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REVIEW

単行本『レディー・ガガ』はゲイのことだらけ!

成功を収めた人物の伝記本としては異例の早さで出版された『レディー・ガガ』。グラビア写真もたっぷり入っていて目にも楽しい一冊になっていますが、下積み時代のエピソードや、いかにガガがゲイを愛してるかについての大量な記述も面白いです。ファンの方はぜひ!

単行本『レディー・ガガ』はゲイのことだらけ!

 デビューして2年でもう伝記本が出るって本当にスゴい(それだけ注目を集めてるってこと)ですよね。エリザベス女王に謁見した歴史的な瞬間や、胸から火花が出ている写真など、ガガ伝説の名場面がふんだんにグラビアとして盛り込まれているのも魅力ですが、中味も非常に面白かったです。

 「子どもの頃から脱ぐのが好きだった」というステファニー・ジャーマノッタというお嬢様は、早くから自分はふつうじゃないと悟っていました。クスリにハマったりもしたけど、難関音楽学校に受かり、夜はゲイクラブに入りびたり、下積み時代を経て、レコード会社が決まります。が、すぐクビになり、メジャーで売ることの難しさに直面します。そんな彼女がなぜ世界のトップ・スターになれたのか、その成功の秘密は何なのか、が丁寧に分析されています。

レディー・ガガLADY GAGA
著:ブランドン・ハースト/訳:長澤あかね、中村有以/発行:マーブルトロン/発売:中央公論社/1600円+税








 そして、それよりも何よりも、この本の約1/5が「ガガがいかにゲイのアーティストたちから影響を受け、どれだけゲイを愛しているか」に割かれていることに感動を覚えました。以下、ゲイに関する記述の一部をご紹介してみます。

■プロローグ(p24
「ポーカーフェイス」はバイセクシュアリティについて歌ったものである(ガガ自身がバイセクシュアルである)

■ワイルド・チャイルド(p46
「街をうろついて、化粧品店のMACのウィンドウでボーイ・ジョージを見かけると『ええ、私もそんな気分よ!』って叫んでた。ル・ポールにも」

■ワイルド・チャイルド(p60) 
□「世界一ゲイを応援する女の子でいたいわ」というタイトルの章
「私はNYにいて、ゲイクラブやチープなバーで山ほどパーティをしたの。州に5日はパーティだったわ。ザ・キュアーやペット・ショップ・ボーイズ、シザー・シスターズにメロメロになって、80年代のクラブカルチャーにすっかりハマっちゃったの」

 ガガによると、当時ガガのスケジュールのかなりの部分を占めていたのは、ゲイクラブだったという。これおは生い立ちと関係があるのではとガガ自身は思っている。もちろんカトリック信者の両親が意図したことではなかったが、このあたりにもルーツはありそうだ。

「ピアノの先生が何人かゲイだったの。それに、かなり幼い頃から演技やバレエのレッスンに行ってたんだけど、ダンスのクラスにはゲイの男の子たちがいっぱいいたからね。私はもともと、ゲイのライフスタイルに惹かれるとことがあるのよ」

 ごく最近『ファブ』誌から、ゲイのパフォーマーと共演する楽しさについて質問されたガガは、こう答えている。
「底抜けの自由、喜び、楽しさ。それに心かな。ゲイ社会ほど心ある場所は、この世のどこにもないわ。ドラァグクイーンのアマンダとカズウェルは、NYでのフェイム・ボール・ツアーのときに、私のCDのリリースのために前座をつとめてくれたんだけど、二人ともびっくりするほどいい人で、まったく気取りがないの。私はこれからも、世界一、ゲイを応援する女の子でいたいわ。いろんな街でパフォーマンスするときは必ず、大きなスタジアムでやるときだって、セカンドー・ショーはゲイクラブでやるからね!」

■ガガへの旅(p67
 ガガはクイーンの大ファンだった。フレディ・マーキュリーも同じように芝居がかったパフォーマンスが特徴だった。

「フレディは王様の衣装を着て、杖を持って現れたでしょ? 自分を王族にしちゃうなんて、とっても女性的な発想よね。私たちはお姫様や女王様の衣装を着てティアラをかぶったりするもの」

■ザ・フェイム(p121
 複数のメディアが「アギレラはガガのルックスをパクっているのでは?」と書き立て、いらだったアギレラはこう言った。「正直言って、その人が誰なのかも知らない。男性なのか女性なのかもわからないし」

