REVIEW
『レズビアン的結婚生活』『ふたりのママから、きみたちへ』
2014年1月17日、東小雪さん&増原裕子さんが『レズビアン的結婚生活』『ふたりのママから、きみたちへ』という2冊の本を同時に発表しました。レビューをお届けします。
2014年1月17日、東小雪さん&増原裕子さんが『レズビアン的結婚生活』『ふたりのママから、きみたちへ』という2冊の本を同時に発表しました(ともにイースト・プレス刊)。『レズビアン的結婚生活』はコミックエッセイ(要は漫画)で、とても読みやすく、お二人のおつきあいから結婚式に至るさまざまなエピソードが生き生きと描かれています。『ふたりのママから、きみたちへ』は、子どもを迎えたいと願うようになったお二人が、まだ見ぬわが子にあてて書いた文章です(後半は、さまざまな人から寄せられた質問に答える体裁になっています)。レビューをお届けします。(後藤純一)
東小雪さんと増原裕子さん
東小雪さんは、元タカラジェンヌ(宝塚歌劇団花組男役あうら真輝)という肩書きをもつオープンリー・レズビアンとして、2010年から芸名とセクシュアリティをカミングアウトしてLGBT支援に携わってきました。ゴトウが初めてお見かけしたのは、2012年1月に開催された「石原都知事の同性愛者差別発言、なにが問題か?」というシンポジウム(トークイベント)で、「こんな人がいるんだ? 素敵!」と思いました。
増原裕子さん(ひろこさん)は、震災直後に「セクシュアルマイノリティの視点を生かした被災者支援活動」を模索して立ちあげられた「Japan Rainbow Aid」の代表をつとめていた方で、2011年9月に開催された「被災とジェンダー/セクシュアリティ~緊急時、見落とされがちな視点を今後に活かすために」というシンポジウムで(島田暁さんに紹介していただいて)初めてお会いしました。
お二人とも聡明で、キラキラしていて、美しく、誰もが好印象をもつだろう、本当に素敵なカップルです。
昨年、3月に東京ディズニーシーで結婚式を挙げたことが(最初は断られたけど、説得してOKをもらったというエピソード込みで)メディアにも大きく取り上げられましたが(6月放送の『探検バクモン〜”性”をめぐる大冒険!』にも出演していましたね)、それ以外にも、東さんは特定非営利活動法人「ピアフレンズ」運営スタッフを、増原さんは特定非営利活動法人「虹色ダイバーシティ」のスタッフをつとめ、GWの「TOKYO RAINBOW WEEK」の実行委員、講演活動なども行ってきました。そして2013年12月、メディア出演や執筆・講演活動などを行う株式会社トロワ・クルールを設立しました。
『レズビアン的結婚生活』
『レズビアン的結婚生活』
著:東小雪+増原裕子/
漫画:すぎやまえみこ/
イースト・プレス刊/
1000円+税 コミックなので、たとえば、お二人がTDRで結婚式を挙げたいと申し込む場面なんかも、いっしょにお風呂に入ってて「ひろこちゃん知ってる? シンデレラ城で結婚式ができるようになったんだよ」「それって同性どうしでもできるのかな? できるなら挙げようよ」「キャーひろこちゃん、ありがとう!」という流れから、さっそく小雪さんが(裸にバスタオルを巻いただけの格好で)申し込みの電話をかける、という楽しい描写になっていたりします。とてもかわいらしい絵柄で(過度に少女漫画ではない、自然なかわいらしさ)、お二人の物語が生き生きと展開されていきます。
かといって、結婚式のエピソードばかりではなく、そもそも二人はどのように出会ったのか?とか、つきあいはじめてから起きたいろんな事件(小雪さんが家出したり)、ふだんの暮らしのことなどもいろいろ描かれていました。
なかでも、小雪さんが子どものころ親から虐待を受けていたことをカミングアウトしているくだりには驚き、せつない気持ちにさせられました(当時もつらかったでしょうし、それを公にすることもとてもつらかったと思います)
TVやネットニュースなどで小雪さん&ひろこさんのことを見知っている方の中には、もしかしたら、二人とも美人だし、キャリアもあるし、恵まれた人たちだからあんなふうに表に出ていけるんだよね、というような印象を受けた方もいるかもしれません。が、本当はそれぞれに苦労をしてきたんだということがよくわかります(ひろこさんの方も、初めは無理して男性とつきあったりしていて、レズビアンであることを受け容れるのにずいぶん時間がかかったそうです)
お二人は、そういう苦労を乗り越え、たまたま同じように前を向いて歩いていけるようなパートナーに出会い、強い信念や覚悟、決心を経て、今の幸せに至ったのです。だからこそ、ひろこさんのご両親が本当に親身になってお二人を支えてくれたという話には、胸を打たれました(特に、結婚式でのお父様のスピーチは、号泣モノでした…漫画を読んで泣いたのは歌川さんの本http://gladxx.jp/review/book/3080.html以来かも)。そういうすべてが明るいタッチの漫画として描かれていることで、よりいっそう感動を誘います。
