での親しい間柄って、たとえどちらかがなんらかのウィルスに感染していても血の交換をもいとわないような、そんな関係をいうんじゃないかと思います」という古橋悌二さんの言葉を引用していました(詳しくはこちら)。一見、ありふれた日常の幸せな一コマを表現しているように見えながら、観客に鋭く問いかけ、せつなく胸を締めつけるような作品でした。
今回は、「Red String」の延長と言えるのでしょうが、NO NUKESと書かれたTシャツを着た男の子たちだったり、トラメガ(デモのときに使う拡声器)を持った凛とした佇まいの女性だったり、赤ちゃんを抱く男性だったり、裸で愛し合う男の子たちだったり、かわいい犬だったり…が、みんな赤い糸で誰かとつながれている、そういう作品でした。たった独りで何かに立ち向かっているように見えるけど、でも、誰もが、誰かとつながれている、そんなメッセージが伝わってくるようでした。
壁に目をやると、クレイのオブジェと呼応するかのように、体育会な男の子たちや、見つめ合う男の子たち、ワンちゃんまでもが赤い糸で結ばれた「NOT ALONE, DON'T WORRY」という絵がかけられていました。それから、日本地図を抱くようにして横たわる男の子や、雨が降る窓などが描かれた「PAIN」という作品、そしてズバリ「NO NUKES」という作品などもありました。どれも淡い水彩のタッチで描かれ、決して主張しすぎない感じです(うまく説明できないのですが、そこに描かれた人や鳥や木の葉がとても「ふつう」であるがゆえに、ちょっと泣けました)
どの作品もそうですが、脱原発というテーマでありながら、少しも押し付けがましくなく、むしろ、とても日常的で、やさしくて、セクシーで、誰もが素直に好きになれるような、笑顔で楽しめるようなものでした(まちがいなくゲイテイストだと思います。そして、アキラさん自身と同様、本当に素敵です)

会場にアキラさんがいたら、
ぜひお話してみてください。
きっとトリコになると思います。
そんなアキラさんが、震災を経て、この個展にたどり着いたのは、ごく自然なことだったと思います。
ちょっと泣けたと申し上げましたが、映像作品(アキラさんが道行く親子連れなどに白い風船を配る様子を捉えた作品です)も含めて全部を観終わって、アキラ・ザ・ハスラーの軽やかで真っ直ぐで愛にあふれた世界にひたっていると、なんだかとても幸せな気持ちになれました。と同時に、ある種の勇気ももらいました。本当に行ってよかったです。みなさんもぜひ、この週末、お出かけください。
アキラ・ザ・ハスラー「ふつうにくらす」
日時:〜10月13日(土)11:00-19:00
会場:オオタファインアーツ
入場無料
INDEX
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- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
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