 これに対してガガは、「彼女は素晴らしい才能の持ち主よ。私を見て。私はゲイのようなものだわ。そんなふうに言われると、『彼女の言う通り!』って言いたくなっちゃう。彼女はきっと、私の中のウォーホールを見てたのよ。もちろん、似てるところもあるけど、誰も私のコピーなんてできないわ」

■ザ・フェイム(p122
「グレイス・ジョーンズやデヴィッド・ボウイが大好き。二人とも『ジェンダーやセクシーってどういうことか』を楽しく扱っているでしょ」

 ガガは、「私自身はレズビアンじゃないよ」と『アウト』誌のインタビューで語っている。
「私は自由な精神を持つ女性よ。ボーイフレンドがいたこともあるし、女性とつきあったこともある。でも、『あのとき、自分がゲイだって気づいたの』っていう経験があるわけじゃないのよ」

 ガガはゲイの権利を積極的に支持している。2009年にワシントンDCで行われた全米プライドマーチにも参加し、訴えている。
「このマーチは、国中のみんなに、こう呼びかけるためのものよ。『目に見える形で意見を表明するため、50州すべてにおけるLGBTの市民全員の平等を求めるために、ぜひマーチに集まって!』って。自分たちは自由で平等だと思ってるなら、DCに来て。手を貸してほしいの。声を上げて、聞こえるように訴えて。会場で会いましょう!」

 ガガは、自分がゲイコミュニティを支持する理由のひとつは、自分が有名になりはじめたばかりの頃、ゲイたちがサポートしてくれたからだと言う。
「やっとメインストリームに手が届きそうになったとき、私を押し上げてくれやのはゲイのみんなだったわ。私は、彼らのためなら何でもしたし、彼らも、私のために力を尽くしてくれた。今の私があるのは、ゲイコミュニティのおかげなの」

 この影響は、彼女の作品にも見てとれる。
「ゲイカルチャーをメインストリームに注入したいの。私にとってのゲイカルチャーはアンダーグラウンドなツールじゃないわ。人生のすべてよ。よく、こんなジョークを言うのよ。私の本当の目的は、この世界全体をゲイにすることだって」

 6月には、『USAトゥデイ』紙にこう語った。
「ゲイだったり、バイセクシュアルだったり、性的に自由だっていうのは、秘密にしなくていいと思う。もちろん、誰にでも秘密を持つ権利はあるけど。それを特別恥ずかしいことだと思わないわ。それが私なんだもの。私の曲でもそれについてはっきりと歌ってるし。だから、インタビューでも隠さないってことにしたのかもしれないわ。隠したくないのも理由のひとつだけど、私の曲を聴けば『私は女の子が好き』っていうのがはっきりわかるからね」

 彼女は、女性と関係を築くほうが楽だとも言っていた。
「私にとっては、男性のほうが難しいわね。本当に恋をしたのは1度だけ。彼は、私がこの仕事をするのを嫌がったの。私が専業主婦になることを望んだのよ。だから別れたの」

■ザ・フェイム(p123
□「トランスセクシャルのみんなが大好きなの!」という章

 LGBTの権利のために真摯に取り組んできたガガだが、20098月になると、「ガガはインターセックスだ」という噂が出はじめた。

 ガガは過去に、トランスセクシャルを称賛したことがある。
「トラニーのみんなが大好きなの。すごく格好いい」(※トラニー:トランスセクシュアルのこと)


■ザ・モンスター(p133
□「ゲイを利用してるなんて!ホントに彼らを愛してるの」という章
 5月、英国でガガの「ジャストダンス」がブリトニーの「ウーマナイザー」とリリー・アレンの「ザ・フィアー」を下し、『2009年のゲイ・アンセム』に選ばれた。ガガにとっては素晴らしいニュースだったが、彼女の仕事仲間の中にはこれをうれしく思わない、キャパシティの小さい人もいた。

 ガガとカニエのジョイント・ツアーが中止になるという発表の直前、ラッパーの50セントが、NYのラジオ局でこのツアーのことを「ああ、あのゲイツアーか」と呼んだ。
 ガガはカニエに「一緒にやるって決める前に、はっきりさせたいことがあるの」と告げていた。「私はゲイよ。私の音楽もゲイ。ショーもゲイ。ゲイでありたいと思ってるの」と。
 50セントが「ゲイツアー」と呼ぶのも当然だ。ただ、ラッパーという、もともとゲイに対して好意的でないイメージの職業の者としては、賢いとは言えない。
 その後、50セントは必死に弁明した。「別に二人に反感を持ってるわけじゃないんだ。だけど、カニエはゲイの人たちと仲がいいだろ。あれはきっと、自分のビデオを売ろうとしてるんだ。俺はただ、やたらとカニエがゲイコミュニティを気にしてるって言ってるだけなんだ」
 さらにその後も、ゲイの圧力団体をなだめるための声明を出している。「レディガガのツアーを『ゲイツアー』って言ったのは、彼女自身が以前そう呼んでた気がしたから、それを繰り返しただけ。誰かを傷つけるつもりはなかった」

