REVIEW
田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』
田亀源五郎さんが自身のヒストリーやセクシュアリティ、『弟の夫』の制作秘話などについて語った本『ゲイ・カルチャーの未来へ』をご紹介します。
『弟の夫』も評判の田亀源五郎さんの語りを収録した本『ゲイ・カルチャーの未来へ』をご紹介します。自身のゲイ・ヒストリーやセクシュアリティについての捉え方、ゲイ・エロティシズム、『弟の夫』制作にまつわる様々なお話も語られていて、たいへん読み応えがあります。ぜひ読んでいただきたい一冊です。(後藤純一)
ドラマ『弟の夫』も大反響を呼んでいる田亀源五郎さん。その漫画作品にはたくさん触れてきましたが(永遠の名作『銀の華』の『バディ』誌での連載をリアルタイムで歓喜しながら読んでいました)、そういえば、田亀さんが語った本ってありそうでなかったなぁ、と。この『ゲイ・カルチャーの未来へ』は、『弟の夫』の制作秘話的なお話(あえて描かなかったことや、どういう意図で制作していたのかということ)から、自身の生い立ち、漫画を描くようになった経緯、ゲイ・エロティシズムの探求、欧米と日本社会の違いなど、様々な事柄についてたっぷりと語られている一冊です。
これを読むと、なぜ『弟の夫』がこれだけ高い評価を受ける作品になったのかがよくわかります。『弟の夫』についての語りだけでも読む価値がありますが、さらに、田亀さんの生い立ちやセクシュアリティの捉え方、生き方・考え方の芯の部分を知ることに大きな意義があるように感じます。
多くの人たちがゲイであることをを受け容れられなかったり後ろめたく感じながら生きていた時代に、田亀さんは自身のセクシュアリティ(クィアな欲望やゲイであること)を肯定し、オープンにして、信じる道を真っ直ぐ突き進んできました。なかなか真似できないこと。パイオニアです。
田亀さんの博識と言いますか、海外の映画や美術作品への造詣の深さには驚くべきものがありますし、そうしたことが作品制作にも生かされ、どんどん傑作が生まれてきたんだなぁと、そして、その根底には、田亀さんの知性や、揺るぎないセクシュアリティの肯定があって、だからこそ、世界に通用する作品、『弟の夫』が生まれたんだなぁと、深く納得させられます。
当然のことながら、エロティック・アートについて、含蓄に富んだ、ハッとさせられるような言葉がたくさんありました。「性欲に基づいた表現は信仰に基づいた表現と同等」「エロは批評を拒絶する」「エロはボーダーレス」などなど。
この国に田亀さんという方がいてくれることの意義ははかりしれないと、唯一無二の存在だと改めて感じました。本当にありがとうと申し上げたい気持ちにさせられました。
ゲイの権利擁護はセックスのことを抜きにしてはありえないわけですが(世間の「男どうしのセックス」に対する偏見・嫌悪・バッシングが払拭されない限り、当事者はなかなか自己肯定できません。HIVなどの問題にも深く関係します)、いまの時代、セックスのことが(LGBTの間ですら)どんどん見えなくされ、タブー視されていっているのではないかと、ゲイの間でも、きちんとパートナーと1対1のおつきあいをしている健全でキレイで同性婚にフィットするようなタイプのゲイの方と、そうじゃないゲイの方、みたいな分断というか二極化というか…が起こりつつあるのを感じます。そんななか、田亀さんという存在は、「インラン」だったり「ヘンタイ」だったりする(クィアな)僕らを力強く肯定してくれる希望の星として輝いているように見えます。
最後に、この本に書かれていた(amazonの紹介文でも引用されていた)言葉をご紹介します。
「ただ、とにかく自分自身に関しては、自分まで自分の敵になったら本当に悲しいから、たとえ世界中や親兄弟が敵になっても、自分だけは自分の味方でいなさいよ、とは言いたいです。それは本当に大事だと思います。そのためにも、無理にでも自分を好きになる努力をしなさいということは言いたい」
「可能な限り、自分の生きたいように生きて、幸せになってほしいと思います」
『ゲイ・カルチャーの未来へ』
田亀源五郎/Pヴァイン/2300円+税
INDEX
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta
SCHEDULE
- 05.02炎の野郎祭 -ケツ割れナイト-
- 05.03ゆるぽナイト -GW SPECIAL-
- 05.03露出狂ナイト LOVE AND WATER -褌太郎バースデーBASH-
- 05.04アスパラベーコン -ゴールデンウィークスペシャル-
- 05.04雄っぱいナイト!3