REVIEW
アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
9月27日、六本木アートナイトで台湾のウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)の作品が展示され、二人によるパフォーマンスも行なわれました。ジェンダーの流動性や性解放をテーマにした、ゆるいドラァグショーのような趣で、たいへん親しみが持てました

六本木ヒルズ、森美術館、東京ミッドタウンなど六本木の街のあちこちで開催される無料イベント「六本木アートナイト2024」。13回目の開催となる今年は新たな試みとして「RAN Picks」「RAN Focus」という2つのプログラムが新設されます。「RAN Picks」は六本木アートナイトが注目するアーティストを複数選出して展示するプログラムで、「RAN Focus」は特定の国や地域にフォーカスし、そこで活躍するアーティストによるプログラムを披露するものですが、後者の「RAN Focus」でフィーチャーされていたなかに、台湾のウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)がいました。
ウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)は、台北の現代美術作家でビデオアートを得意とする余政達(ユ・チェンタ)と、シンガポール生まれでベルリンを拠点に活動する黄漢明(ミン・ウォン)によるパフォーマンス・デュオです。一見、お笑い系のドラァグクイーンのように見えますが(そんなに違わなかったです)、ユ・チェンタさんって実はスゴい人で、ヴェネチアビエンナーレ美術展に台湾代表で参加したことがあり、あのポンピドゥー・センターに招かれて展示を行なったりもしています(こちらで紹介されています)。ウォーターメロン・シスターズは、2017年にサンプライド財団と台北現代美術館が共同で開催したアジアの国立美術館における初のLGBTQ(クィア)をテーマとしたサーベイショーを記念するために結成されました。
プロフィールには「1960年代の京劇映画やツァイ・ミンリャンの映画作品からインスピレーションを受け、自らの性自認を流動させつつ、ブッチ/フェム集団出身のクィア姉妹として、人間の性的解放への道を「トワーク」で応援します。その作品はラップミュージック・ビデオ、写真シリーズ、ライブパフォーマンスで構成されています」と書かれています。
今回、六本木アートナイトで二人の作品が展示されるとともに、パフォーマンスも行なわれるとのことで、ものすごく興味を惹かれたので、雨にも負けず、行ってまいりました(めっちゃ蒸し暑くて汗だくになりました…)
パフォーマンス
会場は六本木ヒルズアリーナという場所だったのですが、屋根がついていて雨でもさほど濡れずに(細かい霧状の雨が舞ってる感じでした)鑑賞することができました。パフォーマンスが始まる頃には、椅子席が全て埋まり、周りで立って見ている人もちらほらという、満員状態でした。
19時半、巨大なスクリーンに「西瓜姉妹 Watermelon Sisters」の文字が浮かび上がり、天女に扮した二人が、「下界は天上界とはだいぶ違うのよ」「時には自分が男だと思えたり」「女と思えたり」「男女両方の時も」「人間界の退廃を食い止めねば」「そして美と自由を取り戻させるの」と言い、下界の様子を見に行きましょう、という話になり、映像が消えると、モスラの歌がかかり、アリーナの隣の建物の高い踊り場のところにピンクと緑に光る傘を持った二人が現れ、長い階段を降り、みんなが待っているアリーナにやってきました。そして、観客に笑顔で手を振り、歓声が上がり。二人はザ・ピーナッツよろしく、ひとしきりモスラの歌でパフォーマンスした後、西瓜の皮の柄の帯を取り、着物を脱ぎ、「ザ・ベストテン」の音楽とともに、これから「ピンクとみどりの歌合戦」をやるよ!と言って、ミン・ウォンさんが「ピンク・クィア」チームを応援してね!と、ユ・チェンタさんが「みどりのエコ」チームを応援してね!と言い、二人で由紀さおり&安田祥子姉妹の『トルコ行進曲』をパフォーマンス(どこかで観たことがあるような…笑)。それからまた、衣装を脱いで、イグノポールで流れていたのと同じ映像がスクリーンに映し出され、その映像と同じ西瓜柄の衣装になって、「本当の自分を抱きしめて 幸せが優先」といったリリックのオリジナルのラップをパフォーマンス。お二人は、これは愛とプライドと自由を歌っています、と語っていました(全体的に、妙に日本語が達者だなぁと思ったら、KAGUYAさんとOKINIさんが声を担当していました。声だけでもちゃんとドラァグクイーンを起用するところがGOODですね)
そうして、30分足らずのパフォーマンスが終わり、二人は、あらかじめ配られた応援用のうちわを持ってる方にサインしたり、アイドルのように振る舞っていました。
あとで公式サイトを見て把握したのですが、これは「天界から舞い降りてきたクィア姉妹が、愛し合うことをせずに境界を巡った争いをやめない人類に向けて「お互いに抱きしめ合うの」と呼びかけるミュージック・ビデオ」である《ウォーターメロン・ラブ》(2017年)という作品で、お二人がその映像と同じ衣装でパフォーマンスしていたのでした。
これまでいろんなアート展を見てきましたが、こんなにゆるいドラァグ・パフォーマンス(と言っても過言ではない)が六本木ヒルズという日本でも指折りの高級な場所のアート展の中で行なわれるのは、実に面白いと思いました。(以前、森美術館で「クロニクル京都1990s ―ダイアモンズ・アー・フォーエバー、アートスケープ、そして私は誰かと踊る」という展覧会が開催され、シモーヌ深雪さんらがトークイベントに出たり、「THE MOON」というレストランでショーが行なわれたりしたのを思い出しました)
展示
パフォーマンスは一夜限りだったのですが、展示は日曜まで観ることができます。
ウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)の作品は、街なかプログラムの一環として「六本木イグノポール」という建物の1Fでインスタレーション形式で展示されています。
六本木駅から、(私は間違ったのですが)車がバンバン通る大通りじゃなく、アマンドの横の細い道=芋洗坂を100mほど下った左手に「六本木イグノポール」というマンションがあって、その入口に六本木アートナイトの白いウィンドブレーカーを着たスタッフの方が立っているので、わかると思います。
10畳ほどのスペースで、《ウォーターメロン・ラブ》が上映されています。
映像を観ていて、二人が原付バイクに二人乗りして走っていくシーンが「ツァイ・ミンリャンからインスピレーションを受けた」シーンだと思いました(『河』という映画をご覧になった方はピンとくるはず)。でも絵面的にツァイ・ミンリャンの世界とかけ離れていて、パロディにしか見えないので、思わず笑ってしまいました。
この映像作品のほかにも、二人のかわいいフィギュアのような作品も展示されています。
29日まで開催されていますので、六本木にご用のある方もそうでない方もぜひ、立ち寄ってみてください。
ウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)@六本木アートナイト2024
会期:2024年9月27日(金)〜29日(日)(コアタイム:9月27日 17:30~23:00 / 9月28日 16:00~23:00 / 9月29日 16:00~20:00)
会場:六本木イグノポール1階
無料
(なお、10月にもT3 PHOTO FESTIVAL TOKYOの「その「男らしさ」はどこからきたの?」や、米国在住のクィア・パフォーマンス・アーティスト荒川ナッシュ医さんの個展など、面白そうな展覧会があります。特集:2024年秋のクィア・アート展をご覧ください)
INDEX
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』