REVIEW
『はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで スッキリわかる!』
かつてなかった、ポップかつ深遠なLGBT入門書。膨大な知識や教養に裏づけられた、専門性とわかりやすさの両立という離れ業をやってのけている良書です。

90年代以降、同性愛をはじめ性の多様性(クィア)についての基礎知識やリアリティを伝える入門書的な本が、たくさん作られてきました(伏見憲明さんの一連の著作、あるいは、先日千葉市でパートナーシップ証明を受けたすこたん企画の伊藤悟さんなどです)。2000年代半ばにはLGBTという言葉が普及しはじめ、人権の問題だけでなく、ゲイマーケット的な話や海外の様々なオシャレ事例が雑誌でも特集されるようになり、2010年代のLGBTブーム期には、実にさまざまな本が発売され、もうさすがに出尽くしたのでは?という感もあったなかで、これはスゴい、脱帽…と思うような決定版的な一冊が、年明けに発売されました。
それが『はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで スッキリわかる!』です。著者の石田仁さんは2015年の「性的マイノリティについての意識2015年全国調査」にも携わっている社会学者の方ですが、二丁目のAiSOTOPE LOUNGEのイベントでハッテン場についての独自の考察などを発表したり、素晴らしくやわらかい、コミュニティ志向な方でもあります。
話は、「オネエ」と「LGBTブーム」から始まります。90年代にMr.レディのブームがあって、2000年代にオネエタレントのブームがあって、2012年頃からLGBTブームが始まって、テレビにこんなにたくさんオネエタレントが出ている日本は寛容だよね、と言われることもあるけど、ホントかな? この国特有の見えにくい排除の仕方、あるいは、逆の取り込み(包摂)の仕方があるんじゃない?と問いかけます。
はたまた、性同一性障害に関する誤解について。決して「体の性と心の性が一致しない」ということではない、という説明に、目からウロコが落ちる気がしました。
以前は高校の家庭科(家庭総合)の教科書に同性カップルなど多様な家族のことが載っていた、けど、2006年の検定で削除されたんだそうです(へええ)
ゲイ・バイセクシュアル男性の自殺企図リスクが異性愛男性に比べて6倍高い、という調査結果の詳しい解説。レズビアン・バイセクシュアル女性はどうなのか?という話も独立したページで語られています。
ネット上でアウティングされた時の対処方法として、名誉毀損で訴える際の書類の記入方法まで解説されています(素晴らしい)
そして、同性婚を望むのは活動家など一部の人だけか? 「LGBT特権」などというものはあるのか? 社会保障は「愛情ある二者間」のもの? オリンピックのために人権を守る? BLはゲイ差別なの?など、実に鋭く、最新のトピック、みんなが気になっている問題に切り込みます。
そのほか、複雑で多岐にわたる性分化疾患についての目からウロコな解説、レズビアンが不可視化されがちな理由、大手広告代理店などが実施するLGBT人口調査についての統計学的問題点、企業の「ムシのいいダイバーシティ施策」など、ハッとさせられる、こういうことが知りたかった!というトピックがたくさんあります。
見開きで1テーマ、各見開きにイラストや図表などのビジュアル要素も入るので、自ずと書ける文字数がものすごく制限されるという著者泣かせの体裁なのですが、おかげで読者にとってはとっつきやすくなっています。各章の冒頭には漫画も入っています。決して教科書的ではなく、みんなが関心のあるテーマがもれなく盛り込まれていて、思わずうなるような情報がたくさんある入門書って、今までなかったと思います。ともすると専門的で難しくなりがちな話(例えば「クィア」の意味など)もすんなり入ってきます。一言で言うと、ポップかつ深遠。膨大な知識や教養に裏づけられた、専門性とわかりやすさの両立という離れ業をやってのけているという印象です。
興味のある方はぜひ、読んでみてください。
はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで スッキリわかる!
石田仁(著)/ナツメ社
<目次>
プロローグ 「性」は多様
第1章 自分の性をどう伝える? 周りはどう受け止める?
第2章 どうしたら学校は過ごしやすい場所になる?
第3章 性的マイノリティの心と体の健康
第4章 性的マイノリティをとりまく法律上の問題を考える
第5章 性的マイノリティの市民生活と課題
第6章 何のための「LGBTビジネス」か
第7章 性別と科学の関係を深く知ろう
第8章 これまで十分に語られてこなかったセクシュアリティのこと
特別編 LGBTについて調査・研究するとき
エピローグ LGBT言説のその先
INDEX
- 女性にトランスした父親と息子の涙と歌:映画『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 女性差別と果敢に闘ったおばあちゃんと、ホモフォビアと闘ったゲイの僕との交流の記録:映画『マダム』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 小さな村のドラァグクイーンvsノンケのラッパー:映画『ビューティー・ボーイズ』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 世界エイズデーシアター『Rights,Light ライツライト』
- 『逃げ恥』新春SPが素晴らしかった!
- 決して同性愛が許されなかった時代に、激しくひたむきに愛し合った高校生たちの愛しくも切ない恋−−台湾が世界に放つゲイ映画『君の心に刻んだ名前』
- 束の間結ばれ、燃え上がる女性たちの真実の恋を描ききった、美しくも切ないレズビアン映画の傑作『燃ゆる女の肖像』
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』
- ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
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