REVIEW
あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
トランスジェンダーがどのような人たちで、性別を変えるには何をしなければならないのか、どのような差別に苦しめられているのか、そして、この社会には何が求められているのか、といったことの全体像をわかりやすくまとめた決定版的な入門書が、新書としてリリース。あらゆる人々に読んでいただきたい一冊です
画期的な名著『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』の翻訳者である高井ゆと里さんと、『トランス男性によるトランスジェンダー男性学』などの著書である周司あきらさんの共著で、トランスジェンダーに関する決定版的な入門書と言える新書『トランスジェンダー入門』が発売されました。『トランスジェンダー問題』は本当に画期的な、素晴らしい内容だったのですが、いかんせんボリュームがすごくて中身も少々難しい、専門書的なものであったことは否めませんでした。そこで、もっと日本の読者に向けて、トランスジェンダーがどのような人たちで、性別を変えるには何をしなければならないのか、どのような差別に苦しめられているのか、そして、この社会には何が求められているのか、といったことの全体像をわかりやすくまとめた入門書があるといいよね、ということで、この新書が作られました。トランスジェンダーについて知りたい当事者や支援者をはじめ、あらゆる方に読んでいただきたい一冊です。
ざっと、章ごとに内容をご紹介します。
第1章「トランスジェンダーとは?」は、トランスジェンダーがどのような人たちかという基本的なことを解説している章ですが、なぜ「心と体の性が一致しない」という言い方は不正確なのか、出生時に割り当てられるとはどういうことなのか、なぜ「FTM、MTF」という言い方ではなく「トランス男性、トランス女性」と言うようになったのか、といったことから、ノンバイナリーはすべてトランスジェンダーに当てはまると言えるが、ノンバイナリーの中には自身をトランスと認識していない人もいるということ、生き延びる手段を模索していった結果、移行先の性別に適応していったというトランスの方もいること、女装をしている男性とトランス女性は別物であるが、女装して日常生活を送れることで男としての生活を手放した人がいて、トランス差別を受けている、そのように「同じ差別の雨に打たれている人々が集まるアンブレラ」としてトランスという言葉が使われることがあるということなど、目から鱗が落ちるような、「そうだったのか!」と膝を打ちたくなるようなお話がたくさん書かれています。
大事なことなので、少し詳しくお伝えすると、「心の性」「身体の性」が、「出生時に割り当てられた性別」「ジェンダーアイデンティティ」に置き換わったことには、ジェンダーアイデンティティは社会的に獲得されるものであるのに、「心の性」という言葉には自分一人の認識であるというニュアンスがあり、あたかも自分勝手に変えられるようなものであるとの勘違いを生みやすいということ、「身体の性」が、実際は身体特徴は変えられるにもかかわらず、変更不可能であるかのような印象を与える、ということがあります。それが、「出生時に割り当てられた性別」に言い換えられた理由です。「割り当てられた性別で生きなさいという命令は、間違った課題だった」のです。
第2章「性別移行」では、トランスとしての自己を発見するプロセスはトランスジェンダーに「なる」プロセスであるということ(精神的な性別移行)、そこには、1.「らしさ」の課題と混同する、2.同性愛者と混同する、という困難がつきまとうということ、トランスフォビアが深刻な場合、時間がかかるということ、そして、社会的な性別移行、パスと埋没の話などが語られています。
第3章「差別」では、学校や就労の現場での差別について、「在職トランスは茨の道」であるということ、トランスミソジニーの問題、貧困、メンタルヘルス、性暴力の問題について語られます。「不利益を被るように社会ができあがってしまっている」ことをご理解いただけると思います。
第4章「医療と健康」では、国際社会が「脱病理化」に動いてきたこと、一方、医療との関わりは無くなったわけではなく、「健康が集団として剥奪されている」こと、日本の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」についての評価、世界の状況などについて解説されています。
第5章「法律」では、トランスの人の性別を正しい状態で公的に登録し直す「性別承認法」が求められるということ(人権モデルへの転換)、世界の状況、実は特例法以前にも裏ルートで戸籍性の変更を達成した人もいたということ、そしてLGBTQ差別禁止法の必要性などについて語られています。
第6章「フェミニズムと男性学」では、トランスの人たちが求めてきたことはフェミニズムと多く重なっているということ、意思決定のプロセスに関わる必要性、そのほか、ジェンダー規範、男性学とのかかわりや、ノンバイナリーの政治について語られています。
トランスジェンダーが置かれている現状や当事者が直面しがちな困難をよく知らず(あるいは、実情をあえて見ようとせず)、“女子トイレや女風呂に男性が入れるようになる”などというデマに基づいた、まるでトランスの人が犯罪者であるかのようなヘイトスピーチが広まっていて(国会議員が「生理的な不安感がある」などという発言を弄する)深刻な事態になっていますが、この本が多くの人々に読まれ、トランスジェンダーに関する誤解や偏見が払拭され、正しい認識が広まっていくことを期待します。
INDEX
- アート展レポート:Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」
- Netflixで配信中の日本初の男性どうしの恋愛リアリティ番組『ボーイフレンド』が素晴らしい
- ストーンウォール以前にゲイとして生き、歴史に残る偉業を成し遂げた人物の伝記映画『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
- アート展レポート:第七回美男画展
- アート展レポート:父親的錄影帶|Father’s Videotapes
- 誰にも言えず、誰ともつながらずに生きてきた長谷さんの人生を描いたドキュメンタリー映画『94歳のゲイ』
- 若い時にエイズ禍の時代を過ごしたゲイの心の傷を癒しながら魂の救済としての愛を描いた名作映画『異人たち』
- アート展レポート:能村個展「禁の薔薇」
- ダンスパフォーマンスとクィアなメッセージの素晴らしさに感動…マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』
- 韓国のベアコミュニティが作ったドラマ「Cheers 짠하면알수있어」
- リュック・ベッソンがドラァグクイーンのダーク・ヒーローを生み出し、ベネチアで大絶賛された映画『DOGMAN ドッグマン』
- マジョリティの贖罪意識を満たすためのステレオタイプに「FxxK」と言っちゃうコメディ映画『アメリカン・フィクション』
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
SCHEDULE
- 12.13露出狂ナイト 〜DARK WORK〜年内ラストのBITCHな夜
- 12.14G-ROPE SM&緊縛ナイト
- 12.14SURF632
- 12.15PLUS+ -10th Anniversary-
- 12.15FOLSOM BLACK The Last of 2024