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REVIEW

東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』

東京レインボープライド共同代表を務める杉山文野さんが、これまでの壮絶な半生や、苦労を乗り越えた先の幸せや未来もすべて語り尽くした本です。今まで何も知らなくてごめんなさい…そんなに大変だったのに、毎年パレードを開催してくれて本当にありがとうございます、と言いたくなりました。

東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』

 みなさんは杉山文野さんをご存じでしょうか? かわいい顔して男の子っぽい感じで(ヒゲも生えてるし、スポーツマン系だし)、二丁目のゲイバーにもいたりするので、てっきりゲイだと思って声をかける人もいたり、ファンも多いのですが、トランス男性の方です。東京レインボープライド共同代表を務めているほか、講演会活動やNPOの運営などもしていて、結構な活動家なのですが、中味は「気のいい兄ちゃん」です。
 私は2001年の東京レズビアン&ゲイパレードの実行委員を務めさせていただいたことがあるのですが(スタッフやボランティアのみなさん、ステージ出演者のみなさん、本当にお世話になりました)、パレードを開催するということがどんなに大変なことか、身をもって体験しているので、杉山さんが(山縣さんも)5年も東京レインボープライドという大イベントを毎年やり続けてきたということが、どんなに大変かというのは、想像に難くありません。しかも今は、浜崎あゆみさんや中島美嘉さんなど著名なアーティストが出演するようになり、多くの企業が絡み、プロフェッショナルな仕事が求められるようになっています。心から敬意を表するものです。そして、毎年あんなにスゴいイベントを…数々の感動をプレゼントしてくれて、本当にありがとうという気持ちです。
 個人的にはお話させていただくようになったのは数年前からで(各地のパレードでお会いしたり)、これまでどういう人生を歩んできたか、といった話はあまり深く聞いたことはなかったのですが、今回、『元女子高生、パパになる』を読ませていただいて、正直、驚きの連続でした。こんなに苦労してたんだ…と、知らなかったことを申し訳なく感じました。


 
 『元女子高生、パパになる』は、杉山文野さんの『ダブルハッピネス』(2006年、講談社)に続く著書2冊目です。前著では、女子フェンシング日本代表だったトランス男子学生としての経験が語られていたと思いますが、今回の本は、その続編ということになるでしょう。
 杉山さんのご両親が有名な新宿の「すずや」を経営している方だということをご存じの方は、もしかしたら、杉山さんは「ボンボン」で、苦労せずに今のポジションに行って、素敵な彼女ができて、お子さんもできてハッピー♪というイメージをお持ちかもしれませんが、この本を読むと、そのイメージは大きく覆されると思います。飲食業の会社に就職して、朝から晩まで休みなしで働き、彼女ができても会う暇もなく、あまりにもハードな、地獄の日々を過ごしていたという、ブラック企業に勤めた(あるいは大変なプロジェクトを任されて連日深夜まで残業した)経験のあるリーマンの方ならきっとシンパシーを抱くであろうエピソードが語られます。今のパワーとか忍耐力が、こういう壮絶なリーマン時代に養われたんだなぁとわかります。
 それから、愛する彼女さんのお母様が、二人の交際について「あなたがいい人だなんてのはわかってるのよ! でもそういう話じゃないの。あなたとうちの娘は住む世界が違うのよ。あなたはあなたで生きていけばいいじゃない。お願いだから、うちの娘を巻き込まないで!」とおっしゃった、というお話が、本当に…痛くて、辛かったです。彼女さんはシスジェンダー・ストレートの方で、お母様は「普通」の男性と結婚してほしかったのに、なぜ「そっち側」に行かなければいけないのか、と訴えたのです。もう、泣くしかないですよね…。トランスジェンダーの方たちは、性別違和だけでも苦しいのに、恋愛でも苦しむのです。(ちなみに、杉山さんは現行の性同一性障害特例法が要求する「断種」の手術をどうしても受け入れることができず、戸籍性は女性のままです。そういう意味で、お二人は僕らと同じ同性カップルです)
 杉山さんはかつて「30歳で死のうと思っていた」そうです。しかし、なんとか自分へのカミングアウト(トランスジェンダーであることの受容)もできて、素敵な方とも巡り合えて(苦労はしたものの)、お子さんまで授かりました。
 もともと出たがりでもないし、活動家になる気もなかったのに、『ハートをつなごう』の司会に抜擢されたり、松中権さんとの出会いがあったりして、東京レインボーウィーク(パレードとのコラボでGW中に様々なイベントを開催)の運営をやることになり、やがて東京レインボープライド共同代表になり、周囲にかつがれる(流される)ようにして、たくさんの縁がつながって、奇跡的に今の地点にたどり着きました(「今の地点」がパレードの運営という恐ろしく大変な無償の仕事であることを、まるで栄光であるかのように言うのは失礼かもしれませんが…)

 血や汗や涙をくぐり抜けてきた先に、今があるのです。
 まさに、「No Rain, No Rainbow(雨が降らなければ虹は出ない)」を地で行く半生でした。

 そして、「隣の兄ちゃん」は、めでたくパパになりました(かつて「30歳で死のうと思っていた」杉山さんは、生まれて初めて長生きしたいと思うようになったといいます)。杉山さんファミリーの幸せな姿はきっと、子育てをあきらめていたようなたくさんの人に勇気を与えていると思います。
 
 『元女子高生、パパになる』は、そんな本です。
 来年以降、また代々木公園で東京レインボープライドに参加するとき、あるいは二丁目のゲイバーで杉山さんを見かけたとき、きっと「おつかれさま」「ありがとう」「頑張ってね」と言いたくなると思います。
 ぜひ、読んでみてください。


元女子高生、パパになる
杉山文野:著/文藝春秋:刊

 
※もしこの本が気に入ったら、乙武洋匡さんが杉山文野さんをモデルにして書いた『ヒゲとナプキン』という小説も発売されていますので、そちらも併せて読んでみてください。

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