g-lad xx

REVIEW

『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』

今年5月の『レディー・ガガ』に続く、ガガの評伝本『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』が発売されました。先の本に比べると少なめですが、それでもクィア・テイスト満載で、思わず素敵!と言いたくなるエピソードが収められていました。

『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』

 『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』は、今年5月に発売された『レディー・ガガ』と同様、ステファニー・ジャーマノッタという女性がどうやって「世界を塗り替える」ような存在になったのか、その生い立ちから現在の成功までを振り返り(『レディー・ガガ』はアルバム『モンスター』発売の頃まででしたが、こちらは『Telephone』の爆発的なヒットまでをフォローしています)、ワクワクするようなサクセス・ストーリーが記述されている評伝本です。
 カラーグラビアには、奇抜なコスチュームやライブパフォーマンスの名シーンはもちろん、まだガガの片鱗もない「ふつう」の女子だった頃の写真なども掲載されています。

  『レディー・ガガ』に比べると、ガガのゲイ(をはじめとするセクシュアルマイノリティ)に関する部分についての記述は少なめですが、それでも、この本で初めて知ったこと、素敵なエピソードがいろいろ書かれていました。以下にご紹介します。

 

3章「裸一貫」(p63

 父親ジョセフ・ジャーマノッタは、ダイブ・バー(カジュアルなバー)で長女が「ヒョウ柄のフリンジ付きのビキニトップに、スパンコールがちりばめられたハイウェストベルト、腹まであるパンティ」といういでたちでドラァグクイーンやゴーゴー・ダンサーと戯れている姿を目撃し、仰天した。「数ヶ月間、父は私と顔を合わせようとしなかったわ」

8章「レディー・スターライトとの出会い」(p99

 グレース・ジョーンズについてガガはこう語る。「ジョーンズの両性具有的な外見に魅力を感じるし、特に自身の性的指向に関する噂が飛び交う中で長年過ごしているところがいい」「私のファンやゲイコミュニティのように、美しきサブカルチャーの中にいる人しか理解できないし、理解しようとも思われないというのは、とても心惹かれることだわ」

11章「死んでもいいくらい幸せ」(p123

  『エレン・デジェネレス・ショー』に出演したガガは、キャリアの絶頂期にカミングアウトしたエレンのほうを向き、感極まったように「私、あなたのことが大好き」と言い、観客は喝采した。差し出した手をデジェネレスが握ると、ガガは続けた。「私にとっては、どんな番組よりもこの番組に出られたことに意味があるの。あなたを尊敬しているんです。出演させてくださってありがとう」。観客は声を上げ、拍手した。

 エレンはガガの真摯な言葉を心から喜んで「ええ、何かの記事で私を褒めてくださっていたそうね」と彼女は答え、オンエアでの愛の交歓は続いた。「ありがたいことだわ。具体的に何と言ってくれたかは知らないけど」。言葉が途切れるとガガは説明した。「あるインタビューで、私はあなたのことを『女性とゲイコミュニティに』インスピレーションを与える存在だと言ったの」。エレンは感激したようにこう言った。「あなたのことは前からいいなと思っていたけど、もっと好きになったわ」

13章「セックス、セクシャリティ」(p139~)

 ガガは質問を受けた日やそのときの気分によって、異性愛者だったり、両性愛者だったり、同性愛者だったりする。また、徹底した禁欲主義者だと言うこともあれば、何でも来いだと言うこともあった。

 オーストラリアのテレビ番組で性的指向に関する質問を長々とされたときは、自分が男に求めるのは「でかいアレ」だと答えた。「他には?」と聞かれると、「それだけよ」とそっけなく答えた。

 MACVIVA GLAM※HIVチャリティ商品)のキャンペーンの時だけは、ガガは、OHPの横に立って手書きの図や統計結果のスライドを次々に映していくかのように「イギリスでは感染者の10人に6人は13歳前後、つまり初めてで感染したことになるわ。性行為をしているイギリス人女性の73%がHIV検査を一度も受けたことがない。既婚女性の80%がコンドームなしのセックスをしていて、相手は自分以外としないはずだから大丈夫だと思っている。男がそんなものじゃないことくらい、わかってるはずなのに」と、冷静にHIV感染の現状について語った。

