REVIEW
映画『ランナウェイズ』
世界を席巻したガールズバンド「ランナウェイズ」の誕生から崩壊までを、そしてジョーン・ジェットとシェリー・カーリーのせつない愛の真実を描いたトゥルー・ストーリー。シンデレラと呼ぶにはあまりにも熱くハードなレズビアン・アイコンの伝説が今、スクリーンによみがえります。若手女優の熱演と迫力あるライブもご堪能あれ!
この伝説のガールズバンドの誕生から崩壊までを、そしてメンバー内に生まれた恋愛や反目を、シェリー・カーリーの自伝をもとに、ジョーン・ジェットの監修によって描き出したのがこの映画です。
あの『トワイライト』シリーズのクリステン・スチュワートがタフなレズビアンのロッカーになりきり、『アイ・アム・サム』で各種新人賞を総なめにした天才子役ダコタ・ファニングが下着姿で絶叫するという、2人の若手女優の熱演がスゴイ! ビックリ仰天&拍手喝采モノです。
ランナウェイズといえば『チェリー・ボム』。映画でももちろん、ここぞという時に演奏されていますが、実は90年代、伝説のドラァグクイーンユニット「OKガールズ」がパフォーマンスし、当時のゲイクラブシーンに鮮烈なインパクトを与えた(ランナウェイズを知らない世代でも『チェリー・ボム』は知っている)のでした。
さて、多くの観客は、伝説のガールズバンドがどうやって誕生したのか、という関心でこの映画を観に行くことと思います。たしかに前半は、ロッカーを夢見る少女たちがスターダムにのしあがっていくシンデレラ・ストーリーといえるかもしれません。デヴィッド・ボウイに心酔していた(中学の卒業パーティでボウイの「薄笑いソウルの淑女」を口パクで演じるシーンが素敵です)ブロンドの美少女シェリー、生まれついてからずっとロック一筋だったジョーン、天才ドラマー・サンディは、音楽プロデューサーのキム・フォーリー(ゲイではないが、ちょっとクィアな香りのする人物)と出会い、ガールズバンドを組むことになります。トレーラーハウスでの練習中、即興であの名曲『チェリー・ボム』が誕生し、キムは15歳のシェリーを「吠えろ、リビドーを解放しろ、男たちの背中を爪で引っ掻くように歌うんだ」と焚きつけ、ロック魂を鼓舞していきます。それは、男が支配する社会への、女たちによる反逆(ある種のフェミニズム)でもありました。胸がカーッと熱くなるようなシーンでした。
ジョーンは初め、ドラムのサンディと意気投合し、友達のような恋人のような関係でした。が、シェリーの美貌に惚れ、しだいにシェリーに優しくしていきます。ランナウェイズはメジャーデビューを果たし、一気にスターダムへとのしあがっていきます。その成功の頂点を象徴するのが、日本での公演でした。
しかし、そんな夢のような時間は長くは続きませんでした。すべてがガラガラと音を立てて崩れていきます。それは、ランナウェイズというバンドだけでなく、ジョーンとシェリーの関係の終焉をも意味していました…。ラストシーンはとてもせつなく、ホロリとさせられます。
現在のジョーンとシェリー
(2010年のサンダンス映画祭)
ここからは映画以後の話です。ランナウェイズ解散後、ジョーンはソロとして活動すべく、ニューヨークのレコード会社を回りましたが、すべて断られました(扱いにくいというイメージ、そしてレズビアンだという噂が障壁となったようです)。しかし彼女は、自身のレーベルを立ち上げ(女性として初)、1980年、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツとして成功を収め、2ndアルバム「I Love Rock & Roll」が大ヒットし、アーティストとしての自立を獲得していきました。レザーを着て3コードをかき鳴らし、「立ち上がれ!」と聴衆を挑発するジョーンは、真のロッカーに必要なすべての要素を兼ね備え、「私も彼女のようになりたい」と思わせる、ロック女子たちのアイコン(そして偉大なレズビアン・アイコン)になりました。
ジョーンは長い間、レズビアンだという噂を確定も否定もせず、「関係ないね」と答えることを拒否してきました。が、後年、彼女は「アウトしたレズビアンのロッカー」と書かれることを認めたのです(詳しくはこちら)
サンダンス映画祭で『ランナウェイズ』が上映されたとき、数十年ぶりにジョーンとシェリーが同じステージに立ち、人々を感動させました。女優の道を歩んだシェリーは「会った瞬間すぐに、彼女はロックのゴッドマザーになると思った」と観客に語りました。「その確信は正しかったわ」
<ストーリー>
1975年のLA。ロックスターを夢見る15歳のジョーン・ジェットは、クラブで出会った音楽プロデューサーのキムに自分を売り込む。ロックは男のものと考えられていた時代、キムはジョーンのバンドに、起爆剤として“普通の可愛い女の子”には飽きたらないセクシーなシェリー・カーリーをボーカルとして加えることを思いつく。メンバーは10代の女の子だけ、歌詞は過激、メロディーはガンガンのロックという魅力的なガールズバンド「ランナウェイズ」が誕生した。しかし、成功と引き換えに、バンドはさまざまなトラブルを抱えることになる…
『ランナウェイズ』
2010/米/監督:フローリア・シジスモンディ/出演:ダコタ・ファニング、クリステン・スチュワート、マイケル・シャノン、スカウト・テイラー=コンプトン、ステラ・メイヴ、アリア・ショウカットほか/配給:クロックワークス/シネクイントほか全国でロードショー公開中
映画『ランナウェイズ』予告編
ランナウェイズの日本でのライブ(1977年)
INDEX
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
- ただのラブコメじゃない、現代の「夢」を見せてくれる感動のゲイ映画『赤と白とロイヤルブルー』
- 台湾映画界が世界に送る笑えて泣ける“同性冥婚”エンタメ映画『僕と幽霊が家族になった件』
- 生き直し、そして希望…今まで観たことのなかったゲイ・ブートキャンプ・ムービー『インスペクション ここで生きる』
- あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
- 世界をトリコにした名作LGBTQドラマの続編が配信開始! 『ハートストッパー』シーズン2
- 映画『CLOSE クロース』レビュー
- 映画『ローンサム』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『ココモ・シティ』(レインボー・リール東京2023)
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- 映画『マット』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『秘密を語る方法』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『孔雀』(レインボー・リール東京2023)
- クィアな若者がコスメ会社で働きながら人生を切り開いていくコメディドラマ『グラマラス』
- 愛という生地に美という金糸で刺繍を施したような、「心の名画」という抽斗に大切にしまっておきたい宝物のような映画『青いカフタンの仕立て屋』
SCHEDULE
- 05.03ゆるぽナイト -GW SPECIAL-
- 05.03露出狂ナイト LOVE AND WATER -褌太郎バースデーBASH-
- 05.04アスパラベーコン -ゴールデンウィークスペシャル-
- 05.04雄っぱいナイト!3
- 05.04Gay Spiral x BOXER 同時開催