とりあえずどちらか一冊買ってみようかな?と思う方は、まず、こちらの『レズビアン的結婚生活』を読んでみてはいかがでしょうか。恋愛についてのお悩みがある方、結婚について真剣に考えている方、親との関係がうまくいっていない方なども、きっと勇気をもらえると思います。
『ふたりのママから、きみたちへ』
『ふたりのママから、きみたちへ』
著:東小雪+増原裕子/
イースト・プレス刊/
定価:1300円+税 こちらの本は、結婚式を経て、真剣に子どもを迎えたいと願うようになったお二人が、まだ見ぬわが子にあてて書いた文章という体裁になっています。小雪さんが「お母さん」、ひろこさんが「ママ」というていで、交互に語りかけています。
世間では「お父さん、お母さん、子どもが二人くらい。これが正しい家族です!」ということになっているけど、実際にはもっといろんな家族がいる、そして、ママが二人という家庭に育つと、学校でいじめられてしまうかもしれないという心配もある、けど私たちは…というお話です。
お二人は、おつきあいするなかで、また、結婚式を経験したことで、子どもを授かり、育てていきたいという思いを強くするようになりました。そんな話をしていたとき、ある4歳のお子さんを育てているお母さんから「ふたりとも産めるなんて、とっても素敵ね!」と言っていただけたそうです(なんと励みになる言葉でしょう)
じゃあ、実際に日本でレズビアンカップルが子どもをもうけて育てていくとしたら、どういう方法があるのか? そういったあたりもきちんと書かれています。
でも、本当に難関なのは、子どもを産むこと自体ではなく、同性カップルが子育てするという(欧米では当たり前になりつつある)ありようを日本の社会がまだ受け容れていないということ(学校でいじめられたり、さまざまな偏見や差別を受けるかもしれない状況)。生まれてくる子が、できるだけそういう困難に直面することなく、すくすくと育ってほしい、そういう願いも込めて『ふたりのママから、きみたちへ』は世に送り出されたのでしょう。そして、「わが子を愛する母親の気持ち」という誰もが共感できるテーマに沿いながら、決して声高ではない語り口で日本の画一的な家族規範にもの申すという「離れ業」を、お二人はやってのけていると思いました(拍手!)
「近い将来、小雪お母さんとひろこママのお子さんが、無事に生まれて、大きくなって、この本を手にとって読んでくれる日が来るといいなあ」と読んだ方はみんな思うはずです。
後半は、さまざまな人から寄せられた質問に答えるものになっています。
もともとこの本の原稿は「よりみちパン!セ」ホームページに連載されていたもので、それを読んだ方からたくさんの質問が寄せられてました。その多くが10代の方からなのですが、「なぜ結婚式をやろうと思ったの?」から始まり、「女の子が好きっていう気持ちとレズビアンはどう違うの?」「レズビアンと障害って同じに考えていいんですか?」「レズビアンの人ってみんな子どもがほしいの?」「子どもをどうやって守るの?」「子どもが将来結婚しようと思ったとき、親が同性カップルだと、相手の親に反対されそう…」など、率直で、多岐にわたった内容になっています。
お二人はもちろん、そうした質問に対し、配慮が行き届いた素晴らしいお返事をしているのですが、この(今までありそうでなかなかなかった)やりとりもまた、この本の醍醐味だと思います。
この本は「よりみちパン!セ」シリーズの一冊です。
「よりみちパン!セ」とは、中学生以上(主に中高生)向けの、学校の図書館によく置いてあるような教養書シリーズ(キャッチフレーズは「ほんとうはみんな知っている。寄り道こそ、人生の本道だ!」)で、中高入試問題にもよく採用されているそうです(もともとは、灰谷健次郎の本など優れた児童書をたくさん出版してきた理論社から出ていたのですが、現在はイースト・プレスに移っています)。伏見憲明さんの「さびしさの授業」「男子のための恋愛検定」もこのシリーズに入っています。
この『ふたりのママから、きみたちへ』が、全国の学校の図書館に並べられ、(現状、家族の多様性や性の多様性についてほとんど教えられることのない)中高生の方たちにたくさん読まれることを想像すると、心が躍ります。素晴らしいことですね。
INDEX
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- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
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