 アメリカのトーク番組の司会者バーバラ・ウォーターズに質問攻めにされたとき、自分はバイセクシュアルだが実際の恋愛は男性としかしたことがない、と答えた。最終的には「ええ、確かに女性とセクシャルな関係を持ったことはあるわ」「以前の恋人とセックスをしている最中に女性のことを思い浮かべたこともある」と語った。

 『エンタテイメント・ウィークリー』誌では、奇抜なファッションセンスが自分の性的魅力を高めているかと聞かれ、「そんなにセクシーではないと思う。変だもの。自分の写真を見ると『男が女装してるみたい! すごい、私、グレース・ジョーンズみたい!』って思う。性別を超越したロボットみたいな未来ファッションの女王よ。それを見てアレが硬くなる男はいないと思う」と答えた。

14章「ガガの任務」(p152

 Love Game』のPVについて「このビデオには『ゲイと黒人のニューヨーク』みたいな、何でもありのきらびやかな雰囲気があるの」「4年前の私をリアルに表現したかったのよ」と語っている。

16章「メディア戦略」(p167~)

 プッシー・キャット・ドールズのツアーに同行した後のインタビューで、ガガは、このガールグループの1人に色目を使われたことを匂わせて、こう語った。「秘密は守るわよ。あの子たちはとってもなかよしなんだから」「みんなすごく親切で優しくて感謝してる。だから、本当に言えないわ。ただ、誰とも険悪になることはなかった。全員とうまくやっていけた」。そして思わせぶりにこう言った。「まあ、私は下着姿の女の子が好きだもの」

 ジャーナリストのヴァネッサ・グレゴリアディスは、ガガがあらゆるセクシュアリティや性的指向を持つ男女と自分を同列に語るのは「何でもあり」という彼女の信条の表現なのだと指摘する。「この地球上で可能なあらゆる性の組み合わせを、自分のイメージとして提示したいのだ」「ガガは、自分のことを、女のように見える男を好きな女、と言っているが、自分が男に見えること、ドラァグクイーンに見えることも好んでもいる」。そして、多様な性的指向をほのめかしたスターの元祖、マドンナとの比較で「これがマドンナと違う点だ。マドンナは自分に男性器がついてるフリはしない」と結んでいる。
 とはいえ、若くてハングリーだった頃のマドンナと同様、ガガもゲイコミュニティとは自然な結びつきを見せている。
 初期のマドンナが、アンダーグラウンドのゲイクラブでのパフォーマンスと曲のヘビーローテーションを通じて成功をつかみ取ったことも、ガガは意識しているように見える。メインストリームのアーティストとしての成功はゲイのおかげだと公言し、新進のゲイ・アイコンとしての地位を歓迎しているのだ。ガガは当初ラジオでのオンエアを勝ち取るのに苦労したことに触れて「転機を与えてくれたのはゲイコミュニティよ。ゲイのファンが熱心に応援してくれたおかげで、私は浮上することができたの。みんなはいつも私のそばにいてくれるし、私もいつもみんなのそばにいる。基盤となるファン層を獲得するというのは、そう簡単なことではないから」と語っている。

17章「ガガのロマンス」(p177

 10月にはヒューマンライツキャンペーン(アメリカ最大の同性愛者権利擁護団体)の晩餐会に出席し、その後ワシントンDCでのナショナル・イクオリティ・マーチにも参加した。そのとき、ガガはこう言っている。「音楽業界には今もまだ多くの同性愛嫌悪が存在する。私は断固として闘うわ」。そして、ジョン・レノンの『イマジン』の歌詞を一部変えたアレンジ版を歌い、1988年にゲイの学生、マシュー・シェパードがむごらたしく殺された事件に触れた。

