REVIEW
そうだったのか!アメリカの同性愛 『松嶋×町山未公開映画を観る本』
「松嶋×町山 未公開映画祭」は、ゲイに関する作品もたくさんあり、ちょっとしたレズビアン&ゲイ映画祭のような趣になっています。『松嶋×町山 未公開映画を観る本』を読むと、そうしたゲイ関連映画がたくさん製作された時代背景がよくわかります。
現在Web上で公開されている「松嶋×町山 未公開映画祭」には、ゲイやレズビアンが登場する作品、ゲイ的に興味津々な作品などがいろいろあり、ちょっとしたレズビアン&ゲイ映画祭のような趣があります。(詳しくはこちら)
この「松嶋×町山 未公開映画祭」にハマった方には、『松嶋×町山未公開映画を観る本』もオススメします。
映画祭のWebサイトや関連のニュースでは、「アメリカでは良質なドキュメンタリー映画がたくさん製作されていて、日本で公開されるのはほんの一部。もっとこれを日本に紹介したい」といった趣旨で伝わってきましたが、『松嶋×町山未公開映画を観る本』には、もっと深い時代背景や、各作品のより突っ込んだ解説、後日談なども語られています。これをゲイという視点で切り出してみると、とても興味深い「21世紀の米国ゲイ史」が見えてきます。
アメリカでは2002年、マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』が大ヒットしたのをきっかけに(またデジタルビデオとPCの映画ソフトの普及もあり、低予算でリスクが少ない映画に投資しようとする映画業界の思惑もあり)、大量にドキュメンタリー映画が作られるようになります。時はブッシュ政権下。アメリカ社会の暗黒面が一気に加速された時代でした。ドキュメンタリー映画はアメリカの暗部を告発しようとするムーブメントとして隆盛したのです。
そんなブッシュ陣営の選挙に携わっていたケン・メールマン議員は、『クローゼット~ゲイ叩き政治家のゲイを暴け!』で描かれていた通り、とてもカミングアウトしてゲイの権利を擁護する側に立つことはできませんでした。「バイブルベルト」に位置するテキサスの小さな町では、福音派(キリスト教原理主義)の純潔教育が徹底され、望まない妊娠や性感染症の拡大を招き、同性愛者があからさまに抑圧されていました(『シェルビーの性教育~避妊を学校で教えて!』)。アメリカ唯一の映画倫理委員会「MPAA」にも、陰でこうした宗教団体が影響を及ぼし、映画の中の同性愛表現を規制していました(『ノット・レイティド~アメリカ映画のウソを暴け!』)
そうしたブッシュ政権下のアメリカ社会のクレイジーさに対し、松嶋尚美さんが「ありえん!」「ひどすぎる! アメリカって、自由で進んでる国やと思ってたわ」「同性愛っていうだけでね。何にも悪いことしへんのに」「自由やで。大人同士やねんから」といったコメントをしてくれているのも素敵です。大らかな日本人の素直な声と言えるでしょうが、松嶋さんのような好感度の高い人気タレントがこうしてゲイを擁護してくれることが、さらに世間にゲイフレンドリーな雰囲気を広めてくれるように思います。
そして、日本のメディアやエンタメ業界(映画や音楽産業)ではまだまだ同性愛を隠蔽したり(「これは同性愛映画ではなく、愛の映画です」)、スキャンダラスなものとして扱う傾向があることは否めませんが、映画評論家の町山さんは、同性愛を当たり前のこととし、同性愛差別を不当なこととして、リベラルなスタンスを貫いています。だからこそ、上記のような有意義な作品が、真意が歪められることなく届けられたのです。本当に素晴らしいこと。拍手を贈りたい気持ちです。
(後藤純一)
INDEX
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
- 1970年代のブラジルに突如誕生したクィアでキャムプなギャング映画『デビルクイーン』
- こんなに笑えて泣ける映画、今まであったでしょうか…大傑作青春クィアムービー「台北アフタースクール」
- 最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないゲイ映画『ニュー・オリンポスで』
- 時代に翻弄されながら人々を楽しませてきたクィアコメディアンたちのドキュメンタリー 映画『アウトスタンディング:コメディ・レボリューション』
- トランスやDSDの人たちの包摂について考えるために今こそ読みたい『スポーツとLGBTQ+』
- 夢のイケオジが共演した素晴らしくエモいクィア西部劇映画『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』
- アート展レポート:Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」
- Netflixで配信中の日本初の男性どうしの恋愛リアリティ番組『ボーイフレンド』が素晴らしい
- ストーンウォール以前にゲイとして生き、歴史に残る偉業を成し遂げた人物の伝記映画『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
- アート展レポート:第七回美男画展
- アート展レポート:父親的錄影帶|Father’s Videotapes
- 誰にも言えず、誰ともつながらずに生きてきた長谷さんの人生を描いたドキュメンタリー映画『94歳のゲイ』
- 若い時にエイズ禍の時代を過ごしたゲイの心の傷を癒しながら魂の救済としての愛を描いた名作映画『異人たち』
- アート展レポート:能村個展「禁の薔薇」
- ダンスパフォーマンスとクィアなメッセージの素晴らしさに感動…マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』
- 韓国のベアコミュニティが作ったドラマ「Cheers 짠하면알수있어」
- リュック・ベッソンがドラァグクイーンのダーク・ヒーローを生み出し、ベネチアで大絶賛された映画『DOGMAN ドッグマン』
SCHEDULE
記事はありません。