REVIEW
絵本『くまのトーマスはおんなのこ』
セクシュアルマイノリティ絵本シリーズの一冊として、トランスジェンダーのことを描いた『くまのトーマスはおんなのこ』が出版されました。ぜひ、ご覧ください。
『タンタンタンゴはパパふたり』『王さまと王さま』に次ぐ、セクシュアルマイノリティ絵本シリーズの一冊として、トランスジェンダーのことを描いた『くまのトーマスはおんなのこ』が出版されました。このセクシュアルマイノリティ絵本シリーズを手がけてきたのは『パレード』『同性愛入門』『ゲイという[経験]』『クィア・ジャパン・リターンズ』や田亀源五郎さんの本を多数手がけてきたポット出版です(素晴らしいですね!)
お話はこんな感じです。
エロールはいつもくまのトーマスと遊んでいます。裏庭で自転車に乗ったり、庭で野菜を植えたり。でもある日、トーマスはふさぎこんでいて、出かける気にならないと言います。理由を聞くと、「話したら、君とはもう友達じゃなくなってしまうかもしれないよ」とトーマス。「僕はいつだって君の友達だよ」とエロール。そこでトーマスは、自分は本当は男の子じゃなくて女の子で、名前もティリーがいいと思ってた、と打ち明けます。エロールは「君が女の子でも男の子でも気にしないよ。大事なのは、君が僕の友達だってことさ」と言います(ふたりが抱きしめ合っている、ちょっと胸を打つような絵になっています)。それからエロールは、友達のエイバを呼びます。エイバは女の子ですが、ロボットを作ったり、機械いじりが得意で、実に活発です。そして、ティリーが胸についてる蝶ネクタイを取ると、「私はリボンを取っちゃおうっと」と言ってポイとリボンを投げます。ティリーはそのリボンを髪?につけて喜びます。最後はティーパーティのシーンです。エロールとティリーとエイバと、エイバが連れてきたロボットの、素敵なティーパーティです。
絵本の作者は、メルボルン在住でバイセクシュアル女性のジェシカ・ウォルトン。彼女の父親は男性から女性に性別移行したトランスジェンダーだったそうです。ジェシカは、自分の息子エロールに読んで聞かせるトランスジェンダーをテーマにした絵本を作りたいと思ったことがきっかけで、自分でこの絵本を制作しました。ドゥーガル・マクファーソンの絵も、かわいらしくて、味があって、とても素敵です。
文章を翻訳したのは、グッド・エイジング・エールズの川村安紗子さん(先日のwork with Prideでも中心的に活躍していた方です)
それから、同じくグッド・エイジング・エールズの中田せらさんが「『ボク』じゃなくて『ワタシ』って言いたい」というあとがき的な文章を寄せています。中田さんも男の子として生まれたけど、心は女の子だと思っていて、なかなかそのことを周囲に打ち明けられなかったそうです(今は女性として暮らしています)。「もっと早くにこんな絵本に出会い痛かった!」と心から思ったそうです。
幼稚園や保育園の先生たちが小さな子どもたちに性の多様性のことを伝えるのは難しいかもしれませんが(小中学校でも未だに教えられていません)、こういう絵本があるだけで、ずいぶんセクシュアルマイノリティの子どもたちが救われたり(いじめが減ったり)するんじゃないかな、と思います。もしお友達に保育士さんや児童館で働く方などがいらっしゃる方は、オススメしてあげてはいかがでしょうか?
『くまのトーマスはおんなのこ ジェンダーとゆうじょうについてのやさしいおはなし』
作:ジェシカ・ウォルトン、絵:ドゥーガル・マクファーソン、訳:川村安紗子
発行:ポット出版プラス
希望小売価格:1,500円+税(この商品は非再販商品です)
INDEX
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta
SCHEDULE
- 05.18秋田プライドマーチ
- 05.18An Evening with ALASKA
- 05.18SPECTRUM vol.1
- 05.18GLOBAL KISS
- 05.18PIERROT OKINAWA 19th anniversary