 ガガは、ゲイの話題については、危険な綱渡りをしている。過去にバイセクシュアルだと公言している彼女だが、今はそのことについては口をつぐんだほうがいいかもしれないと思っているようだ。偏見を怖れてるんじゃない。発言の動機を疑われかねないと考えているんだろう。
「実はもう、その話題についてはあまり話したくないの。その話題にまつわるいろいろに、ちょっとがっかりしてるのよ。『アイツはトガってるって見られたくてゲイコミュニティを利用してるんだ』なんて言われたくない。私は性的に自由な女だし、好きなものは好き。でも、そのことで書き立てられたくないの。トガってるとかアングラだとか思われたくて言ってるみたいに見えるんだもの」と、ガガは『ファブ』誌に語っている。
「セクシュアリティについて書くときには、すごく気をつけてるわ。ショートフィルムでは女の子どうしのからみを描いてるし、舞台では男の子どうしのからみを見せてる。ファンがほしくてゲイのみんなを利用しようとしてるわけじゃない。彼らのことを心から愛してる」
「だから、ずいぶん前から『ボーイズ・ボーイズ・ボーイズ』はクラブで演奏しないって決めたの。いかにもゲイクラブアンセムっぽい曲を宣伝しているって思われたくないから。ゲイクラブアンセムを作りたくないわけじゃないのよ。私の曲すべてがゲイクラブアンセムになってほしいくらいだし、ショーのすべてが一つの巨大なゲイクラブアンセムだったらいいなって思ってる。でも、ゲイの人たちにウケたくて、ゲイソングを歌ってる女の子だって思われたくなかったの。セクシュアリティとかゲイについての曲を書けば、みんな、質問、尋問の標的になる。げも、そういう質問は歓迎よ。だって、どういうことか説明できるもの」

■ザ・モンスター(p154
□「コンドームなしの無責任なセックスができる時代じゃないの!」という章
 彼女は、世界に蔓延するHIV/エイズとの闘いのための取り組みにますます力を入れている。アメリカのファッション・デザイナー、ジェレミー・スコットが、コンドームブランド「プロパー・アタイヤ」と組んでコンドームを作ったときには、彼女も宣伝に協力した。

 幼い頃のアイドルだったシンディ・ローパーとともに、MACコスメティックスが主催するHIV対策の資金を集めるためのキャンペーンの一環としてビバグラム・リップグロスブランドの販売促進にも努めた。
HIV/エイズへの認識を高める資金を集めるために私にできることがあれば何でもするわ。そのために今ここにいるの。とっても光栄よ」
「今は、コンドームなしでの無責任なセックスができるような時代じゃないの」

 ガガより30歳年上で、エイズが世間の注目を浴びるようになったころからその実態を間近で見てきたシンディ・ローパーも言う。
HIV/エイズと闘うのは、ひとりの女性だけでできる仕事じゃないわ。私は、たくさんの友人をエイズで亡くしてきた。それがどんなものかもわからないうちにね」

 

 ゲイを愛し、ゲイに支えられてトップにまで昇り詰めたレディー・ガガ。新曲『アレハンドロ』のPVを「ゲイコミュニティに捧げる愛と感謝の表現」とガガが言うとき、それは冗談などではなく、本心であり、心からの言葉なのです。
 テレビやラジオで『アレハンドロ』が紹介されるとき、これは「ゲイに捧げられた歌です」と紹介され、こうして伝記本が出ればいかにガガがゲイを愛しているかが語られ(ちゃんと日本語に訳され)…と思うと、まるでガガ様が世界にゲイを認知させる伝道師のように、ゲイの受難を救う救世主のように思えてきます。

 また、上記で紹介したボーイ・ジョージやデヴィッド・ボウイ、グレイス・ジョーンズ、ザ・キュアー、ペット・ショップ・ボーイズ、シザー・シスターズのほかにも、ガガが影響を受けたアーティストや作品として、アンディ・ウォーホール、『パリ、夜は眠れない。』、フレディ・マーキュリー、エルトン・ジョンなどが挙げられており、その「コテコテさ」加減に思わず笑ってしまったりします。希代のポップ・アイコンは、自らも言っているように、まるでゲイ、というより、ゲイそのものなのでした。

(後藤純一)

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