19章「ライブの日々」(p202

 20103月、ガガは『Q』誌のライターと編集者の前で、一流のパフォーマンスをして見せた。ハウス・オブ・ガガのメンバーと『Q』のスタッフに創作会議を呼びかけ、その場でガガは、華々しく、インタビューとともに予定されていた表紙のアイデアを発表した。裸になって、下半身に張り型をつけるというのだ。
「アソコにアレを取りつけたいの」。ガガは、紅茶でも注文するように、涼しい顔で言ってのけた。世間にはもともと男性器があると思われているのだから、その期待に応えてもいいはずだというのだ。「この件について、美しい、アートな方法で意見したいの」
 白熱した議論の結果、裸と張り型の合わせ技は避け、もう少し控えめなものにしたほうが賢明だという結論が出た。ウェストから上は裸で、とげのついた塩化ビニールの手袋をはめた手で胸を覆い、大事なところはズボンで隠す。ただし、股間にははっきりとふくらみが見えるようにするのだ。何時間にもわたる激しい議論と、何分間にもわたる偏執的なズボンの調整ののち、最終的に、張り型をさりげなく盛り上がらせるという案を、ガガは受け入れた。

20章「世界征服」(p209~)

 ビヨンセがガガの恋人役として出演した『Telephone』のPVは、全世界必見のビデオとなり、次世代の『スリラー』とまで言われるようになった。
 『ロサンゼルスタイムズ』のマット・ドネリーは、女同士のキスや、同性愛的な股間へのタッチ、ビヨンセが発する放送禁止用語には触れていないが、「魅力的なファッションと、きゃっとファイト、ガガの良さがめいっぱい詰まった豪華な映像」と評している。

 モンスター・ボール・ツアーの公式グッズとして販売されていた「I LADY GAY GAY」と書かれたTシャツを着て学校に行ったテネシー州の15歳のゲイの男の子が学校から帰されたという事件が、ローカルニュースや『Advocat.com』を通じて知らされ、批判を浴びた。少年は「この地域では僕のセクシュアリティが受け入れられることはないから、僕が攻撃を受けることは目に見えている」とTwitterに書いた。この出来事を知ったガガは「学校で堂々とTシャツを着てくれてありがとう。あなたは私の誇りよ。モンスターボールで、私たちみんなにインスピレーションを与えてくれる存在。愛してる。おかげで、私はみんなに対する責任と愛、そしてみんなを偏見から解放できるような曲を作るんだという、深く絶対的な情熱を改めて思い出したわ」とコメントした。

 

 

 いかがでしょうか。ガガがいかに性的指向や性自認、身体上の性別といった性にまつわるクィアネス(典型でないこと)にこだわり、自分をそうしたイメージで彩ってきたか、また、いかにセクシュアルマイノリティを支援してきたか(自らそのイメージを体現してまでも)ということが本当によく伝わってくると思います。その徹底ぶりには感動させられます。

 ありとあらゆるヘンテコで奇抜なコスチュームを試してきたガガは、張り型をつけた写真で表紙を飾りたいという提案が『Q』の編集者に却下されたあと、今度は「男性になる」ことを選択しました。

 現在発売中の『VOGUE HOMME JAPAN』(あの『肉ドレス』のポスターが綴じ込まれています)では、「ガガの恋人」という設定のジョー・カルデローネという男性が表紙を飾り、架空のインタビューも掲載されています。一見して誰もがガガが演じる男性であることがわかる記事ですが、そこには、ほとんどドラァグキングのようなパロディ精神が見え隠れします。

 しかし、この『VOGUE HOMME JAPAN』では、20ページにおよぶレディ・ガガ特集が組まれていましたが、ただの一度もゲイという言葉は登場しませんでした。口を開けばゲイゲイ言ってしまう(ミスUSAの審査員になった時もそうでした。カリフォルニア代表に「同性婚を支持しますか?」と尋ね、結果、彼女は優勝を逃したのでした)ペレズ・ヒルトンのインタビューですら、一言もなかったのです。

 それに比べると、この『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』は読み応えがありました。特に、初めて「エレン・デジェネレス・ショー」に出演したときのエピソード、テネシー州の15歳のゲイの男の子のエピソードなどは、奇抜さだけじゃないガガの人柄の魅力を物語っていて、この本を読んでよかったと思えたのでした。(後藤純一)


レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム
著:ポール・レスター/訳:堂田和美/シンコーミュージック・エンタテイメント/A5版/224ページ/1600円+税

INDEX

SCHEDULE