REVIEW
TOMOAKI HATA『THE NIGHT IS STILL YOUNG』
畑智章さんは90年代末から約5年にわたって関西のクラブシーンでドラァグクイーンやゴーゴーボーイの写真を誰よりも情熱的に撮り続けていた方です。10年近い時を経て、あの時代の輝かしいシーンとゲイたちの姿を限りない愛情で表現した写真集『The Night Is Still Young』が発売されました。
ベアリーヌ・ド・ピンクさん
畑智章さんは、90年代末から関西のクラブシーンを中心にドラァグクイーンやゴーゴーボーイといった方たちを撮りつづけてきた方です。京都では『Diamonds are forever』や『club luv+』が、堂山でも『Diva Japan』や『switch』のような伝説的なイベントや、さまざまなゲイナイトが開催され、たくさんのパフォーマーが活躍し、HIVについてのメッセージが発信され(ここで紹介している3人のドラァグクイーンは、みなさん、HIVアクティヴィストの方たちです)、今につながるたくさんの素敵なことが生まれていました。そんな現場を誰よりも熱心に追い続けていたのが、畑智章さんでした。
畑智章さんは2004年、フランスの現代美術館COLLECTION LAMBERT主催の現代美術展『EIJANAIKA』『AKEMAHEN』に出展し、2005年にLAへ拠点を移していました。
メロウディアスさん
そして、このたび、写真集『THE NIGHT IS STILL YOUNG』が日米共同出版される運びとなりました。約10年の時を経て、あの時代のドラァグクイーンやゴーゴーボーイ(男の子たち)の生き生きとした姿が世界に発信されることになったのです。(これがナン・ゴールディンのような写真家と並び称されたり…と想像すると、ワクワクします)
写真集『THE NIGHT IS STILL YOUNG』は、全編、関西や東京で活躍するドラァグクイーンやゴーゴーボーイ(SEXYな男の子)で埋め尽くされています。みなさんがきっと知ってるあの人やこの人も、そして今はもう会うことができない彼も、この写真集の中で笑い、叫び、踊り、カッコつけたり、ヘンな顔をしたり、生き生きとしています。
日本で最も早くドラァグクイーンとして活躍していた方の1人であり、関西のドラァグクイーン・カルチャーを牽引してきた立役者であるシモーヌ深雪さんは、この写真集に「真実の向こうに隠されたひとつの真理」という序文を書いています。シモーヌさんは、日本でドラァグクイーンが急速に受け入れられ、その文化が華開いていった歴史に触れながら、「”プライド”と呼びにはあまりにも小さな世界の、然しながらやはり”純然たるプライド”と呼ばざるをえない彼らの、そんな不確かな内面を鮮やかに写し取った作品の数々は、千の宝石にも劣らないだけの艶なる輝きをこの後も永遠に放ち続けてゆくのだろう」と、畑さんの写真を称えています。
マダム・ボンジュール・ジャンジさん
そして、畑さんと同時代に堂山の「EXPLOSION」を中心に洪水のように繰り広げられたドラァグクイーンたちの響宴を経験していたキュレーターのエリック・C・シャイナーさんが、「クイーンたちの地下爆発(アンダーグラウンド・エクスプロージョン)—―そしてハスラー」というあとがき(解説)を書いています。「写真家として、畑は日本の偉大な写真家――森山大道から荒木経惟までのベクトルに含まれるすべての写真家――の中できわめて価値のある地位を見いだしている」「これらの写真は、悦びと自由が最上のものとされ、美しくあるために更なるメイクが施され、真夜中の数時間、日本のクイーンたちやキングたちが本来の姿に戻り、夜を魅惑の王国に変える場所に私たちを誘う」
どちらもぜひ読んでほしい名文です。
写真集はamazon等でも購入できますが、ぜひ、写真展に足を運んでいただいて、その素敵な空間が放つ幸福感を味わった後に買ってみてください。きっとそれは、このうえない喜びの体験になるはずです。
『THE NIGHT IS STILL YOUNG』
畑智章/赤々舎/2600円+税
※トップ画像の左側は日本版、右側はアメリカ版の表紙です
(後藤純一)
INDEX
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
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